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今回の講演者
米澤 好史 氏
和歌山大学教育学部 心理学教室 教授
今回の里親セミナーでは和歌山大学教育学部 米澤 好史氏をお招きし、『愛着障害と発達障害の理解と支援』というテーマでご講演頂きました。
米澤氏は、愛着障害や発達障害の理解と支援に力を入れており、攻撃行動や不登校、いじめなどの問題に対しても積極的に取り組んでこられました。
講演内容① 愛着障害の誤解と偏見
米澤氏は、冒頭で、著書『愛着障害は何歳からでも必ず修復できる』より以下のクイズを出してくださいました。
以下の中で正しいものは〇、間違っているものは×をつけて下さい。
この正解は「全て間違っている」です。
愛着の定義は「特定の人と結ぶ情緒・気持ち・感情で結ばれる心の絆のこと」です。
ボウルビィというイギリスの精神科医が提唱したこの概念に基づき、愛着は人間関係の基盤となる重要なものであり、すべての子どもにとって大切にされるべきだと米澤氏は話しました。
しかし、米澤氏によると、「愛着障害は、専門家の間でも共通理解が進んでおらず、偏見や誤解が多いため、狭く限定的に捉えられる傾向がある。愛着障害に対する正しい理解と支援が求められている。愛着障害を広く捉えることが重要だ。」ということでした。
愛着障害とは特定の人との絆がまだ形成されていない状態を指します。
「愛着形成不全」と捉えるのが適切です。愛着障害には多くの誤解があるといいます。
例えば、虐待を受けた子どもだけが愛着障害になるという誤解があります。
しかし、実際にはそうでないケースも多くあるそうです。米澤氏は「愛着障害は身近な問題であり、誰にでも起こりうるものとして理解すべきだ」と話しました。
愛着障害は親の育て方だけが原因ではなく、子どもの特性や親子の関係性も影響します。同じ親の関わり方でも、子どもの特性によって愛着の問題が生じる場合があります。
愛着形成には臨界期や敏感期があるという誤解もありましたが、愛着はどの年齢でも修復可能です。また、愛着は親だけでなく、里親や教育者など特定の人との間で結ばれる絆です。誰でも愛着の絆を形成できることが重要です。
講演内容② 愛着の形成に欠かせないもの
3つの基地
愛着の絆をどうやって形成するか、愛着の問題を抱えた人はどの部分が欠けているのかを突き止めないと、愛着障害は治せません。
愛着の絆を形成するための3つの基地のうち、1つ目は「安全基地」です。これは専門家で共有されている概念です。お子さんにとって安全基地とは、ネガティブな感情(恐怖、不安、怒り、悲しみ、悔しさなど)を感じたときに、「大丈夫だよ」と守ってくれる存在のことです。この安全基地がなければ、愛着障害の特徴を持つ子どもは安心感を持てず、問題が生じやすくなります。
しかし、米澤氏は、安全基地だけでは愛着障害を治せないことを、多くのケースで確認されたといいます。
安全基地を作ることだけに頼ると、うまくいかない場合が多いのだそうです。
米澤氏が提唱した、もう一つの重要な基地は「安心基地」です。
安全基地と安心基地を区別することが重要で、安全基地はネガティブな感情を感じたときに守ってくれる存在ですが、安心基地はポジティブな感情を直接生み出してくれる存在です。
安心基地とは、お子さんにとって一緒にいると落ち着き、ほっとする存在です。
強いポジティブな感情(楽しさや興奮など)ではなく、穏やかで安心できる気持ちを生み出すことが大事です。この存在が安心基地です。愛着障害の多くの特徴は、この安心基地が機能していないことに起因します。
愛着形成には、安全基地と安心基地の両方を意識することが重要で、これらは車の両輪のようなものです、と米澤氏は話しました。
3つ目は「探索基地」です。
探索基地も米澤氏が提唱したものです。
探索基地を意識することが、愛着形成において一番大事ということでした。
探索基地は、お子さんの精神的自立の基盤です。アタッチメント理論では、安全基地に探索の役割が含まれていますが、米澤氏は探索基地を独立して提唱しています。
探索基地はお子さんが基地(支援者)から離れ、また戻るという動きの中で形成されます。これにより、お子さんは自立の基盤を築くことができます。
愛着形成の順番として、まず安心基地と安全基地を確立し、最終的に探索基地を形成することが重要です。これができれば、愛着の絆はほぼ完成し、自立支援に移行できると考えています。
「特定の人との関係が強すぎると、その人がいないと何もできない子どもになる」という誤解がありますが、探索基地はこの誤解を解くための概念です。探索基地を通じて、お子さんはその人がいなくても大丈夫で、自立できるようになるのです。
探索基地が形成されているかどうかは、子どもが基地から離れて戻ってきて「こんなことあったよ」「こんなことしたよ」と報告するかどうかで分かります。この報告がポジティブな感情を増やし、子どもの意欲ややる気を育む重要な基盤となります。認められた経験が子どもの意欲を最も高めることが、米澤氏の研究で分かりました。この関わりが重要であり、愛着形成に大きな役割を果たします。
どのような支援が必要か
愛着障害の中で最も多く寄せられる相談は「嫌な気持ちに関するもの」だそうです。
