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大阪公立大学で社会的養護専門の教員として活躍され、政令指定都市である大阪府堺市で、養育里親登録もされている伊藤氏は2021年4月から7か月間、イギリスのグラスゴー大学に客員研究員としてスコットランドやイギリスの社会的養護の研究をしてこられました。
スコットランドの里親支援、里親のリクルート、里親研修のお話もお聞きしながら、里親として必要な覚悟、また、里親さんを支援することについて、一緒に考えていきました。
今回の講演者
伊藤 嘉余子 氏
大阪公立大学 現代システム科学研究科 教授
講演内容① 「里親」は、職業ですか?それともボランティアですか?
「里親はお仕事ですか?職業ですか?それともボランティアですか?」 と聞かれたら、みなさんはどう答えますか?
これは伊藤氏がある高校生から投げかけられた質問だそうです。
里親はお仕事?
確かに仕事かと言われると違和感がある。
食べていくために、稼ぐために里親をやっているわけではないです。でも、里親手当や子どもの養育に必要なお金は貰えます。だれかに言われてやるのではなく、自主的に里親になります。自己紹介するときに、アイデンティティとして、「里親をやっています」と答えます。どうして里親になろうかと思ったのかといえば、「社会貢献のような気持ち」とか「子どもの役に立ちたい」とかボランティア的な要素もあります。その一方で、自分が「子育てしてみたい」とか「子どものいる生活は楽しい」「子育てを通して自分も成長できる」など、自分のためにやっているだけでもない。いろいろなことを考えます。
〇「里親」と「施設職員」の違いは?「3つのP」から考える
里親は「仕事」か「ボランティア」を考える時の1つのヒントとして、「3つのP」の話をしてくださいました。
・ソーシャルペダゴジーの中の「3つのP」
Social Pedagogy(ソーシャルペダゴジー)とはドイツ発祥の施設養護の理論のことで、ヨーロッパの北の方、イギリスも含めてスウェーデン、デンマークなどで浸透しており、教科書にも掲載されていて施設職員になる人は、みなさんこのペダゴジーのことを勉強するそうです。大学でもこのペダゴジーの授業があり、すべての国や自治体ではないものの、里親研修の中でも、一部のフォスタリング機関や自治体がペダゴジーの授業を研修に取り上げています。
ソーシャルペダゴジーの中の3つのPというのは「Professionalな自分」「Personalな自分」「Privateな自分」の3つです。
「Professionalな自分」
施設職員さんとかだったら保育士の資格もっている、教員免許をもっているなどの専門性のある自分
「Personalな自分」
もともと明るいとか、プラス思考ですとか、キャンプが得意とか、優しいなどの側面
「Privateな自分」
物理的にも精神的にも個人的なもの
これら3つのPを「しっかり自己覚知して、自己理解して、使い分けることと上手に使うことが大事ですよ」と言われているそうです。
この3つのPのうち、施設職員は「Professionalな自分」と「Personalな自分」の2つしか使わないことが徹底されています。
例えば、施設職員は勤務中に、子どもと一緒にご飯を食べますが子どもの前でお酒を飲んだりはしないわけです。それはプライベートでやればいいからです。
施設職員というのは、勤務時間とオフの時間(家に帰ってからのプライベートな時間)を分ける必要があります。
すなわち、施設職員さんは「Professionalな自分」と「Personalな自分」しか使いません。
その一方で、里親は、プロフェッショナルな知識を必要とされることもありますが、基本的には「Personalな自分」と「Privateな自分」を使います。
そこが施設職員と違うところです。
里親の場合、夜ご飯の時にお酒を飲むこともあります。施設職員はその点で異なります。
プライベートな自分をさらけ出しながら、養育していくのが、里親といえます。
他にも、施設の本棚には子どもが読むもの、読んでほしいもの(児童書)が並びますが、施設職員の趣味や関心につながる書籍はありません。
例えば、小規模化して、家庭的なユニットで養育をしていても、ユニットの担当職員がゴルフが好きだからと言って、ゴルフの本が並ぶということはありません。
子どもたちだけの空間なので、子どもたちの本や参考書が並びます。
一方で、里親さんの家に行くと、里親さんの趣味の本が並んでいたりします。
子どもたちは大人は何が好きなのか、どんな本を読んでいるのか知ることで、里親のプライベートな部分も見たり聞いたりしながら、生活をして育っていくわけです。
伊藤氏が非常勤職員をしていたときのエピソードを聞かせていただきました。
「教員をする前に2年ほど施設で非常勤職員をしていた時がありまして、子どもから編み物を教えてほしい、マフラーを編みたいと言われて、その要望にお応えしようと、家から編み棒と毛糸をもってきて、編み物をしていたんです。そうしたら主任の施設職員にひどく怒られました。「そういうことは家でやってください。施設の勤務時間中に編み物をしない。」
子どもに編み物を教えてほしいといわれたので、編み物をしていたのですが、「仕事じゃない」と言われて戸惑いました。里親になったら、子どもと編み物したりだとか、その姿を見せることもできて、一緒にやってみたり、そういうことができるわけなんです。」
「Personalな自分」は施設職員の仕事でも、里親の仕事でも自分の長所などを活かす面がある一方で、「Privateな自分」を使うか使わないか、「Professinalな自分」をどこまで求められるのか、というところが、施設職員と里親の大きな違いです。
そして伊藤氏は高校生の「里親はお仕事ですか?職業ですか?それともボランティアですか?」という質問になんと答えたのでしょうか。
「里親さんの場合は『Privateな自分』と『Personalな自分』を使うので、里親とは、仕事でもボランティアでもなく、『生き方』です。里親という『生き方』を選んだ。私は高校生の子に「里親として生活をすることを選んだ」ということをお答えしました。『里親ライフ』なのです。」
〇「里親」は「ライフ」(生き方/生活)であるという理解
「ライフ」という英語には4つの日本語の意味が当てられていて、「生活」「命」「人生」「一生涯」となります。
「里親になりたい」「里親として生活したい」ということは、「里親として生きるという選択」や「里親という生き方の選択」ということを意味するのではないかということでした。
