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今回の講演者
伊藤 嘉余子 氏
大阪公立大学
グラスゴー大学
Institute of Health & Well-being 連携研究員
今回は大阪公立大学、グラスゴー大学 Institute of Health & Well-being 連携研究員の伊藤嘉余子氏に「英国スコットランドにおける里親による「家庭養護」-我が国への示唆を考える-」というテーマでご講演いただきました。
伊藤氏は、社会的養護出身者への教育支援や福祉制度に関する研究を行っており、特に里親、里子へのインタビューを取り入れて実践的な研究をされています。
講演内容① 英国スコットランドの社会的養護の概要と里親の現状
イギリスの社会的養護では、「子どもはできる限り家庭で育つべき」という考え方が基本となっています。もし最初の里親家庭で問題が起きた場合でも、子どもには別の里親家庭で生活する機会が保障されています。そのため、里親家庭の変更(措置変更)が日本に比べて多く行われ、子どもが複数の里親家庭を経験することも珍しくありません。
また、できる限り家庭的な環境で子どもを育てるという方針から、10歳までは里親家庭での養育が基本です。そのため、施設で生活するのは基本的に10歳以上の子どもたちで、日本のように乳幼児が施設に入ることはほとんどありません。これは日本と大きく異なる点です。
ただし、これは法律で厳しく決まっているわけではなく、最近では、6歳や7歳といった幼い子どもでも、里親家庭での生活が難しいと判断されて施設に入るケースが増えています。そのため、施設の職員は、幼い子どものケアについて新たに学ぶ必要も出てきています。
イギリスの社会的養護は16歳までを対象としており、日本の18歳までとは異なります。これは、イギリスの教育制度が16歳で高校卒業、その後大学に進学するのが一般的であるためです。つまり、日本でいう高校2年生の年齢で社会的養護が終了します。ただし、イギリスにはその後もアフターケアという支援制度があり、必要に応じて26歳まで支援を受け続けることができます。
イギリスでは、里親を探す際に、子どもの住んでいる地域だけでなく、隣の地域まで含めて広く探すことが一般的です。これは日本と大きく異なる点です。日本では、原則として、子どもが保護された自治体の中で里親を探します。イギリスのように広い範囲で探すことで、より適切な里親が見つかる可能性が高まりますが、一方で、子どもにとっては引っ越しが大きな心の負担となる場合もあります。
里親の種別
イギリスには「専門里親」という制度はなく、法律で定められているのは「養育里親」と「キンシップケア」の2つだけです。養育里親には自治体登録里親と民間登録里親の2種類があり、里親になりたいと考えた場合、日本では住んでいる地域の児童相談所一択ですが、イギリスでは、自治体、フォスタリング機関、あるいは民間のフォスタリング機関を選択することが可能です。
また、「キンシップケア」は日本で言う親族里親にあたります。親族に限らず、クラスメイトの親、近所の人、学校の担任など、子どもにとって馴染みのある人物がキンシップケアラーとして登録できます。
さらに、フォスタリング機関が独自に「スペシャルフォスターケア(専門里親)」を定義していることも紹介しました。障害のある子どもや支援ニーズの高い子どもを育てる里親に対して特別な研修が提供され、里親手当も上乗せされる仕組みがイギリスには存在します。
講演内容② 里親への支援と研修制度
研修内容
イギリスの専門里親研修は、制度の説明よりも、障害やその特性についての理解を深める内容が中心です。特に、医療的なケアが必要な子どもを預かる里親に対しては、薬や医療機器の使い方、手話、体の不自由な子どものための体操など、実践的な訓練が行われます。
障害のある子どもを受け入れるために自宅を改築する必要がある場合、改築費用の一部を補助する制度があり、研修では改築に関するアドバイスも受けられます。
さらに、イギリスでは、里親が実親と協働する際のコミュニケーションに関する研修も重要視されており、日本に比べて実践的な内容が多くなっています。
日本の専門里親研修は、開催回数が少なく、主に東京や大都市でしか行われないため、研修を受けたくても参加できない人が多い現状があります。特に、研修期間中に里親が不在となる間、里子のケアをどうするかという問題があります。
