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矢野氏は、中学校教師を経て児童自立支援施設に勤務された経歴をお持ちです。
40歳から地元の大学院に進学。その後NPO法人おおいた子ども支援ネットを立ち上げられました。
今回は、子ども・若者支援の現場についてご講演いただきました。
今回の講演者
矢野 茂生 氏
特定非営利活動法人 おおいた子ども支援ネット 理事長
講演内容① 「下流に流れ着いた方々」に対応する仕組み
講演内容② 「ライフコースをサポートする」
矢野氏が設立した「特定非営利活動法人おおいた子ども支援ネット」について、詳しく説明していただきました。
この法人は、「子どもの人生全体(ライフコース)をサポートできる組織」を作ることを目指しています。そのため、子どもの成長段階に合わせて様々な支援を行っています。
役員と職員合わせて60名で、「なないろの未来へ」というテーマを掲げ、「子ども事業部」と「ソーシャル事業部」に分けて活動しています。
おおいた青少年総合相談所
今回は、その中でも特に「総合相談所」について詳しくお話いただきました。
2013年に大分県で若者が暴行されて亡くなる事件がありました。この事件は全国ニュースでも報道され、被害者は朝、車の中で亡くなっているのが発見されました。加害者の中には中学生もいて、「まさか死ぬとは思わなかった」と話していたそうです。加害者の家族の中には、様々なところに助けを求めていたにもかかわらず、適切な支援につながらなかったことが分かりました。この事件がきっかけとなり、おおいた子ども支援ネットが設立されたのです。
この事件をきっかけに、これまでバラバラだった相談窓口を一つにまとめようという動きが起こり、大分県が「おおいた青少年総合相談所」を設置しました。平成30年からは、おおいた子ども支援ネットが県から委託を受けてこの相談所を運営しています。相談所では、「おおいた子ども・若者相談センター」や「おおいたひきこもり地域支援センター」など、子どもや若者のあらゆる相談、そして年齢に関わらずひきこもりの方の相談に対応しています。
アフターケア事業
今回のテーマに特に関係するのが、「児童アフターケアセンターおおいた」が行っている「アフターケア事業」です。地域によっては、里親さんでもこの事業を知らない人がいるかもしれません。児童養護施設は組織として運営されていますが、里親さんは個人で活動しているため、必要な支援を社会に求めにくい状況にあるかもしれません。
矢野さんは、児童養護施設出身者だけでなく、里親家庭で育った人も対象としたアフターケア事業を大分県全体に広報しています。
また、児童養護施設や里親家庭で育った子どもだけでなく、一時的に保護された子どもも、過去に何らかの形で社会的養護を受けていた子どもです。
矢野さんは、「本人にレッテルを貼るようなことはしたくないので、虐待を受けた経験があるとか、長い間困難な状況の中で育ってきた子どもたちを支援しています。『おおいた地域若者サポートステーション(サポステ)』を含めた4つの事業のうち、3つを私たちの法人が運営しているので、縦割り行政の弊害がなく、長い間困難を抱えている子どもたち、そしてその親や家族を支援できています。」と話していました。
就労に関する相談窓口である「おおいた地域若者サポートステーション(サポステ)」は別の法人が運営していますが、同じ3階建ての建物の中で、他の機関と連携して「おおいた青少年総合相談所」として活動しています。
「相談内容が外部に漏れたり、嫌な思いをしたりしないか心配で相談をためらう人や、相談したら色々なことを要求されるのではないかと心配する人もいるため、ウェブサイトから気軽にアクセスできるように工夫しています。」とのことです。
令和3年度の相談状況
年間約1万件の相談を受けており、「アフターケアおおいた」では、生活相談として薬の大量服用の相談から電気料金の支払いに関する相談まで、様々な相談があったそうです。また、コロナ禍で仕事の相談が非常に増えたと言います。仕事を失うと収入がなくなり、住む場所の問題も出てくるためです。
「えんじゅ」:アフターケア事業の全国ネットワーク