「そのため、里親になる人、里親になった人は、そういう生き方、生活を選んだのだということです。そのため覚悟や自覚が必要で、里親を支援する人には、里親として生きている生き方、生活の在り方を全部、理解することが求められるのかと思います。里親支援というのは里親家庭の子どもの養育を支えることなんですけども、併せて里親さんは里父、里母だけでなく、実子がいる場合、子どももケアラーなんです。実子の支援というのも大事になるかと思います。」と伊藤氏はおっしゃっていました。
講演内容② 「英国スコットランドにおける里親になるための要件とステップ」
里親の生き方を選んだ人にどういう支援が必要なのかを考えるために、スコットランドにおける里親になるための要件とステップをお話しくださいました。
〇英国スコットランドにおける里親になるステップ
里親になりたいな、と思った時に、日本の場合は、自分の住んでる地域の児童相談所に行って、いろんな手続きや調査を受けます。
スコットランドでは、里親になるためには2つの方法があるそうです。
1つは日本と同じように、自治体に登録する里親になることです。
もう1つは、スコットランド全土には20個のフォスタリング機関があり、民間のフォスタリング機関のどこかに所属する民間機関登録里親になるという方法があるそうです。
この2つのどちらかを選ぶことができます。
ここでスコットランドについて少しイメージしていただきます。
スコットランドの広さは北海道とほぼ同じです。
北海道の広さの中に、32の自治体、すなわち32個の児童相談所に該当する機関が存在します。32個の児童相談所とは別に、32の自治体の中に自治体を2つ3つ合併して、公立の20個のフォスタリング機関があります。公立と民間は同じ数ですが、どちらに登録するかは、里親さんが選んで、選んだ登録機関で、調査や研修を受けることになります。
登録先を選んだら、日本でも家庭調査があるように、バックグラウンド調査を受けます。
日本の場合、バックグラウンド調査と登録前研修を同時に受けますが、スコットランドでは、バックグラウンド調査に合格した人しか、登録前研修を受けることができません。
このバックグラウンド調査が約半年間あり、合格した人だけが次に進むそうですが、毎年、約50%しか研修に進めないといわれています。
研修も約半年を経て、クイズ形式のテストと事例検討をすることになります。
そして研修に合格すると里親登録となり、里親登録まで1年くらいはかかることになります。
今の日本の里親リクルートで、「調査が大変すぎる」「研修が長い」などの意見もあるようですが、世界的にみると日本は里親になるスピードは早い方だそうです。そして審査もとても簡単だと評価ができます。スコットランドは、調査も厳しく研修も長いですが、里親登録数は日本より多く、委託率も高いわけです。どこが違うのでしょうか。
〇英国スコットランドにおける里親になるためのバックグラウンド調査(約半年)
バックグラウンド調査の半年間で何を調べられるのかは日本とほぼ一緒だそうです。
里親希望者の成育歴、転居歴、犯罪歴を調べますが、住んだところのない地域にも照会をかけて、徹底的に犯罪歴を調べます。経済状況(お金目当てではないか)、イギリスの里親手当は、世界でもトップクラスです。月に日本円で約30万円くらいだそうです。
就労状況も、イギリスでも日本と同じように共働きでも里親になれますが、共働きであっても、委託児童が委託された時に「仕事少し休めますか」とか「子ども中心の生活にシフトする覚悟ができますか」ということはよく聞かれるそうです。
他に、同居家族の意向、里親家族の学歴なども聞かれます。ここで日本と大きく違うのは、
実子の同意がないと、絶対に里親になれないということです。バックグラウンド調査では必ず実子と面接をするそうです。実子が「嫌だな、不安だな」といったら、もう少し家族で話し合ってと言われます。登録した後も、実子が快く向かい入れる準備ができていない状況では委託はしないということになっています。
次に、里親になりたい動機についても厳しくチェックされるそうです。
例えば、日本で不妊治療でも子どもをもつことができなかった場合に、子育てをしたいと思う方もたくさんいますがそれだけでは不十分だそうです。イギリスは里親と養子縁組との区別がはっきりしていて、里親さんの仕事は子育てしてみたいという自己実現ではないと説明されるとのことです。
そして「Personalな自分」として、里親の性格、信条、生活習慣などが半年かけて調査され、「この里親さんなら大丈夫」となれば、次の研修の段階となります。
〇The Skills to Foster
登録前研修のハンドブックが6章立てになっていて、各章を1か月かけて学んでいくそうです。
イギリスでは"Foster parent"ではなく、"Foster carer"である意味を理解することを大事にしているということを言われていました。
里親は英語に直訳すると"Foster Parent"で、多くの英語圏では"Foster Parent"と言っていたのですが、今では"Foster Carer"といってます。
日本でいう里親の「親」を言わないことになっています。
それはやはり委託される状況の子どもの気持ち、状況にすごく配慮した結果で、実の親がいるのに、もう一人「Parent」という言葉は、子どもの気持ちを尊重していないのではないか、ということがあります。
自分の子どもを持つことが、里親になることではなく「ケアをする人」が里親のことを意味するということですね。
里親は何をするのかということで、里親を必要とする子どもの理解では、虐待を受けている子が多いので、そういった子どもの特徴や、里親になるということがどういうことかを徹底的に叩き込まれるそうです。
「あなたが自分の子どもをもつ」ことではなく「他人が産んだ子ども、他人の子の世話をすること」が里親の役割であることを理解する必要あります。
そのため自分のところに委託されたといって、自分の色に染めてやろう、とか、我が家のルールに従ってね、というような、里親として子どもを支配したり、管理したりするわけではなく、子どものこれまでの歴史とかを尊重することで、いつか実の親のもとに帰ることもあるので、実親の存在とか、実親との愛着みたいなところを意識しながら、里親をやっていかなくてはなりません。
そして里親希望者のこれまでの人生経験、学校の先生として働いたことがあるとか、料理が得意、釣りが好きとか、スキルは子どもにどう活用できますか、ということが非常に丁寧に問われて、里親さんとしての自己理解とか自己覚知とか、長所・ストレングスは何かをイメージしてもらいます。
〇あなたは里親として何がしたい?何ができる?
