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中学校教師から児童自立支援施設に転属し、40歳から地元の大学院に進学。その後NPO法人おおいた子ども支援ネットを立ち上げた矢野氏に、子ども・若者支援の現場のお話しをお聴きしました。
今回の講演者
矢野 茂生 氏
特定非営利活動法人 おおいた子ども支援ネット 理事長
講演内容① 「下流に流れ着いた方々」に対応する仕組み
もともとは中学校の教諭をしていた矢野氏は「学校勤務に馴染まなかったこともあり、子どもたちの中でも、非行少年と向き合い、そのような子どもたちと過ごすことが楽しかった」といいます。その後、児童自立支援施設に転属し、相澤氏が学院長をしていた国立武蔵野学院に勤め、その施設を豊かにするということに一生懸命になった一方で、「なぜこの子はこの施設にくることになったのか」という疑問を感じ始め、40歳から地元の大学院に進学。矢野氏が預かったケースに関して徹底的に洗い出しを行うことになりました。
そこで興味深かったことがあったといいます。
「児童自立支援施設に入所する子どもたち約280ケースのうち、偶発的な事件などを原因としたものは2ケースしかありませんでした。あとは幼いころからいろんな困難を抱えていました。もっと言うと、社会的養育の網に引っかからない子どももいました」
矢野氏はユニフォームを着た野球チームの写真を見せてくださいました。
「ここにいる子どもたちは、地域の中になかなか入れない、いろんな事件を起こした子どももいます。だけど、ユニフォームを着てグラウンドに出ると、1人の若者として本当に一生懸命なんです。そして県知事から賞をいただき、メダルをかけていただきました。」
今でも子どもたちと交流があるそうですが、残念なことに、1人自殺してしまった子どもさんもいらっしゃるそうです。
司法支援や福祉支援は多くの場合「下流に流れ着いた方々」に対応する仕組み
子どもたちへのサポートシステムは、社会の下流にあります。何か事件を起こしたら支援や福祉に出会うとか。措置されるなどです。
矢野氏は問いかけます。「川の上流の方で鬼みたいな人が子どもを下流へ次から次へと投げていたらどうでしょう?」
いくら下流でサポートシステムを作っても難しい。だからこそ「ライフコースを長く応援できる法人を創りたい」というのが、法人設立の動機だったそうです。
漂流する子ども・若者
今みている世界は社会の仕組みがあり、社会の属性、「高齢者」や「子ども」といったものと、そのリスクに基づいて制度が設計されていて、そのためにいわゆる縦割りになっており、制度の隙間があるといいます。
社会的規範、不登校の問題も学校が対応するという認識が根強いそうです。
制度の隙間、社会的規範により、子どもが学校からドロップアウトすることになります。
そしてドロップアウトした人に「ひきこもり」や「失業者」といったレッテルが貼られます。ただ、大きくいうと、制度の隙間にあって、その子のもっている属性、特性によって、または社会規範になじめずに社会に漂流している子どもや若者がたくさんいるということです。
ご縁のあった子ども・若者
もともと家族に恵まれずに社会的養護の環境にいて、何かしらのアクションがあって矯正施設にいって、生活保護にいって、また矯正施設にいって・・・というように、行き来する人がたくさんいます。私たちの目の前にいる困難を抱えた子どもはどんな方なのか、言語化するということも大事です。矢野氏は長年ずっと子どもと関わっている中で、今のスタンスができていったといいます。
「僕の今のスタンスは課題解決とかジャッジする仕組みではなく、その子ども自身が何が得意で、何が苦手なのかをしっかり把握します。それを知ることで合理的配慮を求めることができるようになります。そういった本人さんへの自然な感じでの自己覚知、自己理解とかいったことにもっていくためのサポートはどういうものか、ということに取り組んでおります。」
講演内容② 「ライフコースをサポートする」
〇特定非営利活動法人 おおいた子ども支援ネット
特定非営利活動法人おおいた子ども支援ネットについてお聞きしました。
