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今回の講演者
西村 英一郎 氏
きずな大阪法律事務所 所長
弁護士登録後、大阪弁護士会子どもの権利委員会・同家事法制委員会・同犯罪被害者支援委員会・同人権擁護委員会などに所属。現在は、主に大阪弁護士会子どもの権利委員会及び家事法制委員会で活動
講演内容① 基礎知識
【里親制度の概要】
里親制度は、かわいそうな子に恩恵を与えるというものではなく、子どもの権利保障のための制度(社会的養護)で、里親は、その担い手である。子どもには代替的養護を受ける権利があり、これが里親制度の骨格となります。
次に、西村氏は「ご自身が里親として養育する際、この3つの観点からのアプローチをしていただければと思います」と、里親制度に期待されている効果を挙げてくださいました。
【里親制度に期待されている効果】
①家庭的の環境で、自己肯定感・基本的信頼感を獲得すること
②将来の家庭モデルになること
③社会性・生活技術の獲得をすること
【里親の立場~社会的養護の担い手に求められること~】
里親として社会的養護の役割を果たす上で求められる内容について学びました。
主人公は子どもであり、彼らは権利を持つ存在であることが強調されました。
子どもを取り巻く状況では、保護者や児童相談所などが関与し、里親が必要とされる場合もあります。ただし、里親を必要としない場合には、保護者が第一次的な養育責任者となります。保護者には「親権」という権利がありますが、これは責任を意味するものとされています。
親権に関して、「権」という字から保護者が権利を持つと誤解されがちですが、実際には子どもに対する責任を意味します。この誤解が生じることで、子どもに対して何でも許されるという感覚が生まれ、子ども虐待へと繋がる可能性があると指摘されました。
権利の話題は、第三者が関与する場合に登場します。例えば、第三者が子どもを誘拐した場合、親権が発動されることになります。ただし、子どもとの関係において保護者の権利を乱用することは基本的には起こりません。子どもは保護者とは独立した人権を持つ存在であり、その基本的人権が保障されるべきだということが強調されました。この点は保護者だけでなく、一般の人々にも広く意識されるべきであるとの考えが示されました。
第一次的な養育責任者が養育に困難を抱えている場合、里親などの社会的養護の担い手が登場します。里親は保護者と似た立場にありますが、社会的養護の役割を果たすという公的な役割が求められます。里親の養育活動は客観性を持つ必要があります。
子どもには人権があることは広く知られていますが、里親もまた人間であり、人権を享受する主体です。社会的養護の担い手である里親が人権を保障されない状況では、適切な養育が行われず、子どもの人権も保障されません。
このような構図の中で、里親は社会的養護の担い手としての責任を果たすために必要最小限の制約を受けることになります。里親は保護者と比べて制約の中で養育を行う必要があります。また、里親には専門性やスキルが求められることも指摘されました。
講演内容② 落とし穴ー虐待の理解と予防ー
続いて、虐待の理解と予防について学びました。
被措置児童等虐待には、里親による虐待も含まれることが説明されました。虐待は一般的に、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待の4つの類型に分類されます。
虐待は単一の類型で発生する場合もありますが、複数の類型が重複することもよくあります(重複性)。さらに、虐待はエスカレートする傾向があります。
被措置児童等虐待が重度である場合、措置児童の死亡や後遺症を残すケースも存在します。私たちの目指す目標は、より良い対応、すなわち「適切な養育」です。しかし、「軽度といえるような虐待」と「適切な養育」の間には、グレーゾーンが存在することが説明されました。軽度とされる対応であっても、虐待と認定される可能性があるということです。
虐待は誰にでも起こり得ることであり、この認識は非常に重要です。
【虐待に関する自己診断から学ぶこと】
項目の虐待に関する自己診断をしましょう。(セミナー資料の自己診断の質問事項のページをご参照ください)
※質問事項とコメント(矢印(→)以降)は次のようになります。
No.1 「子どもには、叩いて教えないといけないこともあると思う。」
→しつけと体罰にあたります。
No.2 「気分が悪いとき、気に入らないことをされると、つい感情的になり、小言を言ったり、ののしったり、してしまうことがある。」
→心理的虐待の類型に属します。
No.3 「忙しいときや、イライラしているときに話しかけられたとき、冷たい対応をしてしまったことがある。」
→ネグレクト・心理的虐待にあたります。
No.4 「視線を合わせず、背中ごしの会話をすることがある。」