例えば、あなたの良いところは何か、性格とか長所とかを書き出します。
「私は優しい」とか「私は粘り強い」などがあれば「あなたの優しさをどう活かすのか」を問われ、問題行動への対応を答えたりするそうです。
そして、委託児童にあなたの「愛」を伝えるために、どんな工夫をしますか、
という事例検討をすることがあるといいます。
例えば、
「委託児童が誕生日です。実の親には誕生日を祝ってもらっていない。
あなたの家に委託されて初めての誕生日、どうやって祝ってあげますか?」
「また委託児童があなたの家に委託されて不安な時、あなたはどうやって慰めてあげますか。」という実践的な回答が求められます。
それには「Personalな自分」の側面を強く求められます。あなたの優しさ、あなたの粘り強さをどうやって伝えるかを問われます。
また、ハード面もバックグラウンド調査の対象となります。
〇あなたの家の安全度チェック(約50項目)
・乳幼児が委託されても大丈夫なように、暖房器具のまわりに囲いがあるか。
・煙探知機と消火器が置いてあるか。イギリスの家具の安全基準を満たしているか
などが調査されます。
2か月目になると、「子どもとは誰か」ということで、里親さんに委託される子どもの特徴とか、配慮事項とかが説明されるそうです。
〇「子どもにとっての家族/地域との分離の意味や衝撃」について理解しましょう
これは日本とスコットランドで大きく違う点で、日本の場合は自治体にすごくしばりがあって、大阪府で保護された子は、大阪府内の里親さんや施設に入ります。
政令指定都市の堺市だと、堺市内の里親さんのところにしか委託されません。しかし、スコットランドでは、スコットランド全域で里親さんを探します。
そうしないと里親さんが見つからないのです。
北海道の広さくらいしかありませんが、都会の子が田舎の里親さんのところに行ったり、逆に、田舎の要保護児童が、都会の里親さんに委託されることもあるそうです。
もちろんなるべく近くで見つけようとするのですが、うまくいかないこともあります。
地域と離れることが子どもにとって負担になることがあるので、そこへの優しさ、配慮を里親さんがどうするのかが求められます。
「子どものアイデンティティへの配慮」では、産みの親への想い、「子どものヘリテージの理解」といって前の家での文化とか、習慣とか伝承してきているものがあるのです。
そういったものをいきなり否定したり、里親家庭のルールに強引に従わせたりすることは、しないようにする。
前の家でのルールとか習慣とかも大事にしながら、養育することを学びます。
〇子どもの実家族/地元/前いた里親家族への思いを尊重する
「最初に子どものことをよりよく知る」ということで、児童相談所にあたる機関から委託される子どもの情報はかなりの部分を知ることができるそうです。個人情報保護など、いろいろと制約はありますが、それでも新しい養育者としての役割が尊重されているので、里親さんのところに情報がしっかり伝えられます。
「日頃から実家族の話を気軽にできるようにする」とか、産みの親の話ができるようにするとかは、大事にしてくださいと言われ「子どものルーツを尊重する」ことを求められるそうです。
虐待とか貧困とか、いろいろあったけど、よくここまで生きてきたね、ここまで生き延びてきたことへの敬意を伝えることを、言葉にして伝えるように言われます。
日本でもそうですけど、「子どもの名乗りたい名前(名字)を尊重する」ことについては、
産みの親の名字でも、里親さんの名字でもどちらでもいいのですが、子どもが決めてくださいということです。
またライフストーリーワーク、生い立ちの整理についても、里親さんは積極的に協力・参画してくださいと言われます。「子どもの記憶の整理・保持等を助けること」は、日頃から子どもの写真をとったり、子どもの記録や日記を管理したり、学校での作文や絵を整理してくださいと言われます。
途中で、措置変更になったり、委託解除になったとき、記念に持って帰れるように、里親さんがきっちり保管することも、里親さんの役割として説明されます。
里親になる人には多かれ少なかれ貧困や精神疾患や障がいに、先入観をもっていることがあると思います。
悪いことではないのですが、里親としてのあなたの中に、「先入観や偏見はないですか?」ということと、自分にはどんな先入観をもっっているのかという自己覚知をしていって、
そこを修正していきましょう。実の親を悪く言わない里親になりましょう、というところがリンクしていきます。
3か月目で、第3章になっていくと、「協働すること」ということで、
日本でもいわれているように「チーム里親養育」ということが研修の内容になってきます。
里親というのは、自分勝手に子どもを養育するのではなくて、児童相談所が立てた、支援計画に沿って、支援計画を理解し、それに沿って、養育をするのです。
行政と「ほうれんそう」をして、里親で好き勝手に育てるのではないです。
イギリスでも子どもの支援計画の会議やケース会議には、里親さん、子ども自身が参画しているそうです。そこでいろんな方針を確認されます。支援計画の会議に参加して、支援計画を理解していく、1部分を里親が担っているのだな、ということを理解しつつ、里親さんはいろいろ大変なので、自治体がやってくれる里親支援のメニューとか、フォスタリング機関がやってくれる里親支援のメニューを学びます。
困ったことがあれば、相談先を示してくれたり、週に1回、フォスタリング機関のワーカーが家庭訪問するので、その際にいろいろ相談するように言わます。
スコットランドのフォスタリング機関のワーカーさんは、里親のスーパーバイジングワーカーと言われていて、多くて7世帯の、平均して5世帯の里親さんを担当しているので基本的に毎週里親さんところに行って話を聞いたり、子どもの様子をみたりしているそうです。
〇「実親とのパートナーシップ」
実親さんのもとへ帰る子、実親さんと面会交流をする子もいるので、実親さんとパートナーシップを組むことも大事です。里親さんと子どもとの間で、実親さんの話をするということも、学ぶそうです。
事例検討を通して、里親さんが経験的に学んでいき、実子も含めて、また祖父母がいれば同居家族を含めて、家族全員が里親養育に巻き込まれていくことを教えられます。
そのため実子への配慮とか、委託児童と実子との間で里親が板ばさみになることもあるので、そんな時に、どう対処するのか、を学びます。