矢野氏は、アフターケア事業を始める前に、全国のアフターケア事業がどうなっているのかを調べました。その結果、各地で行政が予算をつけて事業を行っているものの、全国的に統一された取り組みはなく、地域によって状況が大きく異なることが分かりました。
そこで、「アフターケア事業を行っている人たちが横のつながりを持つことが大切だ」と考え、2018年6月にアフターケア事業の全国ネットワーク「えんじゅ」を設立しました。現在、北海道から沖縄まで34の団体が加盟しているそうです。「えんじゅ」は児童福祉法の改正によって法律にも位置づけられ、施設退所後も長く支援を続けられるようになりました。
「自立支援」ではなく「育ちやすさ」
矢野氏は、「私たちは『自立支援』という言葉をあまり使っていません」と言います。「自立支援」という言葉は抽象的で分かりにくいため、「自立支援とは何か?」という根本的な問いにつながります。そのため、「自立支援」ではなく、「育ちやすいか、育ちにくいか」という視点を重視しているそうです。
「育ち」は、子どもの頃だけでなく、若者になっても高齢になっても続くものです。「育ち」に必要なことは何か?それは、以下の6つの要素だと考えています。
これらの6つの要素は、矢野さんが行う全ての事業(児童発達支援センターなども含む)において、「育ち」を支える上で重要な要素だと考えています。そして、これらの要素を実現するためには、「伴走できる人」と「過程を大切にしてくれる人」の存在が不可欠です。矢野さんの行うアフターケア事業では、本人の意志や状況に合わせてしっかりと寄り添い、一緒に考えてくれる人がいることを大切にしています。これが、矢野さんの考える「自立支援」、つまり「育ちやすさ」です。
「汽水域」の大切さ
環境が変わる時に、その間にある「汽水域」(海水と淡水が混じり合う場所)を大切にすることが重要です。例えば、里親家庭から就職する際には、里親家庭と就職先の間の移行期間を大切にするということです。この期間は、様々な環境を行き来したり、人とつながったり、情報や経験を共有したりする場となります。例えば、食事会を開催する際に、現在支援している里親だけでなく、他の里親も対象にすることで、みんなで子どもたちを見守る体制を作ることができます。
「まち」と取り組む2つの事例
矢野氏は、「まち」(地域社会)と連携した2つの事例を紹介してくださいました。
杵築プロジェクト: 杵築市と連携し、アパートで一人暮らしの体験をしながら、仕事体験もできる機会を提供しています。地元の企業では後継者不足が問題となっているため、社会的養育環境で育った子どもや困難を抱える子どもたちに仕事見学やインターンシップの機会を提供し、将来のキャリアについて考えるきっかけを作っています。
この取り組みは新聞にも取り上げられました。農業分野では、一人で黙々と作業できる、コミュニケーション能力があまり必要ない、作物の成長を毎日見られる、といった特徴があり、人間関係が複雑な大きな組織よりも小さなチームで働く方が向いている若者もいます。インターンシップを通して、自分に合うかどうかを確かめることができ、もし合わなくても、他の仕事に挑戦できます。このプロジェクトには、里親家庭の子どもたちも毎年参加しています。
18歳で就農する若者は地域にとって貴重な存在となり、地域の人たちから大切にされ、一人暮らしをしていても地域の人から食事に誘われるなど、人と人とのつながりを築きながら社会的な自立を目指しています。
CONET(connect & network)プロジェクト: 施設退所後の若者(ケアリーバー)たちが、自分たちの視点から「どんなつながりを持ちたいか」を考え、実現するために立ち上げたプロジェクトです。昨年度から始まり、今年度から日本財団の協力を得て事業化されました。
アフターケアセンターでは、支援の必要性をある程度想定できますが、実際に支援を進めていく中で、予想外の課題に直面することが多く、このプロジェクトが立ち上げられました。現在は、3名のケアリーバーを中心としたチームで運営しています。
メンバーの一人は里親家庭出身で、一度就職しましたがうまくいかず、センターに通っていました。その後、このプロジェクトに挑戦したいと申し出て、現在は契約社員として働いています。