「ライフコースをサポートできる法人」を創りたいということで、上流になる幼児期では、3歳児健診で発達の遅れや育ちの遅れが指摘されたお子さんのために、児童発達支援センターを創設しました。矢野氏は「児童発達支援センターで子どもやご家族に対してアプローチすることで、若者期に私に出会うことがないような思いです。」とおっしゃいます。学童・青年期では、放課後等デイサービスや子どもシェルターを実施し、青少年の総合相談所もあるそうです。
役員・職員60名体制で「なないろの未来へ」ということをテーマに掲げ、「子ども事業部」「ソーシャル事業部」に分けています。
〇おおいた青少年総合相談所
本日クローズアップする、総合相談所についてお話しくださいました。
「2013年に大分県で若者が暴行死したという事件がありました。この事件は全国報道もされて、被害者は、朝、車の中で亡くなっていました。加害者の中には中学生もいて、「まさか死ぬとは思わなかった」と言っていたそうです。その加害者の何人かについて、家族がいろいろなところにサポートを求めていましたが、適切なサポートにつながらなかったということが判明しました。それが特定非営利活動法人おおいた子ども支援ネットの誕生の契機になりました。」
この事件があった際に、バラバラにあった相談機関を、ワンストップにしようとして、大分県が設置した機構が、おおいた青少年総合相談所で、平成30年から県から相談所を受託。おおいた子ども・若者相談センターやおおいたひきこもり地域支援センター、つまり、子ども・若者のあらゆることと、ひきこもりの方は年齢も関係なく、対象の方にアプローチしています。
〇アフターケア事業
今回のテーマに関係があるのは、「児童アフターケアセンターおおいた」で、アフターケア事業とよばれています。地域によっては、聞いたことがないという里親さんもいるかもしれません。児童養護施設は組織ですが、里親さんは1人親方という形になるので、里親さんが社会に資源を求めにくい環境にあるかもしれません。
矢野氏は、児童養護施設出身者のためのアフターケアだけでなく、里親さん出身者のためのものであることも大分県全域へ広報しているそうです。
また、児童養護施設や委託児童だけでなく、一時保護をされた子どもも、社会的養護にいた子どもです。
「本人にラベルを貼るようなことはしたくないので、どちらかというとこちらは被虐待とか長い育ちの中で困難な状況であった子どもに対しては、動きます。「おおいた地域若者サポートステーション」を含めた4つのうち、3つが私どもの法人が受託していますので、縦割りにすることなく、長く困難を抱えている子どもたち、そして親、家族を支援しています。」と話してくださいました。
他にも、就労、つまり働くということに関する相談機能「おおいた地域若者サポートステーション(サポステ)」を別法人が運営し、3階建ての建物で別法人も含めて「おおいた青少年総合相談所」という名前で活動しておられます。
「相談して、相談内容が漏れたり、嫌な思いをしないだろうかといったことや、逆に相談したらいろいろなことを求められてしまったら相談したくない人もいますので、Webからアクセスしやすいようにといった工夫もしています。」
〇令和3年度相談援助データ
年間約1万件の相談実績があり「アフターケアおおいた」における相談内容としては、生活相談では、大量服薬の相談から電気停止の相談まであったそうです。
また、このコロナの中で就労相談が非常に増えたといいます。仕事がなくなると収入もなくなるので、住居の問題も出ます。
〇えんじゅ
矢野氏はアフターケア事業を受託する前に、アフターケア事業が全国でどうなっているのか調査したそうです。そうすると、わかったことがありました。各地でアフターケア事業というのを行政が予算をつけて、国の予算と地域の自治体の予算で、あわせて事業を作ります。
この事業が全県にないこと、各市区町村にある事業ではないので、標準化的な取り組みは難しく、地域によって人口も退所者も違うので、決まった形は難しい。しかし、それぞれが居場所的な事業やソーシャルワーク的な事業をしていたりしました。ただし、事業につながりがなかったことがありました。「アフターケア事業の実施者が横につながっていくことが大事ではないか」ということで、2018年6月にアフターケア事業全国ネットワーク「えんじゅ」を設立しました。現在のところ、北海道から沖縄まで34団体が加盟しているそうです。自主事業で実施しているところもあり、全体としての数は把握はできていないそうです。「えんじゅ」は児童福祉法改正により、法律に位置付けられたものになりますので、退所後も長くみれるようになっています。