〇「チーム里親養育」という理解
チーム里親養育といって協働、コラボレーションが協調されているそうです。
まだ日本は遅れているところですが、一部の自治体では「里親応援ミーティング」という形で、ケース会議に里親さんが参加しているところもあるようですが「すべての自治体でそれができているわけではないので、本当にチームとしてやるのであれば、里親さんが委託児童の養育について意見を言ったりする機会も必要だと思います。」
と伊藤氏は語っておられました。
スコットランドでは、ある日突然、里親の知らないところで委託解除が決まるとか、措置変更が決まることがないように、工夫がされているとのことでした。
また、実子も里親養育のチームの一員であることをしっかり理解する必要があって、実子が委託を拒否したり、「しんどい」と不調になったときには、委託がストップすることもあるそうです。
〇我が家の実子語録シリーズ
「里親をやって2年目の頃、3人目か4人目の委託児童が家に帰る、つまり家庭復帰するときに、息子が『おかあさん、里親って、なんか、むなしいなあ』と言いました。
なぜかというと『ぼくは委託児童がきたときには、おむつを替えたり、寝かしつけしたり、遊んであげたりする。今まで来た委託児童を忘れないけど、今まで来た委託児童は1歳や3歳だから、みんな僕のことを忘れていくんじゃない。こんなに一生懸命お世話して、愛情を注いで、一緒に生活したのに、僕のことを覚えていてくれないのは、僕はむなしい。』
と言い出したのです。頭ではわかっていたけれど、息子のその言葉で、
この子も里親しているんだな、とこの子もケアラーなんだということに気づきました。
そのため、児童相談所のワーカーさんとも相談して、実子をつれて児童相談所にいったりして、子どもたちに『お疲れさま』といってもらう儀式を設けてもらったりして、
実子の声も聴いてもらうようにしています。
里父、里母の思いで里親を始めて、子どもたちの委託を決めているのですが、
一緒に生活していたら、子どもたちの時間の使い方も変わり、親を取られて寂しい思いをしていることもあると思います。
それでも委託児童のために実子がいろんなことを提供してくれていることがわかりました。
改めてそうのように思わされた一言でした。」
4か月目は「安全な養育」について学んでいくそうです。
虐待を受けた子が委託されるわけなので虐待についての知識を、登録前研修で学びます。
虐待とネグレクトの知識、また虐待を受けてきた子どもの特徴、そして養育の難しさを学びます。また里親が委託児童に虐待をしていなくても、委託児童が「里親から虐待を受けている、里親変えてほしい」ということもスコットランドではよくあるそうです。
よく調べてみるとみると、里親さんは何もしていないことがわかるのです。委託児童が元いた地域に帰りたいとか、この里親はいやだ、というケースもあり、子どもの意見を聞く仕組みがスコットランドにはありますので、「嫌だ」といわれたら、チェンジせざるを得ないのです。なので里親研修では、そういったこともありますよ、ということを学び、里親自身や家族をどう守るのか、対応方法を考えておくことが求められます。
〇実子のいる家庭
実子と委託児童は同じ権利をもっているということを、しっかり理解しましょう。
どちらかだけに肩入れしないように、ということです。さらに実子を孤立させない、実子を犠牲にして、委託児童の養育をしなくても良い、ということが伝えられます。
それだけ事前の覚悟とか理解が必要ですということです。里親になる前/なった後に起こる変化を予測して、必要な対策を練ることが大切です。
〇里親に委託される子どもや保護者の状況
虐待経験からの回復や父母の精神症状に振り回されてきた経験からの癒しを必要としています。
子どもが子どもらしく生活してくることができなかったので、子どもらしい生活を提供するようにします。ネグレクトを経験している子どもには、当たり前の生活経験を提供することを保障することも里親に求められることです。
母子家庭、実母のみの家庭が多いので、里父さん、大人の男性モデルも非常に重要と言われています。
〇里親家庭で暮らした子どもや里親の声から
日本の事例をあげてくださいました。
・里親さんの声
子どもが来て、1週間でトイレが壊れた事例です。
ゴミを全部トイレに流していました。
この子はネグレクトで、ごみ屋敷住んでいて、ゴミ箱そのものがなかったのかもしれません。
児相のワーカーさんから「一時保護所でも、ゴミの捨て方がわからない様子だった」
と後から聞きました。
この委託された子どもはゴミをゴミ箱に捨てることに思いが巡らなかったのだと思います。
・元里親家庭の子どもの声
シャワーや歯磨きの水を出しっぱなしにすることがありました。実親の家では、お風呂に入ったことはなく、たまに銭湯にいきますが、水を出しっぱなしにしないように注意を受けたことがありませんでした。
委託された家庭で水を出しっぱなしにしていると、里父さんから怒られました。でも、すぐ忘れました。そして4か月後、施設にいくことになりました。
すぐ忘れてしまいますが、この子は大学進学をしていまして、知的に問題があるわけではなかったのです。
〇家族等からの虐待で、子どもの脳が傷ついてます。
虐待を受けた子どもの特徴として、虐待の影響で脳が傷ついて、記憶力とかに影響が出てくるという調査研究の結果があります。
体罰とか身体的虐待を受けると、衝動性とか犯罪性とかにつながりやすく、「産みたくなかった」「死ねばいいのに」とか暴言によって、聴覚に影響を及ぼすことがわかってきました。
聞いたことを覚えておくとか、記憶していくということが苦手になってしまいます。
面前DVとか見たくないものを見ていると、見たものを覚えておくのが、苦手になってきて、人の顔と名前を覚えておくとか道を覚えるということが苦手になります。
どんな虐待を受けてきた子でも、言われて嫌だったこと、されて嫌だったことをずっと覚えていると、辛くて心が死んでしまいそうになるので、なるべく覚えない脳になってきます。
記憶できる情報量を減らしていく、という特徴が出てきます。
ただ、虐待を受けて脳が歪むという本なんですが、歪んだ脳が里親さんのところにいって、「安心・安全」な環境で生活するうちに、ゆっくり元の形に戻ることも証明されています。
里親さんとして、暴力をしない、大声をださない、穏やかな生活をするということは、