他の二人は、大学生と過去の事業でつながりのあった人で、非常勤で働いています。CONETのチラシは、彼らが半年かけて自分たちだけで作成しました。大人が事業として進めていればすぐに作ってしまうかもしれませんが、彼らは言葉の一つ一つを丁寧に選び、Instagramの開設にも半年かけながら、自分たちが本当に繋がりたいという思いを込めて取り組みました。
CONNECT STATIONという場所を確保し、日本財団の資金で事務所を用意し、人々が集える場を作りました。12月2日に開設予定です。彼らは様々な活動を行っており、自分たちが育った施設以外の施設も見たいという要望から、県内の全ての施設にアポイントを取り、見学に行きました。自分たちの環境との違いを理解しながら、みんなが集える場とはどんなものかを考えています。
これからのこと:SST(ソーシャルスキルトレーニング)の導入
10月に実施した自立支援に関する取り組みについて伺いました。児童養護施設や里親家庭にいる中学生に向けて、「自分たちがどのように繋がりたいのか」を発信するプログラムを、日本財団の単年度事業として実施しました。このプログラムを通して、社会に出た時に頼れる先輩がいるという仕組みを作りたいと考えています。緊急性の高い場合は大人が介入することもありますが、これからの社会のつながりは、彼らのような若者たちと一緒に作っていくことが大切だと考えています。
ソーシャルワークが必要な時代
社会がどのように変われば、子どもたちが育ちやすい環境になるのでしょうか?
ひきこもりの人、社会的養護を退所した人、孤立して困っている子どもなど、一定数の困難を抱える人々は昔から、世界中どこにでもいます。しかし、今の時代は昔と違って、地域社会のつながり(地縁)が薄れてきており、自分だけの力(自助)では困難な状況になっています。地域社会の助け合い(共助)も、コミュニティが小さくなっているために難しくなっています。
公的な支援(公助)は行政からのものに限られ、里親は一人で行政の指示に従わなければなりません。
矢野氏は法人組織の代表として、制度に対して意見を言う立場ですが、既存の制度や「こうあるべきだ」という固定観念について、改めて考える必要があると感じています。
里親さんの孤独
大分の里親さんと話をする中で、多くの方が「里親は孤独だ」と感じていることが分かりました。子どもたちを社会の中で育てていくためには、里親さんやその家族が社会から孤立しないようにすることが大切です。里親を支援するフォスタリング機関はありますが、実際に里親として活動している方々がどのように繋がっていくかが課題です。そこで重要なのは、「繋がり方をデザインすること」です。
様々な人と話したり、事業を行ったりする中で、最も大切なのは「イメージを共有すること」です。イメージが共有できていないと、話している内容が食い違い、話がなかなか成立しません。例えば、ある人は八百屋の話をし、別の人は肉屋の話をしている、というように、全く違うことを話している状態になってしまいます。
ですから、関係者間で同じイメージを持つこと、共通の価値観で話せるようにすることが非常に重要なのです。
大切にしている想い
矢野氏が「自立支援」「社会的養護」「里親」「育ち」についてどのような想いを持っているか、3つのポイントにまとめます。
当事者の想いを大切にする: 何よりも、子どもや若者本人の気持ちを大切にしたいと考えています。しかし、中にはどのような想いや願いを持てばいいのか分からず、困っている若者もいます。そこで、彼らの可能性を信じ、可能性を中心に考えた支援(伴走)を行っています。
里親さんや社会の願いを大切にする: 里親さんや社会が持っている願いには、共通するものがあると考えています。行政との間で意見が合わない人もいるかもしれませんが、行政ともしっかりと話し合える関係を作っていくことが大切です。
抽象的な想いを具体的な取り組みに変える: 「想い」や「願い」といった抽象的なことを、具体的な事業や活動に落とし込んでいくことを重視しています。何度も計画を練り直し(デザインし直し)、社会と連携していくことを大切にしています。つまり、机上の空論ではなく、実際に社会と繋がり、社会の中で役立つ活動を行うことを目指しているということです。
参加者からいただいた質問
