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今回の講演者
野口 啓示 氏
福山市立大学教育学部教授
講演内容① 家庭的養護へのこだわり
それ以前は18年間、神戸市にある児童養護施設で職員として働いていました。
10年間、児童指導員をして、その後、38歳で施設長をさせてもらいました。
若い施設長でやる気に満ち溢れ、楽しい日々を過ごしていました。
児童養護施設で18年過ごしてきた中で、達成できたと思えることがあります。
一つは施設の小規模化、つまり家庭的養護へのこだわりとその実現です。
もう一つはペアレントトレーニングです。
【施設の小規模化、家庭的養護】
野口氏は大学時代から施設でボランティアをしていたタイプではなく、偶然に養護施設に出会ったそうです。
野口氏は阪神淡路大震災があった年、1995年に大学を卒業しました。その頃ちょうど大学院に進学することになっており、ファミリーセラピスト、家族療法家になりたいと思っていたといいます。
「児童相談所で実習をしていたため、児童相談所の職員になれればいいかと思っていました。専門職として社会福祉の分野で働くため、大学院への進学を決めました。そんなときに阪神淡路大震災が起こり、自分はいつどういったタイミングで支援を受ける側になるのか、わからないと思いました。その後、関西学院大学のボランティアセンターを立ち上げ、学生代表を務めました。」
阪神淡路大震災は「2つの元年」と言われています。
1つは「ボランティア元年」、もう一つは「心のケア元年」と言われています。
当時、心のケアの実践家が海外から来られ、たくさんのセミナーを行ってくれました。
関西学院大学でも海外から大学教員や実践家を招きました。
私はアシスタントをする中で、海外は進んでいることを実感しました。
関西学院大学の修士課程を修了した後、ワシントン大学へ留学しました。
ワシントン大学にて修士課程を過ごし、その後博士課程にも進学して、大学の先生になれればと思っていました。
ただ、私はずっと学生として過ごしてきたわけで、このままどういった研究者になるのかということを考えるようになりました。専攻しているのは社会福祉の分野であるから、
現場で経験を積むことも大事だと思い、現場で働こうと思いました。
【児童養護施設の職員として過ごした日々】
日本にいる友人に連絡をして、社会福祉の現場で働きたいという思いを伝えました。
しかし友人は大学での学びしかない私に無理だと言いました。
私はそのような反対の意見に燃えて、絶対にやってやると思いました。
ただ、友人から神戸にある施設の児童指導員募集の話を聞いて、応募し、施設の職員となりました。
当初、児童養護施設で2年間働いた後、またアメリカで勉強しようと思っていました。
しかし施設でいろいろな出会いがありました。
一つは私の妻と出会ったことです。出会った当初、彼女は主任指導員でした。
魅力的な女性で、出会って一年も経たないうちに結婚しました。
もう一つは、施設の規模の問題でした。施設は大舎制で、ハード面からみて、よくない環境でした。
このような状況にある施設を変えていかなくていけない、そしてこの施設から日本中の施設を変えていくことを28歳の頃、強く思っていました。
まず施設長になるという目標にし、10年かけて実現しました。
運よく2000年頃から施設のリニューアル工事が決まり、私はとても面白い経験をすることができました。目指すところは大舎制の施設をもう一度つくるのではなく、小舎制にしていくことでした。
結局、当時では珍しいユニットケアの小舎制へと変わりました。児童に対して職員の数が足りず、週に3回も泊まりがありました。自分の中では一つの到達点にあると思いました。
【家庭的養護への取り組み】
私の妻は結婚と同時に、退職しました。
施設の中に家族寮があり、そこに住んでいました。
生活の中で、妻は子どもたちに会いにいったり、たまに子どもを家に招いたりしていました。
私たち夫婦に実子はおらず、数年経ち、夫婦としてできることをやりたくなりました。