子どもの回復とか癒しにとても大事なことになります。
〇我が家の実子語録シリーズ
「実子で今度は娘の方なんですけど、委託児童がやんちゃなことをすると、里親に『ジソウの人にいいたことがあるから、連れて行って』といいます。
委託児童が、それまでの生育歴に問題があるのですが、娘が大事にしているオモチャや本を壊したり、嚙みつかれたりして、非常にしんどい思いをして、『ジソウの人にいいたことがある』というのですね。
『この子はいつまでいるの?』と聞いてきて、予定の期間を伝えると『次くる子どもはもっと大人しい子がいい。2人連続でやんちゃな子は困る。1回休憩させてほしい。』
と言っていて、希望が叶うかどうかわからないですけれども、虐待を受けてきた子は行動が激しい場合があるので、実子が我慢しないといけないときもあるので、
実子へのフォローとか、里親だけで抱え込むのは大変なので、児相の人に実子の声を届けることも大事かなと思います。実子の中には大人しい子もいたり、自分の親が里親をしているということが、自分の親が偉いことをしていると思い、委託児童への負の感情を吐き出さなかったりします。里親から実子に『困っていることはない?』と尋ねていくことが大切です。」
虐待を受けて子どもの養育の大変さとどうやってそれを理解していくのかが課題になります。
発達に必要な7つの要素を委託児童に保障するような関わりをすることと、その中での愛着、アタッチメントというのが大事になります。
1回虐待を受けて歪んだ子どもの愛着を修復することはとても難しいです。
そんな中でも、ここまで生きてきた子どものストレングスとかレジリエンスが必ずあるので、どうやって、問題だらけに見える委託児童のレジリエンスやストレングスを見つけて
自己肯定感をあげていくのか、を学びます。
そして子どもの行動を管理するときの注意では、Not react, But accept.
といって、試し行動をしたときに、「なんでそんなことをするんだ?!」というより、
「そうなんだな」とスポンジのように受け止めることが大事だといいます。
〇試し行動や問題行動の背景にある愛着や親子関係の問題
ボールを打ち返すのをストロークといいますが、身体的ポジティブストロークというのは、「いい子だね」と頭を撫でることで、身体的ネガティブストロークというのは「バカ」といいながら殴ることです。
ストローク飢餓では、誰も自分のことに興味がない状況をいいます。
ストローク飢餓が嫌で、人はネガティブストロークを引っ張ってきてしまいます。
家出したり、万引きをすることで、親が心配してくれて、期待されていることを子どもは感じて安心できる状態になります。
悪いことをして安心してしまうと、悪循環が出来上がってしまいます。
そのため、試し行動や問題行動をやめさせるには、何もしていないときにほめる、つまりポジティブストロークをすることが不可欠になります。
〇しつけの大前提となる「愛着」
里親として子どもを預かったときに、巣立つまでに社会人としてしつけをしておきたいと、
思いますが、しつけの大前提に「愛着」があって、その上に「この人に褒められたい」などの気持ちが芽生えて、それが望ましい行動につながっていきます。
「この人に褒められたい」と思っていない子どもは、褒められるような行動はしてくれないので、まずは里親と子どもの人間関係の上に愛着を作ることが大事で、その上で、しつけができませんよ、ということを確認していきます。
〇虐待を受けた子どものケアと回復過程
これは日本の社会的養護のガイドラインにもあるのですが、トラウマ治療やトラウマインフォームド・ケアは基盤にアタッチメントがないと、どれだけ治療をしても効果がないということです。
〇虐待を受けた経験のある子どもにとっての「人との関係/距離」の理解
虐待を受けた子どもと距離を作っていく、関係を作っていくことにおいて、
1つ大事な視点として、真ん中の紫の部分が「私」として、人の発達は真ん中から外に向かっています。
参照:PDF版「里親という【生き方の選択】と必要な支援 p.28
真ん中の「私」、次の周りに「両親・祖父母」といった愛着を形成する存在がいて、信頼関係ができたら、家の外に「友達」をつくったり、「親友」をつくることができるのです。
内から外に向かって社会性が発達していきます。
逆に人との人間関係というのは、外から中心に向かって距離をつめていきます。
虐待を受けた子どもは「私」と「両親・祖父母」の境界線がはっきりしません。
ほんとは大事にしてくれる親から「私」というプライベートゾーンがぐちゃぐちゃな状態で、施設や里親さんのところにくるのです。
そのため、愛着障害の子どもは、人に必要以上になれなれしかったり、逆にかたくなに拒否をしたりします。委託児童にとって、里親は赤色のゾーンの他人です。顔も名前も知らない人と、「今日から一緒に暮らします」と赤から青いゾーンに浸食するのです。子どもは拒否して当然なのです。
赤いゾーンから黄色のゾーンと順番に、距離を詰めていくときに、確認事項や共通確認が必要になります。お互いの同意形成があって、距離をつめて行かないといけないのですが、子どもにとって見ず知らずの里親が急に、青色のゾーンにきます。
そのため子どもへの理解、すみませんという気持ちは大切になります。
スコットランドは「里親」と「養子縁組」がはっきり分かれています。
里親というのは、基本短期で1か月以内が原則だそうです。
措置変更に至るタイミングやさまざまな理由を理解する。
里親の気持ちが常に尊重されるわけではない。子どもの記憶を守るために、普段から写真やビデオを撮っておき、措置変更のとき、それをプレゼントするんだよ、とか、
措置変更した後も、電話や手紙等で交流し続けたり、たまに家に招待したりといった、
アフターケアに関わることが求められます。
実親の意向で突然委託解除になることも理解していくことが確認されます。
〇里親さんだけで抱え込まないでというメッセージ
里親さんだけで工夫するのは限界があるため、
児童相談所やフォスタリング機関に相談したり、里親会とか里親仲間に相談したり、
ということが確認されます。
最後に・・・
「最後にもう一度いいますが、3つのPから考えます。
里親が磨くべきところは「Personalな自分」と「Privateな自分」を研修・日々の活動のなかで磨き上げることが大切と思います。