→ネグレクト・心理的虐待に該当する可能性があります。
No.5 「自分の悩みを率直に他人に相談できないタイプである。」
→孤立しやすい・抱え込みやすいタイプです。
No.6 「ケンカになって相手を叩いたり、ののしったりしたことがあるが、その原因は、私を怒らせるようなことをしたからだと思ったことがある。」
→責任転嫁の発想であり、これが続くと改善困難性となります。
No.7 「そういえば最近、ゆったりした時間を持ってないぁと思ったことがある。」
→疲労がたまっており、判断能力が低下している傾向にあります。
No.8 「最近、アルコール量が増えた。過食ぎみ、不規則な生活など、体調管理面で気をつけないといけないなと思っていることがある。」
→ストレスを抱えていることが原因にあるといえます。
No.9 「言い過ぎてしまった、やり過ぎてしまったと後で思うことがある。」
→感情コントロール力が低下し、さらにエスカレート性へとつながっていきます。
No.10 「他人が自分を怖がったり、おびえたりしているように見えることがある。」
→客観的に自分の行動をみることができなくなってきている点を考慮すると、客観視・コントロール力が必要になってきます。
【自己診断で伝えたかったこと】
ギリシャの哲学者であるソクラテスの言葉から「無知の知」や謙虚さについて学びました。ソクラテスの言葉は、「私がわかっていないことを、わかっている私」という意味であり、自分の無知を認識し、謙虚に学び続けることの重要性を示しています。
この言葉は、完璧な人間は存在せず、自己の成長と児童虐待の関連性を指摘しています。
私たちは皆、児童虐待の加害者になるリスクを持っていることを意識する必要があります。自己の限界や弱点を認め、虐待に陥らないようにするための工夫が重要です。大人であっても、成長し続ける存在であり、完璧ではないということを理解しなければなりません。
「やってもいいんだ」と「やってしまった」は異なるものです。前者は言い訳をし、虐待を改善しない姿勢を示していますが、後者は自己のミスや過ちを認識し、改善する意思を持つことを意味します。西村氏は、論語の言葉である「過ちて改めざるを過ちという」を引用されました。ミスを犯した際にそれを改めないことこそが過ちであり、問題とされるという教えです。
児童虐待を予防するためには、自己の無知や弱点を認識し、謙虚さを持ちながら成長し続けることが重要です。ミスや過ちを認め、改善する姿勢を持つことが必要です。また、社会全体での啓発やサポート体制の充実も重要な要素となります。児童虐待を防ぐためには、個人としての自己成長と、社会的な取り組みの両面が必要であり、講座を通じてその重要性を再確認しました。
【虐待の影響イメージと適切な養育】
例として、スーパーで子どもが騒いでいる様子を目にする場面が挙げられ、この場面から意識すべきポイントが示されました。
子どもの身長が平均85.4cmであり、親(20〜29歳の女性)の平均身長が158.7cmであると考えると、身長の比率を考慮すると子どもは大人からの怒りや叱責を受ける際に、約240cmの巨大な存在から怒られているような圧迫感を感じていることが示唆されます。
このポイントから、子どもとの接し方を考える際に以下の3つの意識を持つことが重要であると説明されました。
①目線の高さを合わせる
②そばにいく
③優しい表情と丁寧な言葉
西村氏はこれらの意識を持たないと、大人が子どもに対して威圧的になりやすくなると説明しました。
講演内容③ 子ども理解と子どもの権利
子ども権利条約には、「生きる権利」「守られる権利」「育つ権利」「参加する権利」という大きく4つの権利が存在することが説明されました。
虐待は明らかに人権の侵害とされますが、他の状況においても子どもの権利の保障の強度が異なることが指摘されました。
例えば、学校生活で問題行動を起こした子どもの登校を禁止する場合でも、その目的が反省させることであっても、人権侵害とならないように行われる必要があります。
一方で、子どもたちには食事をおいしく食べたい、ゲームや携帯電話を使いたい、門限を自由に決めたいといった希望や権利も存在します。子どもの権利条約の「育つ権利」を考慮しながら、子どもの権利の保障とルールの必要性を両立させる必要があります。
子どもたちには、権利があり、「虐待」、「反省のための登校禁止」、「ゲーム・携帯電話・門限など」という状況において、子どもの権利の保障の強度が違います。(権利のグラデーション)。
子どもの権利はグラデーションを持っており、虐待は明らかな人権侵害ですが、例えば「学校から帰れば、一歩外に出てはいけない」という状況は子どもを監禁し、子どもの権利を侵害する行為となります。
【可能性の種】
次は、西村氏からクイズが出題されました。