夫婦が住み込んでホームをやっていくことを考えるようになり、そのモデルとして教護院、今でいう児童自立支援施設に注目しました。
関西の方では、わりと夫婦で教護院をやっているところがあり、そのようなところを見学に行きました。
施設長に、分園をしたいと申し出ました。
一方で、私はファミリーソーシャルワーカー(家庭支援専門相談員)になり、ホームとともに仕事をしました。ホームを始めたのが2003年ですので、もう20年が経ちます。
大学教員となるために、施設を退職するにあたり、通常は職員が去るのですが、ホームの子どもに別れをいうことはできなかったので、ファミリーホームに移行しました。
ファミリーホームにいた子どもが結婚し、子どもができました。
その子どもが私のことを「じいじ」と呼んでくれて、とても感慨深いです。
子育てを20年やった経験をもとに、ペアレントトレーニングを通して、一般の家庭支援をしてきました。
一般のご家庭には子どもは1人か2人しかいません。しかも子育ての時期は集中しています。一回切りなのです。
しかし私の場合、19人の子どもを育ててきました。その中でもいろいろなことがありました。
講演内容② 最近の養育の難しさ
野口氏は「最近、養育が難しいと思うようになってきた」といい、その要因には、発達障害のあるお子さんが増えてきたことや、虐待体験のある子どもが多いことにあると指摘します。
「私のところに来る子どものほとんどが、虐待体験をしています。特に高年齢児のお子さんを養育することに難しさがあるかと思います。私の場合、中学3年でお受けしたあるお子さんがいました。そのお子さんは幼少期を児童養護施設で過ごしていました。
そして措置変更で里親のところに行きましたが、里親不調となりました。その後、私のもとに来るのですが、虐待体験の影響があり、養育は難しいものでした。」
また、避けられないのはインターネットの影響です。委託児童に、どのタイミングでスマートフォンを与えるのかは重要な問題です。
野口氏のところでは、スマートフォンを持つのは高校生からと決めていたそうです。
「スマートフォンを与えることで、生活が崩れていくことがありました。ある子どもは、昼夜逆転し、ネットゲームにより、いろいろな人と出会ったようでした。
犯罪に巻き込まれました。私たち夫婦と子どもとの関係性が難しいことも背景にあったと思います。結局、家出を繰り返すうちに、警察に保護されました。
警察から迎えに来るように連絡が来ましたが、私たちは応じることができませんでした。
児童相談所に仕切り直してもらって、今後の過ごし方を考え直してほしかったのです。
その子は高年齢児で家庭復帰をしました。それが正しいのか、今でもわかりません。」
講演内容③ ペアレントトレーニングの紹介
【バッドサイクルとトラウマ】
ペアレントトレーニングの「バッドサイクルとトラウマ」について教えていただきました。
子どもの「問題行動」が、次に、大人の「イライラUP」を引き起こします。
イライラUPの原因はストレスにあり、人間はストレスに対処して生き延びてきたわけです。「イライラUP」すると「暴力的なしつけ」になる可能性が高いです。
そうすると、「暴力的なしつけ」→「子どもとの関係悪化」→「子どもとのコミュニケーションの質・量の低下」となり、「子どもの問題行動」へと戻り、バッドサイクルが繰り返されます。
このようなサイクルの原因は、「トラウマを起因とした緊張状態」と言えます。子どもの問題行動により、養育者はストレスを抱え、緊張状態となります。
【グッドサイクル】
それでは「グッドサイクル」とはどういうものかご紹介します。
「誉める教えるしつけ」→「子どもとの関係改善」→「子どものコミュニケーションの質・量の増加」→「子どもの問題行動減少」→「イライラDOWN」→「誉める教えるしつけ」というサイクルが、グッドサイクルです。
グッドサイクルの流れが良いことは誰でもわかりますが、なかなか実現できません。
その原因はトラウマにあります。
里親さんのもとには、さまざまトラウマをもった子どもが委託されてます。
里親さんの家庭では、バッドサイクルが起こりやすい環境です。