トラウマのケアや法制度などの専門知識は大事なんですが、里親として生きることの選択をした私たちにとって、「Personalな自分」と「Privateな自分」の2つのPについて家族、児童相談所、フォスタリング機関と一緒に考えていくことが大事なのかなと思います。」
参加者からいただいた質問
スコットランドの里親を踏まえて、日本に必要なこと、足りないことはなんでしょうか。逆にスコットランドに足りないことは何でしょうか。
まずスコットランドに行って良いと思ったこと、取り入れたいと思ったことは、
日本に足りないなと思ったことは、先ほど話の中で触れましたが、
フォスタリング機関のワーカーさんが、すごくまめに委託後支援を行うことにあります。
それだけワーカーさんの数が多くて、担当世帯数がすくなくて、手厚いなと思うことが1つ思いました。疑問に思ったことは、
よく言われている里親を転々とするドリフトの回数が日本より多いということです。
確かに個人差はあって、1つ目の里親さんのところでうまくいって、養子縁組まで至るケースもありますが、一人の子どもが20家庭とかを経験しているということがあって、けれども、スコットランドは10歳までは施設に入らないという原則があって、10歳までの子どもは里親さんのところを転々とすることになります。それが子どもにとって辛い点になります。ただスコットランドの里親さんは基本、短期里親としての登録です。一時保護所がないので、一時保護も里親なので、例えば、半年のつもりで受けているいるので、半年間委託を受けるために、半年間仕事を休むという職場との調整をすると、委託期間が延びると里親さんの都合がつかなくなります。そこで別の里親さんに委託することになります。
子どもが転々とすることによる辛さは日本にはないことだと思います。
里親支援体制が充実していてすごいと思いました。フォスタリング機関はどれくらいあるんでしょうか。また、子どもが20家庭くらいまわってしまうということですが、子どもの特徴というのはある程度あるのでしょうか。
北海道の広さに、32個の児相があって、40個のフォスタリング機関があります。
これはすごいなと思いました。
子どもの特徴についてですが受けてきた虐待の程度がしんどい子とか、育てにくい子ども、障がいのある子が複数の里親家庭を経験するのが現状かなと思います。
フォスタリング機関もそこへの支援、養育支援に頭を悩ましていて、
「Professionalな自分」は必要ないというのが、登録前の研修で言われるのですが、実際に委託され始めると、もう少し専門的な知識が必要になるのですが、むこうでインタビューしたときに言ってらっしゃったのが、「どういう仕組みで問題行動が起こっているのか、知ることは大事だけど、仕組みを知ったことで育てられることとは別である。」
とうことだったので、やっぱり里親研修というのは、どう育ているかとか、どのように愛を伝えるのか、どう受けとめるのか、実践的な内容を強化していかないと、ダメなんだと言っていました。そこのところのトレーニングプログラムをどのように開発するのか、大学と共同研究したりして、力を入れてました。
それだけシステムが充実しているならば、
里親さんが関係機関と連携して、10歳まで施設に入れないのであれば、通所やショートステイといったサポートを受けながら、養育していくのはイギリスではやれていないのでしょうか。
スコットランドでは民間の医療機関は無料で使えるので、すべての住民はかかりつけ医登録をすることが義務づけられています。
たとえ短期滞在者でも義務づけられています。
子どもたちも、通院治療のニーズをもっている子は、里親さんの家庭の近くにかかりつけ医登録をして、そこの治療や通所をしています。
チーム養育をしていく上で、日本でも委託をするときは、関係機関が集まって、議論して、役割を分担しながら、委託するということを自治体さんがやっているのもあります。スコットランドなんかでは、委託をするときのチーム養育という時に、どんなことをやっているのか、もし参考になるようなことがあれば教えてください。
スコットランドでは、どこの自治体でも、最初と途中のミーティングはすべてのケースでしていて、里親さんとか子どもも入っていて、子どもの意見を代弁する人も入ってという形で、やっているのですが、ただ日本と違うのは、日本の場合は措置権者は児童相談所なんですが、スコットランドでは家庭裁判所なんです。措置権者はその場にいないのです。
なので、みんな一丸になれる。日本の場合は児童相談所が措置権者なので、チームといいながら立場がそれぞれ異なるのです。なので、ミーティングでざっくばらんに話せない状況になります。スコットランドでは措置権者がミーティングの中にいないので、
みんながそれぞれの思いをもってミーティングに臨めるようになっています。
スコットランドではどのようなマッチングをしているのか、委託のタイミングの見極め方とかはどのようになっていますか。
またスコットランドでは、虐待を受けたお子さんが里親から虐待を受けたりするのでしょうか。虐待を受けたお子さんのケアは専門的な知識が必要だと思うのですが。
スコットランドの先生と共同研究をして、里親さんによる虐待はあまり無いのです。
日本で何年か前に調査した結果を持っていったところ、少し驚かれて、いわゆる里親不調や里親さんのギブアップというのは、スコットランドにもあります。
委託児童の不適応とか、養育困難というのは多いのですが、里親さんが里子に身体的虐待をしたとか、性的虐待をしたという発生率は、ひょっとしたら日本の方が高いかもしれない。
と思ったりして、スコットランドでは、バックグラウンド調査とか、登録前研修が厳しいので、虐待しそうな人はある程度、排除しているのかな、ということと委託児童の支援が手厚くて、例えば週1回見にくるようになっていると、いろいろ発見や相談ができるようになっていて、それゆえ不適切な関わりを予防できるのではないかと思います。
あとスコットランドのマッチングは、里親さんが登録されているのですが、自治体登録の里親さんと民間基幹登録の里親さんがいて、まず自治体登録の里親さんから探しまします。
グラスゴー市で要保護児童がいたら、グラスゴー市に登録している里親さんでマッチングを行います。