〇育ちやすさを考える
矢野氏は「われわれは「自立支援」という言葉をあまり使っていない」といいます。
「自立支援」という言葉は粗い感じがして、そもそも「自立支援とは何か?」ということもあり、「自立支援」ではなく、「育ちやすいか、育ちにくい」ということをよく使うそうです。
「育ち」というのは、子どもの頃もそうですし、若者になっても高齢になっても、「育ち」というのはあると思います。「育ち」に必要なことはどういうことでしょう。
「この6つのことが、われわれがソーシャルワークの事業とか、児童発達支援センターもそうですし、すべての事業において、「育つ」ための要素になると、われわれは思っています。そこに条件がいくつかあって、『人』の存在なのですが、自分一人ではなかなかこの6つのことを達成できません。そこで「それらに伴奏できる『人』がいる」かどうかです。
われわれ、アフターケア事業は、大分の場合、本人の意志や状況にあわせて、しっかり伴走しようとしています。もうひとつは「それらを大切にしてくれる『人』がいる」、つまり過程を大事にすることです。一緒になって考えてくれるかどうかにあります。
言葉にすると、抽象的になりますが。抽象的なものを大事にしながら、育っていくのは目の前の方なので、その人を一人にせず、かならず寄り添う人がいるのか、これらが私の言う自立支援、育ちやすさになります。」
〇グラデーションの大切さ
育ちやすさを考えるときに、ある環境から別の環境に行くときに、相澤氏から学んだことでもあると思いますが、例えば里親家庭から就職するとかいうときに、その間に汽水域、つまり海水と淡水の中間領域がありまして、汽水域を大事にしましょう。リービングケアからアフターケアを行き来しながら、次のステップへと移行していきます。
汽水域では、異なる環境をいったりきたりし、人がつながっており、メニューを共有するといったこをが必要になります。メニューについては、例えば食事会を発信するときに、今支援している里親さんだけでなく、その他の里親さんにも対象にして、みんなで委託児童を見守るようにすることがあげられます。汽水域がとても大事だと思っています。
ですので、われわれは「育ちやすさ」と「汽水域」を大事にしながら、自立支援というものをしています。
〇「まち」と取り組む
ここで2つの事例を取り上げてくださいました。
杵築(きつき)プロジェクト
市町村とともに取り組む、杵築(きつき)プロジェクトという名前なのですが、杵築市の中でアパートをもって、そのアパートの中で養護施設や里親さんの家庭から、一人暮らしの体験をすることで、仕事体験をしてもらう機会も設けているそうです。
「地元産業の後継者不足という問題もあります。そこで、社会的養育環境で暮らす子ども、困難を抱える子どもに門戸を開いて、仕事見学、仕事体験、お金が生じるインターンシップに取り組んでいます。自分の少し先のキャリアを考えるための事業として考えています。そのことが新聞にも取り上げられました。」
そして、農業に従事する児童養護施設出身者を紹介しているそうです。
農業を細かくみると、一人で黙々と働くことができるとか、コミュニケーションの力はそんなにいらないとか、毎日農産物の成長を楽しみにできるとか、何か強いこだわりがあったとしても、大きな組織というよりも、小さなチームでやれるので、お互いの人間関係がわかればいいので、若者たちは仕事に求められることを確かめることができます。
このことを確かめてもらうことの中には実は、お金をもらいながらインターンシップで入ってみて、もしダメでも、この地域にある他の産業にアプローチできます。毎年、里親さんのもとにいるお子さんたちにも参加してもらうようになっているそうです。
「18歳の若い就農になるため、地域にとって宝物で、地域の方からすごい大事にしてくれて、一人暮らししていても、「ご飯食べにおいて」と地域の方から声かけてもらえます。人のつながりをしっかり作りながら、社会的な自立を目指すことに取り組んでいます。」
CONET(connect & network)プロジェクト
もう一つの事例は、ケアリーバーとよばれる退所した若者たちが、当事者目線で思っていることを話をする中で、本人たちが望むつながりをデザインしたい、ということでできたCONET(connect & network)プロジェクトで、昨年度から始めて、今年度から事業化し、日本財団協力を得て運営しているそうです。
