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今回の講演者
河野 洋子 氏
NPO法人chieds(チーズ)代表理事
大分大学福祉健康科学部社会福祉実践コース
河野洋子氏は大分県庁職員としてキャリアをスタートさせ、2000年の10月に児童相談所の児童福祉司として着任しました。その後、本庁と児童相談所を行き来し、最終的には中津の児童相談所長やこども・家庭支援課の課長、中央児童相談所で5年間勤務するなど、児童福祉の分野で多岐にわたる経験を積まれました。
2024年3月に大分県を退職し、4月からはNPO法人chiedsの代表および大分大学で勤務されています。また、こども家庭庁の審議会、社会的養育・家庭支援部会の委員を務め、里親制度を担当しています。さらに、早稲田大学の社会的養育研究所においても、国内の研究者とともに里親制度に関する研究を行っています。
講演内容① 大分県の里親制度の始まりと進展
河野氏は大分県にある2つの児童相談所(中央児童相談所・中津児童相談所)に勤務されたご経歴があります。
大分県は、児童虐待に関する相談が年間1786件。中央児童相談所は、約90万人の人口を抱える地域を担当しており、全国的に見ても30番目に大きな児童相談所です。県内には9つの児童養護施設がありますが、それらの配置は地域によって偏りがあります。
河野氏は平成12年に児童相談所に配属され、始めは地域を担当するケースワーカーを担当されていましたが、当時は里親制度についてあまり重要視していなかったそうです。
しかし、ある高校2年生の男の子との出会いが河野氏の考え方を大きく変えるきっかけとなりました。
その男の子は生まれてわずか5日目から乳児院で育ち、複数の児童養護施設を転々としてきました。高校2年生になった時、突然学校に行かなくなり、何も話さず、やる気を失ってしまったのです。理由は、施設で過ごす間、自分の両親について知りたかったのに周りの大人が何も教えてくれなかったからでした。
河野氏はこれに気づき、「施設がネグレクト(育児放棄)していたのと同じだった」と感じたそうです。つまり、必要な情報を提供しなかったことが、子どもにとって大きな心の傷となっていたのです。
この経験から、河野氏は同じような思いをする子どもを二度と生まないために、里親制度に力を入れていくことを決意したということです。
その後、河野氏は里親制度を広めることに力を入れ、里親のグループ(里親会)と児童養護施設などのグループ(施設協議会)が対立するのではなく、一緒に子どものことを考えて支援していく体制を作りました。
また、市町村と協力することで地域の子どもたちが市町村のサービスを利用しやすくなるようにし、里親家庭を地元で支える仕組みを整えました。例えば、子育ての相談窓口や一時預かりのサービスなどを利用しやすくすることで、里親家庭の負担を減らすようにしました。
里親を募集する活動でも市町村のネットワークを活用し、国が作った里親支援の制度を取り入れて、支援をさらに充実させました。例えば、里親になるための研修を充実させたり、里親になった後の相談体制を整えたりしました。
さらに、養子縁組にも積極的に取り組みました。大分県医師会や産婦人科医会、小児科医会といった医療関係の団体と連携し、安心して子どもを産める環境を整え、もし育てられない場合には、児童相談所が子どもを引き取り、養子縁組を希望する里親に託す体制を作りました。これにより、出産前からもしもの時のことを考えて、安心して相談できる体制ができたと言えます。
これらの取り組みによって、大分県では里親に子どもを託すことが以前より進むようになりました。
講演内容② 里親委託の課題と新たな取り組み
大分県では里親委託の取り組みは順調に進んでいましたが、平成29年にファミリーホームや里親家庭で児童虐待が起こってしまったことや里親さんの高齢化が進んだことが重なり、一時的に里親に子どもを預ける割合が下がってしまいました。
そこで河野氏は里親になってくれる人を増やすことに力を入れ、里親の確保を進めると同時に児童相談所で働く職員の数も増やしました。また、里親を担当する職員を中央児童相談所に配置するなど、組織の体制を変えることで児童相談所の中で里親を支援する体制を整えました。
さらに、河野氏が児童相談所の所長だった時に、以下の里親制度の良い点を児童相談所の職員に伝え広めたそうです。
また、特別養子縁組にも力を入れ、大分県医師会、産婦人科医会、小児科医会との協力により、出産前から養育するのが難しい妊婦のフォローをしたり、養子縁組を希望する里親への委託を進めています。
さらに、河野氏が代表を務めるchiesでは、乳幼児短期緊急里親事業の受け皿となっています。
NPO法人chiedsと契約した里親には毎月定額の報酬(待機料を含めて)が支払われ、原則24時間365日、児童相談所からの依頼があれば乳幼児の一時保護委託に応じる体制が整えられました。
里親が夜間でも快く引き受け、子どもに一対一の個別ケアを提供することで、数日から最長2カ月の間に子どもが見違えるほど変わる様子が見られているそうです。
児童相談所の職員もこの事業に対して強い手応えを感じているといいます。
講演内容③ 児童相談所との連携
河野氏は、児童相談所との連携について詳しく説明されました。