そうならないためには、夫婦の関係、里親同士の関係が大切で、自分の思いを聞いてくれる機会・場所が必要になります。
サポートティブな関係が構築できていないと、良好な養育が難しいでしょう。
まず「具体的にいいましょう」ということが一番始めにあります。
(来客編)
「ちゃんとしなさい!!ママはずかしいでしょう!」というのではなく、
「お客さんが来ているときは、こんにちは とあいさつをして、お部屋に入ってね」と伝えるようにします。
(買い物編)
「スーパーで今日はいい子にしていてね!!」ではなく、「おうちにアイスクリームがあるから、今日はおやつは買わないよ。買って買ってとは言わないでね」というような言い方が良いです。
このような言い換えは、養育の場でとっさに出てこないと思います。
私はそれはそれでいいと思っていて、子どもを叱るばかりではいけないのが重要なのです。
今まで改善例のような言い方をしてこなかったので、できないのは当たり前です。言葉につまっていいのです。今までのパターンを変えようとしているから、言葉つまって当然なのです。
ペアレントトレーニングに対する私の考えは、子どもとの関係性を重点においています。
【共感的表現】
共感的表現とは「○○したい気持ちはわかるけど、~しようね。」という表現です。
親が子供に共感し、寄り添おうとする気持ちが、子どもに新しい行動を動機付けようとする力を与えます。
例えば「おい!ご飯だ。テレビ消しなさい!」ではなく、「テレビ観たい気持ちはわかるけれど、ごはんだからテレビを消すよ」といった表現で子どもに伝えるようにします。
【「ダメ!ダメ!」って言ってませんか?】
例えば「妹の物取ったらダメでしょう!」ではなく、「使いたいときは妹に使っていいか聞こうね!」と子どもに伝えるようにします。「ダメ」という禁止の言葉より「~しようね!」という期待を子どもに伝えましょう。
当然のことですが、里親さんは子どもを殴っていけません。それは被措置児童虐待にあたります。
里親さんはストレスを抱えることが多いと思います。なので、ストレスをため込まず、誰かに話しを聞いてもらうなどの発散が必要になります。
【がんばり表をつくる】
子どもにしてほしいことがある時に、それを表にすると、わかりやすく伝えられ、子どものやる気を引き出すことができます。
たとえばルーティンを一覧して、月曜日から金曜日まで、達成できたのかどうか、表に書き込んでいきます。
これは自閉症スペクトラムやADHDのお子さんに適しているかと思います。
自閉症の子は見立てができると、物事に取り組みやすいことと、ADHDの子は次に何をやるのか忘れてしまうので、この表で確認しながら取り組めるようになります。
「ほめ方」とは子どもの側に立った理由を伝えましょう。
お母さんは子どもに「わあ、スゴイ!!今日は約束どおりの時間に寝る準備ができたね」、
そして「今日みたいだと、絵本が2冊読めるよ!絵本選んできてね!」と言うようにします。子どもが「明日も絵本を2冊読んでほしいから、また早く寝よう!」という気持ちになるようにしましょう。
【最後に・・・】
昔は私も子どもの問題行動をどのように抑えるのかを考えていました。しかし、なかなかそれは難しいようです。子どもの問題行動はなかなか無くならないです。必要なことは、グッドサイクルを作っていくことなのかもしれません。
参加者からいただいた質問
里親をしていて大変だなと感じるときを教えてください。
野口先生
トラウマを抱えている子ども、思春期の子ども、里親不調となった子どもです。
里親不調になった子どもが次の行先となるのは、施設になるかもしれません。
しかし施設が断った場合、また他の里親の所へ行くことになり、再び里親不調になることもあります。
相澤氏
里親不調がありますから、限界設定が必要になると思います。
野口先生にとっての限界設定はどのようなものか、教えてください。
野口先生
児童相談所と密に連携し、伝えるべきことは必ず伝えるようにします。
自分の意見が児童相談所にどのように思われるのか、あまり気にしないでおくことです。
講演の中で、里親不調となった女の子は何年間、野口先生のところにいたのですか?