アフターケアセンターで、サポートの必要性の枠は想定できても、支援をすればするほど、出会えば出会うほど、予期していなかった、準備していなかった、もうちょっと考えればよかったというような事例がたくさんあり、それが立ち上げたきっかけですが、今は3名のケアリーバーを真ん中にしてチームにしているそうです。
「1人目の里親家庭出身の子は一回就職したんだけど、うまくいかなくてドロップアウトしてしまって、センターに通っていたんですけど、チャレンジしたいとということで、契約なんですけど、常勤としてうちで働いてます。2人目の子は大学院生で、いろいろあってぜひ参加したいということです。3人目の子は最年長なんですが、過去の事業との関係でつながっていた人で、非常勤で働いてもらっています。」
CONETのチラシは本人たちだけで半年かけて作ったそうです。
「例えば、大人がこれを事業としてみたら、さっさと作るように言われますが、このチラシは言葉の一つ一つを丁寧に選択して、instagramの開設に半年かかりながら、本人たちは一生懸命やりました。自分たちがつながりたい、という思いでやってくれました。私たちはCONNECT STATIONという場所を確保し、日本財団から資金で、事務所を用意して、その場所に人が集うイメージでした。12月2日に開所することになりました。
本人たちはたくさんの活動をしております。本人は自分たちが育った施設以外の施設を見たいというリクエストをして、県内のすべての施設にアポイントをとり、施設見学をしました。自分たちの置かれた環境との違いを理解しながら、みんなが集える場とはどんなものかを考えてました。」
〇これからのこと SST(ソーシャルスキルトレーニング)を始めていきたい
10月に実施した自立支援に関する取り組みについてお聞きしました。
「児童養護施設や里親のところにいる中学生に向けて、自分たちがどのようにつながりたいのかを発信したプログラム日本財団の単年度事業なんですけども、どんなふうにこれをデザインできるのかを、考えていきながら、社会に出た時に頼れる先輩がいるという仕組みになればいいかなと思います。その中で、より緊急的なことがあれば大人が登場するかもしれませんが、やっぱりこれからの社会のつながりのデザインは、彼らみたいな人と一緒に、育っていくようになればいいかなと思います。」
〇ソーシャルワークが必要な・重要な時代
社会がどのようにしていけば、育ちやすい環境になるのでしょうか。
「ひきこもりでも、社会的養育退所者でも、子ども孤立で困っている方でも、一定層、この国には昔から、世界中どこにでもいらっしゃると思います。ただ今の時代違ってきているのは、地縁といった「縁」がみたいなのが、薄くなってきていて、自助では困難であるし、共助といってもコミュニティが小さくなって、公助は行政からのもので、里親やっていると、一人なので、行政の指示は聞かなければなりません。私は法人組織なので、制度に対して「そうじゃない」といいたい方なのですが、形があるもの、これはこうすべきだ、みたいな形について考えたいと思っています。」
〇里親さんの孤独
大分の里親さんと話しをする中で、みなさんおっしゃるのは「里親は孤独」ということだそうです。子どもたちを社会の中で育てていくためには、里親さん、家族をどうやって、社会から孤立させないかということです。里親にはフォスタリング機関といったものがありますが、現場にいる親として活躍している里親のみなさんが、どうやってつながっていくのか。そういうときに一番大事なのは、「デザイン」だといいます。
「いろんな方と話したり、事業をしたりする中で、一番大事なことはイメージを共有することです。いろいろな事業もイメージが共有できていないと、話している角度が全然違ってくるので、ある人は八百屋の話をして、ある人は肉屋の話をしているということで、話がなかなか成立しないのです。ですからイメージを共有していくことは大事です。共通の価値観で話をすることができます。」
〇大切にしている想い
最後に「自立支援」や「社会的養護」「里親さん」「育ち」にどんな想いをもっているかというと、3つのことがあります。
ぼくらは事業づくりをやっています。
