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田中氏は約40年児童心理治療施設で勤めておられ、子どもさんたちを見てきて、思うこと、思春期にどう対応していくかということについて、ご自身の経験をもとにお話をしてくださいました。
今回の講演者
田中 浩之 氏
児童心理治療施設 那須こどもの家 施設長
講演内容① 児童心理治療施設での子どもたち
「那須こどもの家」の生活の様子
現在田中氏が勤めている「那須こどもの家」は児童心理治療施設です。
児童心理治療施設は、全国に53か所あり、今から60年ほど前に日本に誕生しました。
当時は、非行や万引きをする子どもに対して、心理的な問題にアプローチしていく役割を担っていました。時代とともに、非行をする子どもだけでなく、不登校、虐待を受けるなどの問題を抱えた子どもも受け入れるようになっています。
「社会的養護」とは、保護者のない子ども、あるいは虐待を受けた子ども、家庭環境上養護を必要とする子どもに対して、公的な責任で行う、社会的養護を行うということです。
田中氏の児童心理治療施設の他に、児童養護施設、乳児院、母子生活支援施設、児童自立支援施設、自立援助ホーム、ファミリーホームなどがあります。そして、里親も担い手の1グループです。
田中氏は、「私たちの施設と里親は、社会的養護関係の仲間ですね。」と仰っていました。
スライドで「那須こどもの家」の様子をご紹介いただきました。
向かい側に分校があり、小学校が3クラス、中学校が2クラスっていう風になって、その2階が体育館という作りになっており、子どもたちが分校で勉強しているところも見せていただきました。年に1度のキャンプや部活動、ホースセラピーなど自然に触れながら様々な体験をしている様子の子どもたちを拝見することができました。
全部で5クラス。1クラスが6名までで、特別支援学校と同じ人数水準になっており、個別で丁寧な授業を行っています。子どもたちはしっかりと学校に通っているとのことでした。
児童心理治療施設は「治療」ではなく「養育」の場
児童心理治療施設の目的は、このように定義されています。
「児童福祉法第43条の2項に基づく児童福祉施設で、家庭環境、学校における交友関係その他の環境上の理由により社会生活への適応が困難となった児童を入所させ、必要な心理に関する治療及び生活指導を行うことを目的とする。」
平成28年の法改正でこのような定義となりましたが、それ以前の児童福祉法では、情緒障害児短期治療施設と呼ばれていました。
情緒障害児短期治療施設は、軽度の情緒障害を治療する施設という位置づけでしたが、児童心理治療施設の目的は「社会生活に適応するため」になりました。
「社会生活に適応する」を達成するには「治療」ではなく「養育」「共生」というアプローチに変わります。田中氏は、子どもたちが主体性を持って取り組んでいくことで、子どもたちの力を引き出すことを職員とともに目指してきました。
そのため田中氏の施設では、子どもたちが要望した部活動を作ったり、自然の中で様々な体験をできるプログラムを通して、共同体をみんなでつくっていく意識を子どもたちが育んでいけるよう工夫しているそうです。そうすると運動会などもすべて子どもたちで運営ができるようになり、イキイキと作り上げていく様子に田中氏もうれしい気持ちになったとおっしゃっていました。
田中氏の児童心理治療施設は、昔から「総合環境療法」というセラピーを行っています。
「総合環境法」とは、医学・心理治療、生活指導、学校教育、家族との治療協力、地域との関係など、子どものまわりの環境を総合的に整えていきながら全体で子どもを援助していくことを指針にしています。
田中氏の施設では、様々な方が関わっていて、医師・看護師、心理士、保育士、児童指導員、教員、事務員、調理員、清掃員、皆が一丸となって子どもたちを養育し、見守っています。
田中氏は、「適した土で植物が上手に育つように、この施設も、ここで生活していれば自然と子どもたちが育つ環境でありたい。子どもたちが育つ環境になれば、子どもたちの中の回復力が引き出されて、どんどん成長するのではないか」とおっしゃっていました。
講演内容② 子どもたちが自立する環境づくり
環境を整えると子どもたちは変わる
田中氏は「那須こどもの家」に着任する前は、児童自立支援施設「鳥取県立喜多原学園」の施設長をされていました。
喜多原学園へ入所する子どもたちには、喫煙、深夜徘徊、飲酒、粗暴行為、家庭内暴力、不良行為、恐喝、万引き、性的逸脱、家出などの問題がありました。
田中氏は、児童自立支援施設も、児童心理施設と同様、「子どもたちが自立する環境を整える」ことが重要だったとおっしゃっていました。
