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飯田氏は児童相談所での勤務を経て、ご主人の転勤を機にフリーのスクールカウンセラーや臨床心理士として20年以上の豊富な経験を積まれました。
現在は相澤先生と同じ大分大学で共に研究や教育に取り組んでおられます。
冒頭に「皆さまが日頃より里親をされたり、興味を持ってご参加いただいているということに本当に頭が下がる思いです。子どもたちのために引き受けられて、さらに勉強されているということで、このような一生懸命なお姿は、お子さんたちへの還元につながっていくと思います。並々ならぬ努力でお子さまを育てておられる、あるいは育てようとされている皆様に本当に子どもに代わって感謝を申し上げます」と皆さまへの深い尊敬と感謝の気持ちが伝えられました。
今回の講演者
飯田 法子 氏
大分大学福祉健康科学部 准教授
講演内容① 児童相談所でのこどもの関わり
過去の乳児院での指導方法
飯田氏にとって思い出深いのは、乳児院でした。乳児院でのセラピストを月に1回、臨床心理士会から派遣されて担当されていました。その時に驚いたことは、職員から「泣いたら放っておきなさい、構うと泣くから」と言われたことです。
2〜3歳までお預かりする施設で、保育士に愛着がつくと困るからつけないようにという指導がなされていたそうです。
飯田氏は子どもの気持ちを代弁して相談したのですが、当時は「仕方ない」という風潮で指導に至りませんでした。
愛着の問題を抱えた女児の事例
飯田氏は心理士として、プレイセラピーの技法を行ってきました。当時小1の女児のことは今でも印象に残っています。このお子さんは軽度の知的障害があり、義母はうまく育てられないことで、このお子さんを虐待するに至ったようです。いたって普通の人懐っこい子でしたが、プレイセラピーを通して関わると、こんなことが起こりました。
飯田氏が呼ばれて行くと「来ないで!」と大きな声で拒否するようになったのです。しかし「やっぱり来て!」行こうとすると「来ないで!」これが何回も繰り返されました。
当時はよく分かっていませんでしたが、深い関係をつくることに怖さがあるのです。このような子どもたちは、「心を許すと何かされるのでは?」と、人を信じられない気持ちを持っているのです。
「ニコニコしているから愛着には問題ない」と言われがちですが、そうではないということを飯田氏は強調されました。「里親の皆さんが子どもの対応に困ったときは、この可能性があることを念頭においてください」とアドバイスがありました。
講演内容② 愛着形成に関する研究
里親は「安心感の輪」の両手になる
飯田氏は「安心感の輪」を紹介してくださいました。
「安心感の輪」とは、まず安心の基地があり、外の世界に出てみたいと子どもが思ったとき、見守ってほしいと思っているんです。しかし、怖いことがあり、「安全な避難場所に戻りたい」と思ったら、「いいよ、いつでも戻っておいで、怖かったね、痛かったね」と両手で支えてもらうと、また安心して外に出ることができるという考え方です。
飯田氏は、安心の基地、安全な避難所があるかどうか、これが里親さんが親に代わってになっている役割だとおっしゃっていました。
子どもたちは外に出ていく前に、里親が「本当に私を守るか」を確認するために、様々な試し行動を繰り返す可能性があります。ここが確認できると、外に向かいます。そして、外に向かって戻ってきたときに、受け止めてほしいと思うのです。
大人でもこの「安心感の輪」の中にいることが重要で、このような里親を支援する会が、里親にとっての大きな両手になってもらいたいとおっしゃっていました。
安心感の輪を育めないNGパターンも示してくださいました。
子どもが外に出たときに里親が心配しすぎて過保護になるパターン、そして子どもが外から戻ってきて「怖かった…」と言ったとき、「どうしてそんなに弱虫なの!もっと頑張りなさい!」と言って突き放してしまうパターンです。
子どもは、そういったときに欲求不満が生まれて、いろんな問題が生じてしまいます。それなら、わざと悪いことをしよう、ということになることもあります。
さまざまな試し行動をクリアして、「大きな両手」の安心感を得られ、外に出たにもかかわらず、受け止めてもらえなかったときには安心感が揺らいでしまいます。どのような安心感、つまり、どのような「大きな両手」になるか意識しながら関わっていただければいいとおっしゃっていました。
アインズワース博士の愛着理論
米アインズワース博士は、子供が養育者を安全基地として有効に使えているかどうかによって、愛着のタイプをB(安定型)、A(不安定ー回避型)、C(不安定ーアンビバレント型)の3つに分類しました。
「安全型」とは愛着が適切につくられている子どもたちです。これはストレンジ・シチュエーション実験ではかることができます。一次的に母親がいなくなると赤ちゃんは最初は無きますが、母親が戻ってきたときに安心感を得ることができます。これが健康な「安全型」です。
それに対して「不安定-回避型」の子どもたちは、母親がいなくなっても全然心配せず、戻ってきても避けている場合です。その場合、普段母親は子どもを放置している場合が多いです。
次に、「葛藤型」もあります。この場合、母親がいなくなるとパニックになって泣き叫びます。しかし、母親が戻ってきても泣き止まず、母親を怒ります。
もう一つ、「無秩序・無方向型」というパターンがあります。これは、虐待を受けた子どもたちの愛着の型で、問題になる型です。この「無秩序・無方向型」タイプのお子さんは、本来両立しないような行動をすることがあります。
親に甘えたいと思う一方で、怖いから離れたいという両方の気持ちがあるのです。先ほどの事例1の女児に見られる例で、本人もどうすればいいのか分からないのです。
「助けて」と言えない。異常に気を遣って距離を取る。従順でいい子だが脅迫的なタイプと、攻撃的にコントロールしようとする、素直でない、過剰に要求する、あるいは誰でもいい、となって知らない人にもニコニコしてついていく葛藤型というタイプもあります。
講演内容③ 里親と子どもの愛着形成のヒント
愛着は乳児期を過ぎると作れないのか?