何回でもデザインし直して、そして「社会と手をつなぐ」ことを大事にしています。
参加者からいただいた質問
大学を卒業して認定子ども園で働いているのですが。辞めてしまい、落ち込んでしまいました。次の仕事を見つけないと、奨学金を全額返済しないといけません。元気づけるにはどうしたらいいのでしょうか。
矢野氏
ハローワークでは、会社側の条件をまとめ、求職者に提示しています。
国が若い力が欲しいなら、人にあった条件で会社は採用するべきなのです。
なので、ハローワークだけが仕事を見つける場ではないと思います。
地域の若者サポートステーションやアフターケアの事業所を通して、仕事を探せないかと思います。
相澤氏
一回やってみたい仕事をしたいと思う仕事に就いたけれど、うまくいかなくて、エンパワメントしていかなければならない状況ですね。そういった子ども達にどうやって寄り添い型のサポートをしていくのか。そういった点でのアドバイスがあればお願いします。
矢野氏
別の保育園でマッチングするかもしれませんね。「失敗した」という日本語ではなく、自分が苦手なことは何だったか。「こんな上司は無理」とか「こんなところが苦手だった」とか、苦手なことをまとめて、得意なこともみつけていくのが、僕らの通常の取り組みになります。
相澤氏
そういうところで、強みを考えて、選択肢を考えていければと思います。そういう意味で講演で、体験できる、体感できることは自立をしていく上で大切なファクターだと思います。
18歳の措置延長についてどのようにお考えですか。
自分には高校3年生の委託された子どもがいるのですが、3月以降の措置延長はお断りしようと思っているのです。冷たいと思われるかもしれないと思っています。
矢野氏
法改正で、児童養護施設や里親さんへの措置の上限みたいなのが、外れてしまいますよね。自治体との協議によるんだろうと思うのです。ただ自立援助ホームをやっていた人間として、長く入れるのであれば、親は変わらない方がいいと思います。
大事なのはその方がなぜ措置延長をする必要があるのかを、周りがちゃんと理解したり、本人がどう受け止めているのかがあり、里親さんに里親さんの事情があるわけですから、 措置延長が難しいのであれば、措置がなくても頼れる資源に替えてあげるようにします。
里親さんが、里親だから措置延長も何もかも受け入れる必要はないと思います。
里親さんの事情をフォローするように、地域や行政が考えて大人の判断や事情が子どもに不利益にならないように、デザインしてもらえたらありがたいと思います。
相澤氏
普通、委託をするときに里親さんの事情を考慮するはずですよね。
矢野氏
里親さんが判断するのは酷ですよね。
岩朝
実は里親サロンで、里親さんの話を聞いていて、先週のサロンの時にですね、自立支援計画とか養育の計画というのを、もらっていない里親が半数近くいるのです。
矢野氏
そういうところから声をあげていくのがいいと思います。大分でもそのようなことを聞いていて、行政が手続き的な部分にのみ徹しているようで、そういうことをされると私たちは運営・事業ができないですね。だからコミュニティを作り、その代表者が総意を行政に届ける必要があると思います。
相澤氏
今度、法改正で令和6年から重要な決定に際しては子どもの意見を聴取するということが、法律に書き込まれたわけです。里親委託のときから、解除されるとき、また自立支援計画を策定するときには、子どもの意見を聴くということになっています。検討するにあたって里親さんの意見を聴いて、里親さんにも参画してもらわないといけません。
子どもの意見を聴くということは、里親委託のときに子どもが知らなきゃいけないことになるので、里親さんにも知ってもらう必要があります。だからなんの計画もなく、少しずつ仕組みが変わっていくような制度改正がされたということです。
矢野氏
制度はわかりますが、里親さんたちが、『現場としてはこうなのです』というところを、たくさんすり合わせていって、釣り合いがあるところに希望の芽がでてくるのかなと思います。里親さんがエンパワメントされれば、委託児童にとっていい環境になるので、よく相澤氏がおっしゃる「親支援は子ども支援だよ」という一言は、まさにこれにも当てはまることなので、ぜひみなさん声を上げて言ってほしいと思います。
子どもの自己覚知、自己認知のために、里親としてできることは、具体的にどんなものがありますか。