「一人旅をして、船が沈没しました。何も持たずに、ようやく小さい島にたどり着きました。まず、何をするでしょうか?」
このクイズを考えながら、次の話を聞いてください。
「可能性の種」のお話です。人の内側には、30人いれば30色の「可能性の種」があります。
子どもが育つ中で、
①「当たり前のように」お腹いっぱいご飯をたべることができ、
②「当たり前のように」安全に暮らすことができ、
③「当たり前のように」ひとりぼっちじゃなく、誰かとのつながりを感じることができ、
④「当たり前のように」いいね♪と褒められます。
さきほどのクイズを考えると、上記4つが順番に満たされていないといけないと思います。
里親のもとへ委託される子どもは、この「当たり前」が欠けています。そのような委託児童を里親は養育することになります。
上記の4つの当たり前を里親が満たすことで、子どもは自分らしく、無理せず花を咲かせる過程を楽しみ、Only oneの花を咲かせることができます。
私は、「里親は未来を育てている」と信じています。
里親には「里親と委託児童は、お互いに影響しあい『今を共に育っている』」ということを意識してもらいたいです。委託児童の感じていること、考えていることを里親が感じてほしいです。養育にしんどい時期があったとしても、子どもの感性を大切にし、里親自身も成長していっていただければと思います。
【里親と委託児童はお互い影響しあい「今を共に育っている」】
西村氏は「里親は、未来を育てています。委託児童だけを育てているわけではなく、育てる過程で、子どもの感性・思考・行動を里親は感じると思います。感じた里親も育っていきます。」と話し、ご自身が子育てしていた時に紹介されたという1冊の本を教えてくださいました。
「子どもが育つ魔法の言葉(ドロシー・ロー・ノルト/レイチャル・ハリス/石井千春 訳)」という本の詩を引用します。
“子は親の鏡
けなされて育つと、子どもは、人をけなすようになる
とげとげした家庭に育つと、子どもは、乱暴になる
不安な気持ちで育てると、子どもも不安になる
「かわいそうな子だ」と言って育てると、子どもは、みじめな気持ちになる
子どもを馬鹿にすると、引っ込みじあんな子になる。
親が他人を羨んでばかりいると、子どもも人を羨むようになる
𠮟りつけてばかりいると、子どもは「自分は悪い子なんだ」と思ってしまう
励ましてあげれば、子どもは、自信をもつようになる
広い心で接すれば、キレる子にはならない
誉めてあげれば、子どもは、明るい子に育つ
愛してあげれば、子どもは、人を愛することを学ぶ
認めてあげれば、子どもは、頑張り屋になる
分かち合うことを教えれば、子どもは、思いやりを学ぶ
親が正直であれば、子どもは、正直であることの大切さを知る
子どもに公平であれば、子どもは、正義感のある子に育つ
やさしく、思いやりもって育てれば、子どもは、やさしい子に育つ
守ってあげれば、子どもは、強い子に育つ
和気あいあいとした家庭で育てば、子どもは、この世の中はいいところだと思えるようになる”
(出典:ドロシー・ロー・ノルト,レイチェル・ハリス.子どもが育つ魔法の言葉.石井千春(訳),PHP研究所.2003.263P.)
書籍URL
https://amzn.to/3ol7cfz
講演内容④ ケースstudy
4人の弁護士が関わるほどの困難なものだったというケースを紹介してくださいました。
発達には段階があり、一段でも上ることができなければ、次の段階に進めません。
虐待を受け、傷ついた体験を引きずると、発達の階段をのぼっていけません。
このケースの子どもは、何もない/激しい「ひとりぼっち」感にさいなまれ、物事を自分で決められず、周囲の顔色を見ていました。
また辛いときでも、笑うような顔になることもあり、適切な対人関係を選べない状況になりました。携帯電話を持つと、すぐに返信しないと、心配になり、携帯電話を常にチェックしていました。適切な関係を築けない子どもに、どのように生きるエネルギーを与えることができるのかを考えました。
そこでハイキングをすることで、次のようなことを考えました。
・きれいな景色をみること→ワクワクする感じを体験してもらう。
・携帯電話からの一時解放→電波がとどかないため、携帯電話と距離を置く。
・おいしい飲食と注文→自分で何かを決める体験をさせる。
・写真アルバム→良い思い出を思い起こし、記憶にとどめられるように形にする。
このように子どもの発達を地道にサポートしていかれ、今ではその子は結婚して、子どものいる家庭を築いているそうです。
【最後に】
里親のもとには様々な過去を持つお子さんが委託されると思います。
その子が持つ、虐待などの背景を考慮にいれながら、たとえ完璧ではなくとも、満たされていないところを少しでも満たす養育をおこなっていただければと思います。
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