大学を卒業して認定子ども園で働いているのですが。辞めてしまい、落ち込んでしまいました。次の仕事を見つけないと、奨学金を全額返済しないといけません。元気づけるにはどうしたらいいのでしょうか。
矢野氏
ハローワークでは、会社側の条件をまとめ、求職者に提示しています。
国が若い力が欲しいなら、人にあった条件で会社は採用するべきなのです。
なので、ハローワークだけが仕事を見つける場ではないと思います。
地域の若者サポートステーションやアフターケアの事業所を通して、仕事を探せないかと思います。
相澤氏
一回やってみたい仕事をしたいと思う仕事に就いたけれど、うまくいかなくて、エンパワメントしていかなければならない状況ですね。そういった子ども達にどうやって寄り添い型のサポートをしていくのか。そういった点でのアドバイスがあればお願いします。
矢野氏
別の保育園でマッチングするかもしれませんね。「失敗した」という日本語ではなく、自分が苦手なことは何だったか。「こんな上司は無理」とか「こんなところが苦手だった」とか、苦手なことをまとめて、得意なこともみつけていくのが、僕らの通常の取り組みになります。
相澤氏
そういうところで、強みを考えて、選択肢を考えていければと思います。そういう意味で講演で、体験できる、体感できることは自立をしていく上で大切なファクターだと思います。
18歳の措置延長についてどのようにお考えですか。
自分には高校3年生の委託された子どもがいるのですが、3月以降の措置延長はお断りしようと思っているのです。冷たいと思われるかもしれないと思っています。
矢野氏
法改正で、児童養護施設や里親さんへの措置の上限みたいなのが、外れてしまいますよね。自治体との協議によるんだろうと思うのです。ただ自立援助ホームをやっていた人間として、長く入れるのであれば、親は変わらない方がいいと思います。
大事なのはその方がなぜ措置延長をする必要があるのかを、周りがちゃんと理解したり、本人がどう受け止めているのかがあり、里親さんに里親さんの事情があるわけですから、 措置延長が難しいのであれば、措置がなくても頼れる資源に替えてあげるようにします。
里親さんが、里親だから措置延長も何もかも受け入れる必要はないと思います。
里親さんの事情をフォローするように、地域や行政が考えて大人の判断や事情が子どもに不利益にならないように、デザインしてもらえたらありがたいと思います。
相澤氏
普通、委託をするときに里親さんの事情を考慮するはずですよね。
矢野氏
里親さんが判断するのは酷ですよね。
岩朝
実は里親サロンで、里親さんの話を聞いていて、先週のサロンの時にですね、自立支援計画とか養育の計画というのを、もらっていない里親が半数近くいるのです。
矢野氏
そういうところから声をあげていくのがいいと思います。大分でもそのようなことを聞いていて、行政が手続き的な部分にのみ徹しているようで、そういうことをされると私たちは運営・事業ができないですね。だからコミュニティを作り、その代表者が総意を行政に届ける必要があると思います。
相澤氏
今度、法改正で令和6年から重要な決定に際しては子どもの意見を聴取するということが、法律に書き込まれたわけです。里親委託のときから、解除されるとき、また自立支援計画を策定するときには、子どもの意見を聴くということになっています。検討するにあたって里親さんの意見を聴いて、里親さんにも参画してもらわないといけません。
子どもの意見を聴くということは、里親委託のときに子どもが知らなきゃいけないことになるので、里親さんにも知ってもらう必要があります。だからなんの計画もなく、少しずつ仕組みが変わっていくような制度改正がされたということです。
矢野氏
制度はわかりますが、里親さんたちが、『現場としてはこうなのです』というところを、たくさんすり合わせていって、釣り合いがあるところに希望の芽がでてくるのかなと思います。里親さんがエンパワメントされれば、委託児童にとっていい環境になるので、よく相澤氏がおっしゃる「親支援は子ども支援だよ」という一言は、まさにこれにも当てはまることなので、ぜひみなさん声を上げて言ってほしいと思います。
子どもの自己覚知、自己認知のために、里親としてできることは、具体的にどんなものがありますか。
矢野氏