矢野氏
何かひとつづつ、色々な失敗をしながら、生活の中なのでいろいろなことができると思います。得意なことと苦手なことは整理してもらえたらな、と思います。子どもの頃から、自分が何が得意で、何が苦手ということを、整理してあげると、子どもには得意をなるべく、くみ取ってあげるようにしてください。若者からの一番重い相談は「相談なんかしまって、すみません」ということです。人を頼るべきではない、自分を否定するところから入っていく相談者に対しては、気をつけます。
相澤氏
子どもに自己肯定感を高めるためには、普通のことができたら褒めるということが一番大事です。朝起きてくるとか、食器を片付けてくるとか、当たり前のことができるのは、すばらしいと思っています。当たり前のことが当たり前にできる素晴らしさを、子どもに伝えていくということが重要で、そうすると子ども「そうなんだ」と少しずつ自己肯定感を高めていくことになるので、そういう意味での自己覚知や自己認知へとつなげていくことが大事だと思っています。
退所した子どもたちとつながっていき、支えていきたいと思っているのですが、支援している中で大切にしていることは何でしょうか。
矢野氏
一番大事なのでは、理屈ではなくて、その方々が退所後、里親さんという帰る場所があるということです。あとは、色々なことが起こったときに里親さんだけでは対処できない場合、地域のいろいろな方々とつながってほしいと思います。
相澤氏
子どもたちは気を使いながら過ごしていることは間違いないのです。親子の関係であっても、親に遠慮していろいろ言えない子もいます。退所しても支えていきたいと思っているのは、日常の生活の中で、里親さんが自然にノンバーバルなコミュニケーションを通して、いろいろ伝えているのだと思います。そういうものが子どもに伝わっているのかどうかで、「この里親さんなら退所してでも戻ってこれる」と思えるようになります。退所前に里親さんの思いを委託児童にインプットしていくことが大事です。
地域の保健師とどのような連携をされているのか、保健師、保健センターはどのような役割が必要で、どんなことを求められるのか、教えていただければと思います。
矢野氏
この質問の回答に入るまでに、皆さんが保健師や保健センターと日常的に連携されたことはあるのでしょうか。
岩朝
一里親としてほとんどつながっていないと思います。
矢野氏
そうですよね。ひきこもりのセンターとはよく連携するのですが、やはり医療的ケアとか精神保健面でのケアが必要となるときに、ケアのできる専門職や機関が求められるのです。
里親さんたちも心に負担を強いているように思います。
なので里親さんが頼れるような組織になるといいなと思います。
岩朝
特別養子縁組の里親さんは保健師が関わることもあるかもしれません。養育里親さんは保健師の領域からは離れていると思います。児相のソーシャルワーカーとか児相の心理士とかとのつながりだと思います。
相澤氏
質問の意図からすると、里親委託するときの地域の中での社会資源の一つとしてネットワークを組んで、その機関の一つとして保健師さんとか保健センターが入ってもらって、何かのときにはすぐに相談できるように、里親さんが気軽に活用できる資源として重要です。
海外では社会的養護経験者がソーシャルワーカーの仕事に就いて、仕事として委託児童のサポートをしていると聞きます。日本では同様のケースはあるのでしょうか。
矢野氏
アフターケアの事業でいえば、施設出身者や里親家庭出身者がアフターケア実施主体者のところに就職して、自らソーシャルワークをやっているのは始まっています。
相澤氏
社会的養護出身者たちが、数として増えてきていると思います。
特にこれから、こども家庭庁になって子ども参画が進んでくると、社会的養護の関係機関とか、子ども家庭福祉分野の中にも、そういった人たちが増えていくと思います。
さまざまな事業を進める上で、イメージを共有することが大切とおっしゃっています。どのように事業方針や目標を共有していますか。
矢野氏
いろんな事業があるのですが、いろんな会議や話し合いをするときに、お互いのイメージのすりあわせを最初にします。イメージのすり合わせは、癖みたいになっているのですが、語り合い、話合いをして、いきなり議題に入らないことです。
相澤氏
