© ONE LOVE All Rights reserved.
今回は、児童養護施設「養徳園」の理事長・総合施設長、福田雅章氏をお迎えして「養育のいとなみを紡ぐ」をテーマに講演していただきました。
今回の講演者
福田 雅章 氏
児童養護施設「養徳園」 理事長・総合施設長
講演内容① 「養徳園」での子どもたちとのかかわりから
施設運営を任されて
福田氏は、自身も「養徳園」で育ち、弟が創設施設長に里子として育てられた経緯があります。そのため、福田氏が中学校教員になった際、創設施設長から「養徳園」の施設を引き継いでくれないかと打診がありました。
福田氏は、中学校教員としてのキャリアを積みながら引き受け、現在は、栃木県にて2つの児童養護施設を運営しています。
福田氏が運営する施設では、地域小規模や分園型のグループホームを取り入れ、子どもたちが家庭に近い環境で生活できるよう工夫されています。
子どもたちと関わる中で
福田氏は、施設長をするかたわら、大学院へ進学し、施設の子どもたちをよりよく理解するために児童心理学の分野で研究をしました。
福田氏の関心事は、児童福祉施設という大規模な養育の中で、どのようにしたら安全安心な児童間の人間関係をつくることができるか?ということでした。
研究と子どもたちと関わる中で福田氏は、当時のことをふりかえって、「子どもたちを変えようとばかり思っていました。発達心理学の行動療法的アプローチで、環境を設定したり、関わりを変えていけば子どもが変えられるんじゃないかと。」
しかし、そうではなかったと気づいたそうです。
福田氏は、
を感じたと話していました。
講演内容② 社会的養護で子どもの自立を促すとは?
社会的養護におけるソーシャルワークの3つの側面
福田氏は社会的養護におけるソーシャルワークの側面として以下の3つを挙げました。
社会的養護の現場で上記の3つのサポートをしていくと、子どもと大人の間に基本的信頼感が生まれます。
子どもに対して最初から厳しい要求をするのではなく、まずは安心感を提供すること、すなわち、基本的信頼感を経てから、しつけが行われるべき、と福田氏は話していました。
マイナスからのスタート
福田氏は、「そうは言っても、中途からの養育は、本当に難しい。」と話しました。
施設に来る前の親子関係で、既に基本的信頼感の獲得に失敗していることが多いため、マイナスからのスタートになるのです。
基本的信頼感の構築としつけを同時に行わなわなければないのが施設での難しいところだと話していました。
そのために施設ができることは、「一緒にご飯を食べ、暮らすことに尽きる」と福田氏は話しました。一緒に日常の暮らしをすることで、子どもたちが職員を徐々に信頼し、頼ってくれるようになるのです。
人生をつなぐ「育ちアルバム」
福田氏は、子どもたちの「人生を繋ぐ」ことも、大切にしています。子どもたちは、施設に来る前にも家庭、乳児院、里親など…様々な複雑なプロセスを経験しています。児童養護施設は、そんな子どもの人生の一時期の養育に携わるにすぎないのですが、子どもから見れば全てが繋がっています。
子どもが過ごしてきた時間と空間を共有することで関係を構築できると福田氏は考えています。
その一環として、福田氏の施設では「育ちアルバム」を作成しています。
「育ちアルバム」は、子どもの成長過程を記録したもので、日々の出来事や子どもの成長の様子が綴られています。ある中学生のお子さんには、赤ちゃんの頃の写真を探しに乳児院に取材に行くなどもしました。
「育ちアルバム」は、施設で暮らす子どもたちにとって、自分が愛され、大切にされていると感じる大切なツールとなっています。
講演内容③ 社会的養護のパラドックス
一緒に暮らさないと育めないもの
そんな児童福祉施設を運営してきた福田氏は、施設の養育の限界も感じたと話していました。
それは「職業観」を育てられないことです。
実際、子どもたちは児童福祉施設で様々な大人と関わっているものの、「働いている大人」の表の側面しか見ることができていないと、福田氏は言います。
これが一緒に暮らしている環境だと、表舞台の裏の面、例えば困難を乗り越えている場面、苦悩、時間外にどれだけ努力しているのかなどを垣間見ることができるのです。
「職業観の貧困」を感じるたびに、一緒に暮らすことの大切さも実感していると話していました。
里親と施設のちがい
里親のメリットは、凝集性が高いことです。
すなわち、子どもが家族の一員として実感することができ、「暮らし」の中で養育することができる点です。子どもが、その生活を受け入れれば、大概のことは上手くいきます。
施設のデメリットは、人がたくさんいることです。
子どもはルールに縛られ、自己領域が頻繁に侵されていきます。自分らしく、のんびりすることができない点がデメリットになります。
里親のデメリットについてもご紹介いただきました。
それは、「凝集性が高い=排他的になってしまう」という点です。
里親の場合、子どもがその生活を受け入れられないと、打つ手がなくなってしまうということです。そのうえ、受け入れられない子どもに問題があるのでは?という考えに陥りがちです。結果、子どもに無理強いをさせてしまうということも起こる、と福田氏は話していました。
施設養育の良さもあるし、里親養育の良さもある。
この社会的養護のパラドックスを解消していく方法は、児童養護施設、里親が連携し協働していくことが大変重要だと、福田氏は話していました。
福田氏は最後に、「子どもの養育に正解はない。でも、子どもたちと大人とが繋がり続けることが大切だ。」という結びのメッセージで講演を締めくくりました。
“心の支え”となるコミュニティ
ONE LOVE オンライン里親会は、里親が抱える日々のつらさやしんどさ、喜びを共有できるコミュニティとしてすべての里親をサポートします。
オンライン里親会は、無料で参加いただけます
メンバー登録をするはじめて知った里親の方へ
ONE LOVE オンライン里親会とは里親や次世代の子どもを支えたい方へ
寄付で支える