児童相談所は18歳未満の子どもに関するあらゆる相談を受け付け、子どもたちが幸せに暮らせるように様々な支援を行う機関です。相談内容は大きく分けて5種類あります。
これらの相談に対応するため、児童相談所には様々な専門家がいます。事務を担当する人、児童福祉司(子どもの福祉に関する専門職)、児童心理司(子どもの心理に関する専門職)、保健師、警察官、弁護士などがいます。
大分県の中央児童相談所には、こども相談部の相談支援課と城崎分室の相談支援課があり、ここでは虐待を受けた子どもの対応や、児童養護施設や里親家庭に子どもを預ける手続きなどを行うケースワーカーが働いています。また、措置児童支援課では、施設や里親家庭で暮らす子どもたちの家庭復帰や自立を支援する児童福祉司がいます。
児童相談所では、子どもや家庭の状態を把握するために、以下の4つの方法で診断を行います。
これらの診断を通して、子どもや家庭の状態を詳しく分析(アセスメント)し、どのような支援が最適かを判断します。
一時保護所は、緊急で子どもを保護するだけでなく、子どもの行動を観察したり、短期間の生活指導や心のケアを行ったりする場合にも使われます。しかし、都会では一時保護所が満員になっていることが多く、緊急で保護された子どもが長期間滞在せざるを得ない状況があり、本来の目的を十分に果たせていない場合もあります。
一時保護が終わった後も、児童相談所の4つの診断方法を使って、子どもや家庭の状態を改めて分析し、どのような支援やプログラムが効果的かを判断します。
河野氏は、児童相談所の仕組みをよく理解し、児童相談所としっかりと連携することがとても重要だと強調していました。
河野氏は、里親と児童相談所が連携する上での問題点について話してくださいました。
里親からよく聞かれる不満は、
などです。里親側は、児童相談所に連絡しても担当者が不在で、なかなか連絡が返ってこないことが多いと感じています。また、相談すると「力不足だと思われるのではないか」「うるさい里親だと思われるのではないか」と心配しています。
一方で、児童相談所の職員、特に児童福祉司も多くの悩みを抱えています。例えば、
・里親さんとどう接すればいいのか分からない
といった悩みです。
河野氏は、里親さんと接する機会や、実際に里親に子どもを預けた経験が少ないことが、これらの問題を引き起こしていると考えています。「個々の職員の能力の問題もありますが、きちんと説明すれば解決できる問題も多い」と話して下さいました。
児童相談所との連携を円滑にする4つのコツ
河野氏は児童相談所と里親の連携を改善する4つのコツについてもお話しくださいました。
1:フォスタリング機関の活用
里親と児童相談所をつなぐ役割を果たす役割でもあるのがフォスタリング機関です。フォスタリング機関の職員は里親の事情を理解し、児童相談所との間を取り持つことができます。
例えば、里親さんがどの時間帯に電話を受け取れるか、特定の日にどのような予定があるかといった具体的な情報を共有することで、より円滑なコミュニケーションが可能になります。フォスタリング機関は児童相談所の直営である場合もあれば、民間に委託されている場合もあり、里親は自分を支えるフォスタリング機関がどこなのかを明確に理解しておくことも大切です。
2:児童相談所への定期報告の機会を逃さない
大分県では、里親が毎月養育記録を児童相談所に提出しており、その記録をもとに支援が行われています。定期報告は里親の不安や困りごとを早期に把握するために重要です。また、訪問が予定されている場合には、伝えたいポイントを事前にまとめておくことが望まれます。里親は個別のケアを行うため、情報がまとまっていないことが多いですが、重要なポイントを整理して伝えることで、児童相談所との情報共有がスムーズになります。
3:緊急連絡が必要な事項についてあらかじめ具体的に確認する
里親と児童相談所の間で、どのような場合に緊急連絡が必要なのかを明確にしておくことで、迅速な対応が可能になります。夜間や時間外でも緊急連絡が必要な事項と翌朝でよい事項を具体的に示しておくと、双方の負担が軽減されます。
4:児童相談所の仕組みを理解する
児童相談所の規模や人員配置によって仕組みは異なるため、里親は自分が関わる児童相談所の具体的な仕組みを把握する必要があります。
大分県では、里親の悩みや活動に関する相談はフォスタリング部門が、子どもや実親に関する相談は児童相談所の子ども担当が受け持つという分担があります。このような分担の仕組みを理解し、要望や希望を伝えることが、児童相談所との円滑な連携を実現するために重要です。
河野氏は、これらの提案を通じて、児童相談所と里親の連携をよりスムーズにし、子どもの福祉を最善の形で支援することができると強調しました。
河野氏は、「里親さんには本当に感謝しかありません」と述べ、続けて「里親さんと児童相談所が、一緒に子どもを支えるパートナーとして協力し、もし何か問題が起きたとしても、お互いに話し合って解決していくことで、もっと良い方向に進むはずです。そのために、フォスタリング機関(里親支援を行う専門機関)を活用することがとても重要で、今後も改善されていくことを願っています」と話しました。
そして最後に、「全国で里親制度がもっと広く活用され、より多くの大人が子どもたちに寄り添い、支えていくことができる未来を願っています」と講演を締めくくりました。
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