何かひとつづつ、色々な失敗をしながら、生活の中なのでいろいろなことができると思います。得意なことと苦手なことは整理してもらえたらな、と思います。子どもの頃から、自分が何が得意で、何が苦手ということを、整理してあげると、子どもには得意をなるべく、くみ取ってあげるようにしてください。若者からの一番重い相談は「相談なんかしまって、すみません」ということです。人を頼るべきではない、自分を否定するところから入っていく相談者に対しては、気をつけます。
相澤氏
子どもに自己肯定感を高めるためには、普通のことができたら褒めるということが一番大事です。朝起きてくるとか、食器を片付けてくるとか、当たり前のことができるのは、すばらしいと思っています。当たり前のことが当たり前にできる素晴らしさを、子どもに伝えていくということが重要で、そうすると子ども「そうなんだ」と少しずつ自己肯定感を高めていくことになるので、そういう意味での自己覚知や自己認知へとつなげていくことが大事だと思っています。
退所した子どもたちとつながっていき、支えていきたいと思っているのですが、支援している中で大切にしていることは何でしょうか。
矢野氏
一番大事なのでは、理屈ではなくて、その方々が退所後、里親さんという帰る場所があるということです。あとは、色々なことが起こったときに里親さんだけでは対処できない場合、地域のいろいろな方々とつながってほしいと思います。
相澤氏
子どもたちは気を使いながら過ごしていることは間違いないのです。親子の関係であっても、親に遠慮していろいろ言えない子もいます。退所しても支えていきたいと思っているのは、日常の生活の中で、里親さんが自然にノンバーバルなコミュニケーションを通して、いろいろ伝えているのだと思います。そういうものが子どもに伝わっているのかどうかで、「この里親さんなら退所してでも戻ってこれる」と思えるようになります。退所前に里親さんの思いを委託児童にインプットしていくことが大事です。
地域の保健師とどのような連携をされているのか、保健師、保健センターはどのような役割が必要で、どんなことを求められるのか、教えていただければと思います。
矢野氏
この質問の回答に入るまでに、皆さんが保健師や保健センターと日常的に連携されたことはあるのでしょうか。
岩朝
一里親としてほとんどつながっていないと思います。
矢野氏
そうですよね。ひきこもりのセンターとはよく連携するのですが、やはり医療的ケアとか精神保健面でのケアが必要となるときに、ケアのできる専門職や機関が求められるのです。
里親さんたちも心に負担を強いているように思います。
なので里親さんが頼れるような組織になるといいなと思います。
岩朝
特別養子縁組の里親さんは保健師が関わることもあるかもしれません。養育里親さんは保健師の領域からは離れていると思います。児相のソーシャルワーカーとか児相の心理士とかとのつながりだと思います。
相澤氏
質問の意図からすると、里親委託するときの地域の中での社会資源の一つとしてネットワークを組んで、その機関の一つとして保健師さんとか保健センターが入ってもらって、何かのときにはすぐに相談できるように、里親さんが気軽に活用できる資源として重要です。
海外では社会的養護経験者がソーシャルワーカーの仕事に就いて、仕事として委託児童のサポートをしていると聞きます。日本では同様のケースはあるのでしょうか。
矢野氏
アフターケアの事業でいえば、施設出身者や里親家庭出身者がアフターケア実施主体者のところに就職して、自らソーシャルワークをやっているのは始まっています。
相澤氏
社会的養護出身者たちが、数として増えてきていると思います。
特にこれから、こども家庭庁になって子ども参画が進んでくると、社会的養護の関係機関とか、子ども家庭福祉分野の中にも、そういった人たちが増えていくと思います。
さまざまな事業を進める上で、イメージを共有することが大切とおっしゃっています。どのように事業方針や目標を共有していますか。
矢野氏
いろんな事業があるのですが、いろんな会議や話し合いをするときに、お互いのイメージのすりあわせを最初にします。イメージのすり合わせは、癖みたいになっているのですが、語り合い、話合いをして、いきなり議題に入らないことです。
相澤氏