それで見つからなければ、次はグラスゴー市がグラスゴーにあるフォスタリング機関に依頼をかけます。フォスタリング機関にお金を払って、里親さんを紹介してもらうようになっています。だいたい緊急の一時保護が多いので、養子縁組が前提でなければ、交流やお試し期間はないです。日本と違うのは一時保護所がないので、一時保護を専門にしている里親さんのところから、マッチングして、そこから長期に見てくれる里親さんを探すことになります。スコットランドの一時保護をしている里親さんの対応は、
日本の一時保護の里親さんと同じだと考えてくれればいいと思います。
イギリスに比べて日本は子どもを支援する機関が少ない。
児童相談所の職員の専門性がない。問題があるのはどうしてでしょうか。
イギリスも10年前は児童相談所も施設もすごく人気がなくて、リクルートに苦労したということを今回聞きました。しかし、ここ10年かけて、「児相のソーシャルワークの仕事とは」とか「施設職員の仕事はやりがいがある」ということのテレビ番組、You Tubeなどで短い動画を使って、アピールをして、啓発をして、イメージの払拭にアイデアを使って、今ではリクルートに困っておらず、児相の職員や養護施設の職員募集といって、集まらないという悩みはないとおっしゃっていました。
マスコミを上手に使うとか、やはり児童虐待の死亡事例とか、施設内虐待のケースがあると、次の年から就職希望者がいなくなるということは、あるらしいので、そういう時にマスコミに協力してもらったり、You Tubeを使ったりしてアピールをしていると聞きました。
スコットランドの里親研修はとてもシステマティックですごいなと思いました。
一方、委託期間が、最長が半年以内というのが、愛着形成ができないのではと、思いますが、伊藤先生はどうお考えになりますか。
私の言い方に語弊があったかと思います。最長が半年ではないです。半年というケースが多いということが1つと、児童相談所ではなくて、裁判所がオーダー(命令)を出すのです。
例えば「この子は短期です。」「この子は長期です。」「この子は実親と会ってもいいです」とか、ということを裁判所が決めるのです。そのオーダーを見直すのが半年に1回見直すことになっているので、どのケースも半年ごとに支援計画が変わるのです。
けれども、今の里親さんでこのまま継続してというケースもあるので、1年、1年半、2年というケースがあるのですが、ほとんどのケースが半年で見直されていきます。
例えば同じ里親さんのところに2年いるのですが、最初の半年間は親に会えませんでしたが、半年たってオーダーの種類が変わって、親と週に1回は会えるようになりました、とか、条件が変わるのですが、半年ごとに新しいオーダーを出すということで、半年ごとに里親さんが変わるということではありません。
半年とか、1年で違う里親さんのところにいっても、日本と違うのは、前の里親さんと連絡が取りやすいということです。もちろん援助方針的に前の里親さんと連絡を取らない方がいいとか、委託児童自身が前の里親さんと連絡を取りたくないということであれば、
連絡を取らなくてよいですが、そうじゃなければ、愛着をずっとつないでいくということで、「一緒には暮らしていけなくなったけれども、あなたのことを大事にしているよ。
いつでも遊びにおいでね。」という形で、新しい里親さんのところからレスパイトで来たりとか、レスパイトでなくても、夏休みだから遊びにきたよ、などが結構許されていて、そういった形で、里親さんと関係を持つことを継続しています。
スコットランドでも、里親登録したけれど、長年委託がないというケースもあるのでしょうか。
これは聞いたことがないです。未委託里親が多いという日本の現状を紹介したときも
驚かれて、「どうして登録できたの?」というように聞かれました。
スコットランドは登録までの道のりが険しいので、未委託はあまりないと聞きます。
ただ、1回委託をして不調で、里親さんの方がしんどくなって、新規の委託を止めるということは、ということは時々ありますけれど、行政の判断で長年委託がないとか、
1回も委託がないということはあまりないです。
英国はすごいと思いますが、
日本には民間より里親にあずけるところがあればいいいなと思いますが、先生はどうお考えですか。
里親さんがもっと増えてと思うのですが、さっきちょっと話題にしましたけれど、
里親さんを増やして、里親さんのところで育つ子どもを増やして、それが幸せなかたちで続くためには、里親支援をするフォスタリング機関とか、そこのワーカーさんとかの体制が盤石なものでなければ、支援がまったくない状態で、丸腰の里親さんのところに委託しても、しんどい里親さんと委託児童が増えていくだけなので、自治体ごとにフォスタリング機関をどうするのか、児童相談所の里親担当のワーカーをどう増やしていくのか、とかを考えないといけなくて、今の状態では、里親さんを増やしてもしんどいかなと思います。
スコットランドでは子どもの権利条約にもとづき子どもの権利が根底にあることが
わかりました。日本では子どもの条約すら、浸透されていないと思います。
それについてどう思われますか。また1人の子どもが2重3重家庭の経験があるということですが、学校の転校は子どもの安心を脅かすのではないでしょうか。
幼児さんだけでなく、学童の子どもについて環境が影響することを教えてください。
これは日本よりスコットランドの方が深刻な問題でして、スコットランド全土で措置変更が行われるので、言葉のなまりとか、文化とかも、都会と離島では全然違うわけです。
とにかく施設ではなく、里親、つまり家庭養護が10歳までは大事だからという理念のもとで、措置変更が繰り返されるので、里親さんの家庭はいいんだけれど、学校が嫌だとか、前の学校の友達に会いたいということで家出をしたりとか、なんとかして前の地元にもどろうとして、問題行動を起こすことが、非常に多いので、スコットランドからの良い取り組みを紹介できることができません。スコットランドが頭を悩ましていることの1つです。
子どもの権利いうところでは、すごく大事にされていて、何度も言われたのは「家庭で育つ権利があるという一文をもっと重く受け止めなければならない」ということです。
日本は里親より施設養護が主流であることをいうと、もっと早く改善しないといけないと言われます。もう1つは子どもの意見を聞く仕組みはスコットランドでは昔からあって、実親と会うか会わないかとか、実親と会う意見表明権利が委託児童にあります。その中で、ソーシャルワーカーの関わりも入ってくるのですが、ケア会議にしても子どもが参画できるということは、子どもの権利が保障されているところかと思います。