野口先生
2年間です。里親不調になる前から児童相談所に一時保護について相談をしていました。
そして里親不調となったことから児童相談所での保護を求めることにしました。
岩朝
養育里親さんにとって、児童相談所に対して一度断ると、もう子どもを措置してくれないと思ってしまいます。
だから里親と児童相談所の間に第三者がいてくれたらと思います。
ファミリーホームを作りたいのですが、子どもが委託されてきません。
児童相談所に取り合ってもらえません。どうすればいいでしょうか。
野口先生
児童相談所がその里親さんのところに、児童を措置しない理由がわからないので、はっきりとは言えません。できることから始めてみるのはいいかもしれません。週末里親や季節里親をしたり、養護施設でボランティアをすることで、関係性を作っていくことです。
里親が実子を育てた感覚で、委託児童を養育していくと、問題が生じてきているようです。どのような意識でいればよいでしょうか。
野口先生
家族には、いろいろ秘密があるのです。しかし里親となれば、家族は社会に開かれた存在になるのだと思います。そのため実子では許されたことが、委託児童に対して許されない関わりも出てきます。この点を意識する必要があると思います。
相澤氏
その家の文化で、「良い」と思っていたものが、不適切な養育になることもあります。
里親であるためには、国や自治体が出しているガイドラインを確認してほしいです。
野口先生に対して児童養護施設にいた子どもが口をきいてくれなかったエピソードをお話し願います。
野口先生
施設に勤めていたころ、中学3年で受け入れたある子どもがずっと私のことを無視していました。あいさつなど声をかけていましたが、3年間、ずっと無視されました。
しかし進路を決める時期になったある日、その子は私たち夫婦に「話がある」と言ってきました。そしてその子は「今まで無視してきてごめんなさい。野口先生が普通に接してくれたことがうれしかった。」と言ってきてくれました。
うれしかったです。本当にこんな日がくるなんて、思ってもいませんでした。
その子は退所前に私との関係を改善してくれました。
里親さんのもとにくる委託児童が不登校になるケースが多いようです。
里親さんはどのようなアプローチをすればよろしいでしょうか。
野口先生
ケースバイケースによる部分が多いと思います。不登校ということを、どこまで里親が受け入れられるのか、委託児童にとって不登校であることを良しとするのかによると思います。
フリースクールに行くとか、どこか社会とつながっていてほしいと思います。
委託児童に関わる金銭の扱いについて教えてください。
子どもの養育とは、『形』ではなく『機能』だと思います。今日はアタッチメントの話をしましたけれど、そういう機能を果たすことができれば、一人親であっても構わないです。
ただし、養育者の人数が少なければ少ないほど、養育負担は増加していきます。
野口先生
委託された子どもからお金の相談をされる場合、それぞれの経済的状況で対応をされるのが良いと思います。私の場合、基本的には援助しません。
その代わり、公的なもの(生活保護など)で対応するように一緒に探すお手伝いをします。
措置変更にあたり、子どもの意見が反映されないと聞きました。
相澤氏
令和6年から、子どもの意見を反映されるような仕組み変わります。
(児童福祉法(令和6年4月1日施行)
野口先生
科学的に子どもとどのように関わるべきなのか、だいたいわかってきています。
私(里親)の祖母が委託児童に対して厳しいです。
岩朝
里親は虐待を受けた子どもの特性を研修などで学習しますが祖母は一般的な子育て経験しかないため、違和感をもつかもしれません。
野口先生
ファミリーホームをしている夫婦の息子が何も学ぶことなく、虐待をしてしまい、廃業となるケースがあります。同居する家族、補助者へのトレーニングも求められます。
関わる人が増えれば増えるほど、楽になる部分と、混乱する部分があります。
多様な背景をもつ職員がいる児童養護施設ではこの課題がつきまとうといえます。
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