イメージづくりというのは、アバウトのような感じをしていらっしゃる方もいるかもしれませんが、イメージってとても大事で、何か動かしているとその方向性が、見えてきます。
里親さんの場合にも、里親支援をどう組み立てるのかを考えるときに、事業を背景にイメージができると意外といいサポートができるようになることもあります。イメージを共有することは、私にとっても効果的な方法だと思います。そういう意味でみんながイメージを共有できると、持続可能になっていくと思います。持続可能性を考えることは大事で、オンライン里親会の中でも、どんな風に里親をサポートしていけるのかをイメージしていきたいと思います。
矢野氏が次にやりたいことがあれば教えてください。
矢野氏
やりたいことがいっぱいあるのですが、基本的には街づくりをしたいのです。
属性とか制度とかいろいろあったりするものを、とにかく街の中にまとめていく作業がしたいです。大分県には大規模で使われていない建物がたくさんあります。こういった建物を利用して、若者を集めて職業訓練にしたり、民泊をしたり、学びながら働ける生産学校にしてみるとかを考えています。
これだけの規模があれば、里親さんも委託児童をつれて、農業体験をしてみるのもありかもしれません。事業サイドで一か所にまとめて街を作りたいと思っています。
里親になることを考えています。委託児童を育てる中で、里親に求めるものはありますか。また子どもさんたちからこういう風にしてほしい、これが嫌といった声を教えてください。
矢野氏
子どもを育てる上で、大事にしてほしいということは、里親さんに求めるのは別として、自分の法人の職員に言っていたのは、「子どもに好かれよう」ではなくて、「子どもを好きになるのが大事」ということです。
つまり「愛」しかないのです。これが一つです。
もう一つは、自分の人生、例えば私の人生で言えば、自分の親のことを「お父さんありがとう、お母さんありがとう」と思い始めて、感謝するときは、親が死んだ後かもしれない。子どもとの日々を大切にする以上の価値は他にはないと思います。
嫌だった声は、里親さんには、「酒飲みながら説教してほしくない」とかですね。
他に嫌だった声はたくさんありますが、特別養子縁組と絡みますが、自立援助ホームで里親さんから預かった子どもさんで、里親さんが3歳から預かっていて、16歳までがんばったけど、高校も退学して、非行も激しくなって、面倒をみたいけど見れない。
自立援助ホームに委託児童が来て、1年くらい「里親が俺を見捨てた」といってました。
しかし職員の熱心な関わりもあり、里親家庭から離れてわかる、ありがたさを理解することができるようになっていきました。最後は普通養子縁組までに至りました。
子どもの気分、気持ちは毎日浮き沈みします。こちらがずっと愛していることが大切なのです。
里親家庭とつながりをもちつつ、実親への思いも断ち切れない子どもいると思います。実親との距離の取り方について、何かアプローチされていますか。
矢野氏
これは、子どもが実親のことをどう思っているのかを、職員に伝えてくれる関係ができているのかによります。その子の本当の声を聞けるような存在になっていれば、自ずから、アプローチの方法がわかるわけです。大人発信ではなく、子どもからの発信になります。そして発信したことを大人がどのように受け止めるかにかかっています。
「里親さんに気を使いながら、実親さんに会ってみたい。でも本当の親にあったら、里親さんが傷つくかもしれない」ということで気持ちが揺れているお子さんが何人もいました。
実際に会うのか合わないか議論するために、職員、里親を含めて話し合う場を持つことが大切です。その子の本当の声が聴けているのか、を意識してやっています。
「共に生きて、共に育つ」ということが大切です。
小児期の逆境体験から回復に必要なことも「無条件に愛されること」とあります。私は毎回のコミュニケーションがとても大切だと思います。暖かくて応答性のある関わりにより、子どもが大切にされていることを感じることができる生活が必要になります。良かったことも、嫌だったことも子どもとともに話ができるのが、養育の質をあげることにつながります。
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