イメージづくりというのは、アバウトのような感じをしていらっしゃる方もいるかもしれませんが、イメージってとても大事で、何か動かしているとその方向性が、見えてきます。
里親さんの場合にも、里親支援をどう組み立てるのかを考えるときに、事業を背景にイメージができると意外といいサポートができるようになることもあります。イメージを共有することは、私にとっても効果的な方法だと思います。そういう意味でみんながイメージを共有できると、持続可能になっていくと思います。持続可能性を考えることは大事で、オンライン里親会の中でも、どんな風に里親をサポートしていけるのかをイメージしていきたいと思います。
矢野氏が次にやりたいことがあれば教えてください。
矢野氏
やりたいことがいっぱいあるのですが、基本的には街づくりをしたいのです。
属性とか制度とかいろいろあったりするものを、とにかく街の中にまとめていく作業がしたいです。大分県には大規模で使われていない建物がたくさんあります。こういった建物を利用して、若者を集めて職業訓練にしたり、民泊をしたり、学びながら働ける生産学校にしてみるとかを考えています。
これだけの規模があれば、里親さんも委託児童をつれて、農業体験をしてみるのもありかもしれません。事業サイドで一か所にまとめて街を作りたいと思っています。
里親になることを考えています。委託児童を育てる中で、里親に求めるものはありますか。また子どもさんたちからこういう風にしてほしい、これが嫌といった声を教えてください。
矢野氏
子どもを育てる上で、大事にしてほしいということは、里親さんに求めるのは別として、自分の法人の職員に言っていたのは、「子どもに好かれよう」ではなくて、「子どもを好きになるのが大事」ということです。
つまり「愛」しかないのです。これが一つです。
もう一つは、自分の人生、例えば私の人生で言えば、自分の親のことを「お父さんありがとう、お母さんありがとう」と思い始めて、感謝するときは、親が死んだ後かもしれない。子どもとの日々を大切にする以上の価値は他にはないと思います。
嫌だった声は、里親さんには、「酒飲みながら説教してほしくない」とかですね。
他に嫌だった声はたくさんありますが、特別養子縁組と絡みますが、自立援助ホームで里親さんから預かった子どもさんで、里親さんが3歳から預かっていて、16歳までがんばったけど、高校も退学して、非行も激しくなって、面倒をみたいけど見れない。
自立援助ホームに委託児童が来て、1年くらい「里親が俺を見捨てた」といってました。
しかし職員の熱心な関わりもあり、里親家庭から離れてわかる、ありがたさを理解することができるようになっていきました。最後は普通養子縁組までに至りました。
子どもの気分、気持ちは毎日浮き沈みします。こちらがずっと愛していることが大切なのです。
里親家庭とつながりをもちつつ、実親への思いも断ち切れない子どもいると思います。実親との距離の取り方について、何かアプローチされていますか。
矢野氏
これは、子どもが実親のことをどう思っているのかを、職員に伝えてくれる関係ができているのかによります。その子の本当の声を聞けるような存在になっていれば、自ずから、アプローチの方法がわかるわけです。大人発信ではなく、子どもからの発信になります。そして発信したことを大人がどのように受け止めるかにかかっています。
「里親さんに気を使いながら、実親さんに会ってみたい。でも本当の親にあったら、里親さんが傷つくかもしれない」ということで気持ちが揺れているお子さんが何人もいました。
実際に会うのか合わないか議論するために、職員、里親を含めて話し合う場を持つことが大切です。その子の本当の声が聴けているのか、を意識してやっています。
「共に生きて、共に育つ」ということが大切です。
小児期の逆境体験から回復に必要なことも「無条件に愛されること」とあります。私は毎回のコミュニケーションがとても大切だと思います。暖かくて応答性のある関わりにより、子どもが大切にされていることを感じることができる生活が必要になります。良かったことも、嫌だったことも子どもとともに話ができるのが、養育の質をあげることにつながります。
主催オンライン里親会
虐待を受けた子どもの養育
12月18日10:00-12:00講師相澤 仁 氏
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