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今回の講演者
藤井 康弘 氏
全国家庭養護推進ネットワーク代表幹事
平成19年4月 東京都に養育里親として里親登録。
これまで短期・長期等で10人余りの子どもたちとともに生活。現在も一人受託中。
現在、全国家庭養護推進ネットワーク代表幹事
藤井氏は現在も東京で養育里親をされており、これまでに長期・短期合わせて10人あまりの里子たちと生活を共にしてきました。また過去には厚生労働省で勤務され、社会的養護の担当課長の要職を務められました。
厚労省を退官された後に相澤先生をはじめ同志の先生方と、2019年に全国家庭養護推進ネットワークを設立し、FLECフォーラムを開催することを活動の中心にされています。
※FLECフォーラム…すべての⼦どもたちに家庭での⽣活を(Family Life for Every Child: FLEC)という思いをこめて、家庭養護とその関連分野にさまざまな⽴場で携わる関係者が集い、相互のネットワークの構築・強化を図るとともに、実効性のある施策について意⾒を交わすことを⽬的としたイベント
講演内容① 「里親委託を推進するための主な政策」
藤井氏は里親委託を推進するための主な政策課題として、大きく3つの課題を挙げられています。
・虐待家庭の対応として里親家庭や施設へ一旦子どもを措置委託してしまえば少なくとも命の危険はなくなるため、その後の里親委託の支援はどうしても優先順位が下がってしまいます。
受託後の里親支援については、民間の社会福祉法人やNPOの方に大いに期待をしています。しかし、措置や委託を決定するのは児童相談所なので、どうしても児童相談所の体制整備というのは里親委託を進める上で必要であり、まだまだの状態です。
なぜ里親委託を国として推進していくのか、その意義について藤井氏は以下の4点を挙げられています。
1. 特定の大人との安定した愛着関係(アタッチメント) や強固な 信頼関係を築きやすく、安心感の中で自己肯定感を育み、対する基本的信頼感を獲得できる。
愛着とは人が生きていくうえでこの上なく重要な要素であり、これが子どもと一緒に生活する里親家庭の方が、施設と比べてやっぱり形成し安定しやすいと考えられています。
年長時ですとなかなか愛着(アタッチメント)までいけないかもしれませんけども、強固な信頼関係という風に置き換えることができるものです。
2. 家庭生活や地域生活の中で人との適切な関係の取り方を学び 社会性を養うとともに、豊かな生活経験を通じてコミュニケー ション能力や生活に必要な知識・技術を習得できる。
社会性とか生活経験という意味では、里親家庭は子どもと一緒に生活していますので、お互いのいろんな要求・欲求を日々折り合わせながら暮らしています。
今晩のおかずを何しようかとか、次の休みの日どこに遊び行こうかとか、大人の言葉で言えば“要求調整の営み”みたいなものが、社会性とかコミュニケーション力の発達に接する面は大きいです。
知識面で言えば、例えばテレビでも新聞でも、子どもって、大人の世界からいろんな機会にいろんな情報をインプットしており、そうした機会は家庭の方が多いのではないでしょうか。
3. 適切な家庭生活を体験する中で、家族のありようを学び、将来、 自ら家庭生活を築く上でのモデルにできる。
決して理想的な家庭である必要はないし、教師であれ反面教師であれ、子どもたちにとって家庭のモデルたるものが心の中にないと、自分が家庭を作る時に戸惑うのではないかということです。教師であれ、一定の部分は反面教師であれ、やっぱりモデルが必要です。
4. 委託解除後も子どもとの関係を維持し、「実家的な役割」を持つことができる。
これは最近施設でも力を入れていますけれども、卒業生の数が違いますので里親家庭にメリットがあるのではないでしょうか。
・里親登録の動機と子どものニーズの乖離
養育里親に登録される方の動機が、子どもが欲しいとか、子育て経験をしたいという方々が多く、一方子どもたちの方は、様々な難しい課題を抱えています。
そこがミスマッチになっていて委託が成立しなかったり、無理な委託になってしまって不調になってしまうのではないでしょうか。
・ボランティアである前提
里親をボランティアでやってもらっているという前提があるので、児童相談所は厳しいことが言いにくい。家庭の習慣とか文化がちょっとどうかなと思っても、なかなか外から指摘もできないから、それが子どものニーズと乖離しているのではないか。
・信頼の基盤になる“よすが”
里親は人生経験が様々で信頼の基盤になる“よすが”が見出しにくく、特に児相や施設との信頼が築かれにくい。例えば、施設とか社会福祉法人は一定の厳格な規制があり、施設庁も職員も諸々の要件とか信頼に足る“よすが”があるわけなんですけれども、行政から見て難しい子どもが多い中で、このご夫婦にこの子どもを委託して大丈夫かということを判断する材料が実はあまりなく、それこそ、長く付き合って信頼関係を作るぐらいしかない。
藤井氏は、里親制度自体を今のボランティアベースのままでいいのか、あるいはもっと厳しい資格要件を課して職業化した方がいいのか、あるいは何らかの形で組織化と言いますか、例えばみんなフォスタリング機関の職員になって雇用関係の中で組織化するとか、その辺りもそろそろ議論しないと今後里親委託が増えていかないんじゃないかという問題意識を持って、課題提議をされています。