伊藤氏は、このような現状を踏まえて、日本の専門里親制度の改善が求められると述べました。
里親委託率
伊藤氏によると、里親委託率の計算方法が日本とイギリスでは異なり、それが数字の差につながっているとのことです。イギリスでは、家庭で支援を受けている子どもも計算に含めているため、公式には73.2%とされていますが、里親、ファミリーホーム、養護施設に入っている子どもの数だけで計算すると93%になります。
アメリカ、カナダ、オーストラリアも同様の計算方法で、ほぼ100%が里親などに委託されていると見なせるそうです。
一方、日本では登録里親の約7割が実際には子どもを預かっていないという問題があり、イギリスとは大きく異なっています。
イギリスでは、登録里親の半分以上が実際に活動しており、未委託里親の問題はほとんどありません。
社会的養護で育った子どもたちの学力に関するデータ
イギリスで社会的養護を受けて育った子どもたちの学力データによると、家庭で支援を受け続けた子どもよりも里親に預けられた子どもの方が成績が良く、大学進学率も高いという結果が出ています。
さらに、施設で育った子どもと里親家庭で育った子どもを比べても、里親家庭の子どもの方が成績が良く、大学進学につながっていることが分かっています。このことから、イギリスでは里親への信頼が厚く、里親であることを誇りに思っている人が多いと伊藤氏は説明しました。
実親や里親の実子のケア
事前に「実親が里親委託に同意しないケースは外国でもあるのか?」という質問に対し、伊藤氏は以下のように詳しく回答しました。
里親インタビューからわかったこと
伊藤氏は、イギリスの里親4名に対して行ったインタビューの内容について話しました。里親支援や手当が日本よりも充実しているにもかかわらず、里親たちは「もっと職業里親としてプロとして認めてほしい」という声もあります。一方で、「私たちは親としての役割を果たしている」という意見も多く聞かれたと述べました。
特に、イギリスでは「フォスターペアレント」ではなく「フォスターケアラー」と呼ばれる点に対して、里親たちは複雑な感情を抱いていると話しました。子どもには実親がいるため、「ペアレント」と呼ばれることに抵抗があるという理由から「ケアをする人」という意味で「フォスターケアラー」という言葉が使われていますが、里親たちは自分たちがママやパパと同じ役割を果たしているのに「ケアラー」と呼ばれることに屈辱を感じると話しています。
一方で、里親たちは途中まで子どもを育てて送り出す役割に誇りを持っており、委託された子どもを少しでも良い状態で家庭や次の場所に送り出すことに使命感を抱いているとも語りました。
また、里親たちが強く抱えている問題として「2人目未委託問題」があります。例えば、生後6か月から2年間育てた子どもが、養子縁組を希望する他の里親に引き渡されるケースに対して、「本当にそれが子どもの最善の利益なのか?」と疑問を感じる里親が多いと話しました。自分の家庭で安定していた子どもが突然引き離されることへの葛藤や、子どものために良いと思えない措置に対する不満が、インタビューを受けた4人全員から語られていたそうです。
講演内容③ 社会的養護経験者へのまなざしと支援
伊藤氏は、里親家庭や施設を巣立った後の若者を支援する「コーポレートペアレント」という仕組みについて説明しました。この仕組みは法律で定められており、24の機関や専門家が、社会的養護出身者に対して何か1つ以上の支援を行うことが義務付けられています。例えば、首相が里親家庭の子どもたちをホテルに招いて食事や遊びを共にすることや、公営住宅が保証人や敷金礼金を免除する物件を提供することが含まれます。
さらに、イギリスの高等教育機関は、社会的養護出身者に対して特別な支援を提供することが義務付けられています。伊藤氏が所属するグラスゴー大学では、進学率の低い地域への学習支援や入学条件の緩和が行われており、学費の免除なども提供されています。さらに、長期休暇中に行く場所がない学生に対して、リゾート地での宿泊サービスも提供されています。このサービスは年齢制限がなく、社会人になってから大学に入学した人も利用できます。
以上のように、英国スコットランドの里親制度の多様な側面が紹介され、日本との違いを理解することで、今後の解決策を考えるきっかけとなる講演でした。
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