たとえば、危ないからといって今まで子どもたちに触らせていなかった草刈り機を持たせ、グラウンドを作ったり、作ったグラウンドで野菜を栽培したりするような体験をさせることで、子どもたちはどんどん積極的に参加してくれるようになったそうです。
近隣の幼稚園を招いて芋堀りをしたり、学校を心地の良い空間に変えるため、職員や子どもたちでインテリアを検討したりもしました。
このように、子どもたちと職員が一丸となって環境を整えていくことが非常によい作用をもたらしたそうです。授業でも、学ぶ雰囲気が出てきて、落ち着いていきました。
分校の教頭先生から、「鳥取県で一番落ち着いている学校ではないか」と言って頂くこともあったそうです。
社会的養護が必要な子どもたちに、どう対応するか
社会的養護が必要な子どもたちにどう対応するか。
その問いについての田中氏の答えは、
「まず子どもと対峙すること」でした。
これは児童自立支援施設でも、児童心理治療施設でも里親会でも一緒です。
「子どもと対峙」するというのは、きちんと子どもの話を聞くことだと田中氏はおっしゃいます。少しではなくて、1時間でも2時間でも。聞いてあげよう、じゃなくて、話を聞かせていただこう。このような姿勢が大事だとおっしゃっていました。
また、「子どもと基本的信頼関係を作る」ことも重要ですとおっしゃっていました。
子どものタイミングもあるので簡単なことではありませんが、子どもがふと頼りにしたくなる瞬間があります。その時に逃がさず対応できるようにしておくと、基本的信頼関係ができてきます。
また、「子育ての目標を決めること」も、とても重要だとおっしゃっていました。
子育ての目標は「子どもが自立し、社会と調和して生活することを支援する。」これに尽きるとおっしゃっていました。
子どもが自立するには、子どもの心に「自信」や「自尊感情」が生まれることが大切。社会と調和するためには、「安心感」「帰属意識」「貢献感」を得ることが大切とのことです。
田中氏は、児童自律支援施設、児童心理治療施設でも、職員とともに目標設定をしています。
喜多原学園では「自立した社会と調和して生活する」を理念とし、皆が集まる集会室の前に掲げるようになりました。そうすると、子どもたちと職員に、目指す目標が共有されたのです。皆で同じ方向を向くことができ非常にうまくいったと田中氏はおっしゃっていました。
まとめとして、田中氏が、20年ほど子どもたちと生活して大切だと感じたことは、子どもを決めつけないこと、子どもを肯定的に見ること、子どもに愛情を注ぐこと、大人は余裕をもつこと、大人も子どもも気持ちの良い生活をする、ということです。
そうすると、子どもたちの安心、満足、笑顔が、必ず子どもたちの中から出てくることを経験的に感じたとのことです。そうすると、社会と調和して生活することが出来るようになり、子どもたちの幸福につながります。
講演内容③ 思春期の子どもたちへの対応
思春期の子どもへの養育者の対応について、田中氏より、ある女の子と里親とのエピソードをご紹介いただきました。
その女の子は2歳のときに乳児院から里親のところに預けられました。愛情たっぷりの里親さんに育てられ、時にはしっかり叱ってくれる環境の中で育てられました。中学の時に問題行動が多くなり、里親もお手上げ状態になってしまいました。
親子関係が悪化し、彼女の希望で養護施設に移ったのですが、そこでも問題行動がエスカレートするばかりだったそうです。彼女は、里親と離れてみて初めてその愛情の深さを感じ取ったようです。
里親も、離れてもずっと心配をしており施設に様子を聞きに来るほどでした。
その女の子は、今度こそ頑張りたいと言い、様々な手続きを経て里親のところへ帰ったそうです。
その後、本人はすごく前向きになりました。今はめでたく大学を卒業され福祉の道へ進んでいるそうです。
田中氏は、この事例は、まさに思春期の心の発達、変化の特徴を表しています、とおっしゃっていました。
そんな不安定な思春期の子どもへどう対応したらいいか?
田中氏は、「普段の会話を大切にする。干渉しすぎない。子どもの意思を尊重する。他の子と比べない。子どもの味方でいる。」こういった姿勢が大切ですとおっしゃっていました。
また、何より大切なのが、抱え込まずに誰かに相談することです。
里親さんの場合、特に抱え込みやすい環境になります。だからこそ、里親支援、そして里親仲間とのつながりはとても大切です、ともおっしゃっていました。
最後に田中氏は那須こどもの家の理念をご紹介くださいました。
「互いを尊重し、共に育つ」。
子ども同士も尊重する。大人も子どもを尊重する。子どもも大人を尊重して、一緒に共同体として生活していきながら育っていく、という理念です。
「思春期の子どもでも、思春期前の子どもでも、やはり尊重する姿勢や、子どもと対話する姿勢は非常に大切です」と講演を締めくくられました。
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