飯田氏は「愛着は赤ちゃんのときに作れないと遅いのですか?」という「実は、そうとも言えません。」と話しました。
飯田氏をはじめ心理士は、幼少期を過ぎた子どもたちでも愛着を形成しようと一生懸命仕事をしています。高校生のカウンセリングで愛着形成が進んだ事例も見てきたとのことです。
プレイセラピーをしたときのこと。当時は、非行や盗みなどの問題行動のあったお子さんや、親からの虐待を受けていたお子さんが多くいました。プレイセラピーは子どもが好きなことを過ごしてもいい時間となっているのですが、辛い経験をごっこ遊びの中に取り入れる傾向が見られました。震災後に「津波ごっこ」をする子どもたちの話もよく聞かれますが、プレイセラピーを受ける子どもたちも同様に、辛い経験を遊びの中で追体験し、記憶を消化しているのです。
そんな子どもたちがふとした瞬間に「かくれんぼ」をするのです。最初は、「隠れていたら見つけてもらえないのではないか」という不安が根底にあった子どもたちですが、飯田氏が何度も見つけてくれる遊びを通して、自分の存在を確認しているのです。
それを何カ月も続けて、見つけてくれる人の存在を実感したころに、そのお子さんには、愛着が形成されていくのです。
だから、「あなたを見つけられて良かった」ということを繰り返し言葉に出して言って、大きな手と優しい表情で受け止めていくことが大事だと思います。
虐待経験のある子どもにどう対処したらよいか
飯田氏は、虐待経験のある子どもがどんな行動をとるか様々な例を紹介してくれました。
このようなお子さんに、里親がどう対処したら良いかというヒントは、最初にご紹介した「安心感の輪」です。まずひたすらに「ここは安心な場所だよ。大丈夫だよ」と伝え続けていく。里親さんを本当に信じていいのか試している段階では、困った行動が繰り返される可能性もありますが、「あなたはこうしたかったんだね」と共感して行くことが重要です
そのためにも、まずは暮らしの中でお子さんがどんな思いや希望があるのか少しずつでも聞いてみるといい、と飯田氏はおっしゃっていました。
もちろん通常のお子さん以上に本音を引き出すのは大変なことですが、親の側が勝手に「こうすべき」と決めずに、丁寧に何をしたいか、どうしたいか、聞いていくことは大変重要になります。
またもう一つ大切なのは感謝の気持ちを表すことです。
何かをしてくれたら「あなたが貢献してくれてとてもうれしい」と感謝を言葉にして伝えることで、あなたがいてくれることがありがたい、という気持ちが子どもに伝わっていきます。
子どもの安全基地となり、子どもの思いを傾聴し、寄り添うという姿勢を通して愛着が育まれていきます。
最後に、飯田氏は、村瀬嘉代子先生がおっしゃった言葉をご紹介下さいました。
「一期一会の出会いだ。
この一瞬が相手の人生の転換点になり得るかもしれない。
でも、この一瞬、この一言で相手を傷つける可能性もある。
自分にどれほど気付きを持つ力があるだろうか。
瞬時に心のひだに触れるようなフィードバックする言葉の力はあるか。」
飯田氏がいつも心に留めているこの言葉は、里親さんのチカラにもなるのではないでしょうか。
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