子どもの意見を聞かれる権利ということは、保障の一環として、半年ごとの支援計画を立てる会議に、里親さんと子どもも参加ができて、子どもの目標、里親さんの家にいるときにしたいことは何かを、自分で立てたりすることができます。
スコットランドでは、里親会がありますか。
里親会はあります。里親さんの当事者の会ですね。それぞれのフォスタリング機関ごともありますし、全国のネットワークもありました。お互いの自治体の近況報告をしたり、新しい法律についての里親会として意見を表明するソーシャルアクションも行っておりました。
日本の里親委託のシステムでは、委託解除後、里子と連絡がとれないことが多いと思います。伊藤先生の息子さんが「里親むなしいな」という発言がありましたが、そこに対するフォローはどうされましたか。
1つ目のフォローは児相のワーカーさんから、お疲れさま、という会を持ってもらいました。もう1つは、委託解除後、連絡を取らないでくれと児相から言われるケースが多いです。その中で、委託解除後も連絡を取ってい言う子もいるのです。レスパイトでうちにくるといったことや、虐待ケースじゃなくてうちにきた子なんかは、解除したあとも実親との間で交流があったりしています。児相に、実親と連絡先を交換しても良いですかとか、措置変更先の里親さんと連絡をとっても良いですか、などを尋ねています。そして交流が可能な子とは関係を継続しています。そうした実子も委託児童の様子がわかったりして、お互いの成長を知ることができています。
里親になるのに実子に対して、日本では面談をしていないということですが、これからはしていくのでしょうか。
そうですね。これからはそういう方向性になっていくのかなと思います。
今いろいろな自治体の審議会や会議に出席していますが、里親の家庭で養育が難しくなったり、不調になったりする要因の1つに、実子と里子との関係とか、実子の調子が悪くなるとかもあったりするので、委託児童の声に耳を傾けるだけでなく、実子も子どもなので、実子の声に耳を傾けることも大切なので、きっとそうなっていくんだろうなと思いますし、そうなるように私も発言しています。
親の記憶がない養子に親のことを伝えますか。また実の親の記憶がある里子とない里子で接し方を変えた方がいいのでしょうか。
難しいですね。児童相談所の支援方針とも関係するのかなと思いますが、スコットランドでは、親の記憶ない養子さんに対しても「出自を知る権利」というのが、子どもの権利条約にはありますので、4歳とか5歳とかで少しずつ、産みの親が別にいるということを絵本を使って説明したり、ライフストーリーワークをしていく中で、進めたりしていました。
実の親の記憶がある、ないではなく、子どもにあった接し方があると思います。
実の親と生活てきた委託児童については、その生活習慣を頭ごなしに否定しないようにして、尊重するような声かけも大切だと思います。
イギリスは宗教や人種が違ったりしますので、必ずしも同じ人種や同じ宗教という条件で委託されるわけではないので、そこの部分での配慮をしているということを聞きました。
フルタイムや転勤の多い勤務でも里親になれますか、とありますかという質問にお答えします。
フルタイムでも転勤が多くてもなれるのですが、
日本だと各自治体登録になるので、例えば大阪府で里親をしていて、東京に引っ越すということになれば、東京でもう1回里親登録をする必要があります。ただ大阪で里親としていたという実績は残ります。転勤が頻繁になると委託児童を長期に受けることが難しいかと思います。一時保護専門とか短期専門の里親さんとしてご活躍できるのかなと思います。
逆にフルタイムの場合だと「急に仕事休めますか」とか、3歳児が来て急に保育所に入れるのは不可能なので、生活が変わる覚悟を問われるかと思います。
伊藤先生が里親としての養育をしてきて、本日の講演の中でも出てきたポジティブストロークは大事なキーワードの1つだと思いますが、心がけているポジティブストロークはありますか。
実際の生活のなかで、いいことしたらほめようと思っていても、なかなかいいことしてくれないから、なかなかほめるチャンスがないので、当たり前にやっていることをほめるという声かけを大事にしています。
朝起きてきて、元気のいい挨拶がきたら「今日は元気のいい挨拶で気持ちいいね」とか、
読み終わった本を自ら本棚に直していたら「本棚に本をしまって偉いね」とか、当たり前にみえることを実子も委託児童に対しても言葉にして、褒めるようにしています。そうしたら機嫌もよくなって、次も同じ行動をしてくれるようになります。
単身でも里親はできますか。
今、日本でも単身でなれることはできます。ただ、里親審査部会に出席していますが、もしこの方が病気になったり、しんどくなったときにサポートしてくれる親戚やお友達がいるのかどうか、を確認してもらうようにしています。単身の里親さんが一人で養育を抱え込んだり、気軽に相談できる人が公的機関の人しかいないということになったら、
しんどいかなと思うので、近くに助けてくれる人がいるかどうかを、児童相談所の人に確認するようにしてもらっています。
60歳から乳児を委託できるかと言えば、短期だったらできるかもしれませんが、養子縁組になると健康面で心配されることになるかと思います。
お話の中でもふれてきましたが、里親になりたいなということで、自分の関心のフラグが立って、実際に里親になる手続きといった行動に移して、子どもの養育の委託を受けてというのは大変なんですけれど、里親さんだけで抱え込むというのは、大変なので、普段からSOSを出せる里親さんであってほしいと思います。同じように実子のいる里親さんの強みもあります。しかし実子が寂しい思いをするとか、リスクもあります。実子のケアとか、実子のいる里親さん同士のつながりを作りながら、孤立しないで養育していけたらいいなと思います。しんどさも楽しさも共有できる仲間づくりができたら嬉しいな、と思います。
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社会的養護のその後と当事者参画
8月28日13:00-15:00講師永野 咲 氏
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