例えば、チャレンジする前の不安や失敗した時の悔しさ、他人とのトラブルによる怒りなどです。これらの嫌な気持ちを報告し、その気持ちを軽減し、解消してくれる存在が必要です。
嫌な気持ちを軽減し、解消してくれる存在がいることで、子どもは感情のコントロールが可能になります。多くの専門家が感情に着目し、アンガーマネジメントなどのプログラムを提供していますが、愛着に問題を抱えている子どもには感情だけを何とかしようとしても難しいことがあります。
愛着の対象となる存在がいることで、感情のコントロールが可能になり、気持ちの安定を図ることができるのです。この点を重要視しながら支援を行うことが大切です。
多くの相談の中で、「嫌な気持ちを誰も減らしてくれないと、それを誰かや何かにぶつけてしまう」という現れ方が見られたといいます。
米澤氏はこれを、攻撃行動の最大の原因が愛着障害であると訴えてきました。
愛着障害からくる攻撃行動には特徴があります。
たとえば、誰かをたたいたり物を壊したりすると、通常は「そんなことをしちゃ駄目」と止めようとしますが、愛着障害からくる攻撃行動の場合、止めようとすると余計に激しくなることがあります。その理由は、嫌な気持ちが減らないまま止められることで、さらに嫌な気持ちが増えてしまうからです。結果的に、止めようとすればするほど攻撃行動が激しくなるのです。
このようなケースでは、単に攻撃行動を止めるだけではなく、根本的な原因である嫌な気持ちを軽減するアプローチが必要だと米澤氏は話しました。
講演内容③ 発達障害と愛着障害の関係
発達障害と愛着障害は共存する
以前は発達障害が攻撃行動の原因とされていましたが、これは誤解であることに専門家も気付き始めています。発達障害のお子さんの攻撃行動は、適切でない関わりによる二次障害として現れることが多いのです。この二次障害は、実際には愛着障害であると捉えることが重要です。発達障害と愛着障害は共存することがあり、適切な関わりが必要だと米澤氏は話しました。
攻撃性が内向きになるケースもあります。例えば、園や学校で嫌なことがあると行きたくなくなり、大人でも職場で嫌な経験をすると行きたくなくなります。これも愛着障害と関係があります。また、トラウマ障害も愛着障害の一形態ですが、これだけを愛着障害と捉えると他の問題が見えなくなります。
増加傾向にあるゲーム依存やネット依存などの依存症の問題も探索基地が機能していない愛着の問題と捉えることができるといいます。
ゲームやネットから離れられない状態は、愛着の問題によるもので、探索基地がうまく機能していれば、こうした依存は起こらないのだそうです。
米澤氏はこのように愛着の視点から広く捉えて支援を行っています。
愛着障害とADHD、ASDとの違い
愛着障害は、ADHDやASDとよく見間違われることがあります。これは専門家でも誤解することがありますが、それぞれの障害の原因を理解することが重要だと米澤氏は話しました。
愛着障害が発達障害と見間違われることが多いのが「多動・落ち着きなく動き回る」特徴です。これが愛着障害でも起こることを知らないと、ADHD(注意欠如多動症)と誤診されることがあります。多動の現れ方に注目することが重要です。
米澤氏は、気になる行動が出たときに「それがなぜ起こっているのか」をしっかり理解することが重要だと話しました。それぞれの障害がどこに原因があるかを見分けることで、適切な対応と支援を提供することができます。
米澤氏は、ASD(自閉スペクトラム症)と愛着障害の見極めについて具体的な例を挙げてくださいました。
ASDの多動は「居場所感」に関連し、安心感や安定感があるときに行動が落ち着きますが、急な予定変更などで居場所感を失うと多動になります。
一方、愛着障害の多動は感情の問題に起因し、感情の変動により多動の現れ方が異なります。感情がコントロールできないため、不安や興奮時に多動が見られますが、程よいポジティブな感情のときには落ち着きます。この違いを理解し、ASDの場合は居場所感を提供し、愛着障害の場合は感情のサポートをすることが支援のポイントです。
発達障害と愛着障害を見分けるもう一つのポイントは、片付けやルールに関する問題です。ADHDの子どもは片付けやルールを守るのが苦手ですが、愛着障害の子どもは片付けやルールを守ること自体が気持ちいいと感じる感情が育っていない可能性があります。ADHDの支援方法として行動の支援を行っても、愛着障害の子どもには効果が薄いです。愛着障害の場合は、感情を育む支援が必要です。
さらに、愛着障害の特徴として、必要のない物を触る、物を口に入れる、寝床の周りに物を散乱させる、床に寝転ぶ、危険なことをして周囲をハラハラさせるといった行動も見られます。これらの特徴を理解し、適切な支援を提供することが重要だと米澤氏は話しました。
愛着障害の三大特徴
米澤氏は愛着障害の3大特徴について紹介してくださいました。
愛情欲求行動:
自己防衛行動:
意欲の問題:
これらの特徴を理解し、適切な支援を行うことが愛着障害の治療に重要です。
米澤氏は、講演の最後に「今日のお話で愛着障害について、どんなものなのかイメージをつかんでいただけていたらうれしい」とお話しし、講演を締めくくりました。
参考図書
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