講演内容② 「家庭養護、里親養育、施設等民間機関とのアドバンテージの比較」
虐待とか、あるいは障害で子どものニーズは本当に大きく変わっており、経験的には、ほとんどの子どもたちがいろんな心の傷とか発達の遅れに対する支援を必要としていると、藤井氏は感じているそうです。
そのように考えると、里親家庭、里親養育にも弱点が挙げられます。
まず私たちは基本的に一般家庭であり、ほとんどが体系的に専門的知識を勉強してきていませんし、経験もどうしても限られています。
自分なりにそれぞれが研修等で勉強はするにしても、いろんな課題を抱えた子どもたちが増えていく中で、そこは知識とか経験を組織として蓄積している施設、あるいは社会福祉法人に大きなアドバンテージがあります。
また、里親家庭には常に孤立するリスクがあります。
基本2人夫婦だけなので子どもとの関係を調整する際の引き出しといったものは少なく、担当を決めつつもチームで対応できる、あるいは心理職等の専門職もそういう施設等々の方に大きなアドバンテージがあります。
それから、家庭はどうしても密室になりがちなので、外部から見えにくいのです。したがって、外部と里親さんとの間で子どもに関する情報格差が生じがちだというのもあります。施設だと、そういうことは起こりにくいと言えます。
里親家庭と施設は、お互いメリット・デメリットを持っているわけですから、補い合って協働して子どもたちを養育する体制を作るべきではないか、と藤井氏は考えています。
里親委託を推進していくためには里親だけじゃなくて児童相談所や行政はもちろん、施設や社会福祉法人など民間の福祉関係の皆さんとも協働していかなければいけない。
逆に言えば、そうした民間の皆さんもしっかりと参画していただいた里親支援の体制ができなければ、受け皿である里親も増やせないし、里親委託も増えないのではないでしょうか。
多くの子どもたちが様々な課題を抱えている現状の下では、専門的知見・経験に基づくケアワーク視点、ソーシャルワーク視点の双方による密度の濃い支援、組織だった支援というのが不可欠です。
よく指摘されますように、ドリフトとか不調を防ぐためにもこうした支援がどうしても必要です。
私たち里親が子どもを委託した後の支援として求めているのは、傾聴と共感、レスパイト、一般的な養育のスキルです。何よりも、里子に対する理解とその養育に対する助言。それから、他の社会資源との連携が必要です。
まず個々の里親家庭のニーズをしっかりとアセスメントをする。
その中で自ら対応することはやって、そうでないものについては他の社会資源に繋げていくということも必要になります。
講演内容③ 「施設との民間機関に対する大きな期待」
藤井氏は講演内容のまとめとして、家庭養護(里親親託)の推進というのは子どもたちの措置先を、単に施設から里親家庭に移すという単純なことでは決してないと話されました。それは、子どもたちの生活の拠点を可能な限り里親家庭に置きつつ、施設等の民間機関が里親家庭を専門性によって支えていく新たな体制を構築するということです。
さらには、そうした民間機関と里親が互いの利点を活かしながら児童相談所を含む地域の社会資源全体が連携し協働して、地域全体として子どもたちを支えていく新たな社会的養護の体制に移行していくということが求められます。
里親家庭はいろんな課題を抱えた子どもたちを養育するわけですから、里父と里母だけではなく、どうしても施設とかフォスタリング機関、児童相談所の専門性を活用したような支援、里親同士のピアサポートが必要です。
そうした外部の機関、仲間と一緒に子育てをしていくというある種の覚悟は必要であり、ぜひ施設やNPOが里親支援センターとかのフォスタリング機関という形で里親家庭をしっかりと支えていただけるような連携体制を作っていただきたいと、藤井氏は考えられています。
後半は、藤井氏が里親としてこれまで子どもと向き合うにあたり、大事にしてきたことを中心とした講演内容です。
基本的なところは、子どもの意見・意思を常に聴き、確認する。
措置を解除した後に子ども自身の人生をしっかりと生きていけるように育てていかないといけないということを考え、子どもたちと向き合ってこられたとお話下さいました。
また、学校や障害福祉等他分野の支援機関との連携と協働で、子どもが夫婦だけでなくて第3・第4の大人を得られるような、可能な限りオープンな支援をするということ。
CSPやフォスタリングチェンジのような子育てノウハウも、可能な限り実践すること。
親あるいは養育者の役割を考えた時に、1つは子どもの安全基地として様々な不安を取り除くこと。もう1つ、この国の今の社会で生きていくために必要なことを伝えるという2つが柱であり、子どもを養育する上での「情」と「理」のバランスに、普段意識的に心がけ、また悩ませられると、藤井氏は仰います。
子どもとの信頼関係とは、ケアワークとかソーシャルワークの基本でもあります。
児童相談所やフォスタリング機関も里親と近い視点に立てるように、子どもと普段からもっと十分なコミュニケーションを取ってもらい、里親が養育している時間軸とできるだけ溝が生じないぐらい近づいてきてもらう。
藤井氏は、「私たち養育者というのは、時には十数年その子どもに向き合って長い経験、もっと言えば歴史の中で子どもを育てている」というメッセージで講演を締めくくりました。
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