青少年養育支援センター「陽氣会」代表の杉江健二です。名古屋で里親（ファミリーホーム）をしながら、2013年に当会を設立し、一貫して児童虐待を減らす活動に取り組んできました。

私がこの活動をはじめたきっかけは、自分の愛娘を障害で亡くしたことで、今この世に生きているすべての若者に「生かしの道」を拓いてあげたいと思うようになったことです。
私は名古屋市内で親子二代にわたり、約30年にわたり里親をしています。これまで30人以上の里子の養育に関わらせてもらってきました。以前、両親が里親をしていた頃は非行傾向にある少年・少女が里子として委託されることが多かったのですが、今はほとんどが親から虐待をされた子ども（被虐待児童）たちです。

発達に問題のあるお子さん、愛着障害のお子さんも多く、長年、養育の難しい里子さんと向き合ってきました。（自分で言うのも恥ずかしいのですが）親子二代にわたりよく頑張ってきたと、それまでの活動にそれなりの自負を持っておりました。

しかし、十数年前に娘を亡くしてから、「本当にそれでよいのか・・・」「里親として被虐の里子たちを養育しているだけで満足してよいのか・・・」と、自分たちのしている活動に少し疑問を感じるようになったのです。

いつしかその疑問は、せっかくこの世に愛されるべき存在として生まれてきたのにもかかわらず、親から虐待をされる子どもたちがこれほどまでにも大勢いることへの憤りと変わっていったのです。

そして今からちょうど１０年前、その思いが行動へと移行させる決定的なことが起こったのです。

それは、なんと我が家のすぐ目の前に名古屋市児童福祉センター（名古屋市児童相談所）が引っ越してきたのです。歩いて数十歩という本当に目と鼻の先の場所に。

▲左：名古屋市児童福祉センター（児相）　右：青少年養育支援センター陽氣会

この至近距離に児相が引っ越してきたことで、これまで被虐児の里子を通して見てきた「児童虐待」という社会問題を各段に身近に感じることとなりました。

ある初夏の午後、私の家のすぐ目の前にある児童相談所の屋上あたりから、おそらく一時保護されていると思われる子どもが「ママー、ママー」と泣き叫ぶ声が聞こえてきたのです。そしてまた次の日にも、今度は中学生くらいの男の子の声で「ちくしょー、ちくしょー」と大声で叫ぶ声が私の耳に聞こえてきたのです。

私からその児童相談所内の一時保護所から叫ぶ子どもたちの姿を確認することはできませんでしたが、確かに聞こえたのです。

私は目の前にある児相に併設されている「一時保護所」にいるその子ども達の悲痛な叫び声を耳にし、

「本当の児童福祉とは、虐待をされる子どもたちや里親宅に委託されてくるような子どもたちをこの社会から一人でも減らしていくことではないか」

と気づいたのです。あの子ども達の叫び声が今の私の活動の原点になっています。

それがきっかけで、里親としての活動に加えて、児童虐待の発生を予防する取り組みを始めました。多くの子育てに悩む親の声に耳を傾け、どうしたら叩いたり怒鳴ったりしないで子どもを育てられるのか、子育てのしんどさをどうやったら軽減してあげられるのか、真剣に向き合ってきました。

そして、我が家に隣接していた空きビルを購入し「青少年養育支援センター陽氣会」を立ち上げ、当会独自の「ＳＳ式イライラしない子育て法（ＣＰＡ）」（注１）を開発し、子育て中の親に向けてのレクチャーはもちろん、子育て支援者に向けての講座やトレーナーや講師などの指導者養成をはじめとし、児童虐待防止に関するさまざまな活動に取り組みはじめました。

▲「イライラしない子育て講座」にはママはもちろん、様々な立場の子育て支援者がまなびを求めて受講しに来ています。

▲「CPAトレーナー養成講座」には、保育士、児相職員、里親など、多くの子育て支援関係者が受講しており、現在全国に４５０名の指導者がいます。

（注１）暴力や暴言などの脅しではなくコミュニケーションによって子どもを育てる「SS式イライラしない子育て法®」。現在、全国のさまざまな場所で「イライラしない子育て講座」を年100回ほど開催し、受講者は年間2000〜3000人を数えます。また、この子育て法は、2015年より名古屋市において児童虐待を行った保護者への再発防止の為の支援事業に採用され、多くの実績を挙げています。また、子育て支援者にとっても、この子育て法は実際の支援に活きる「まなび」となっており、各方面から好評をいただいています。