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今回の講演者
藤林 武史氏
西日本こども研修センターあかしセンター長
早稲田大学社会的養育研修所招聘研究員
今回は、2003年から2020年まで福岡市の児童相談所長を務められた藤林武史氏をお迎えして「実親のことを理解する -その必要性と意義-(基礎編)」をテーマに講演していただきました。
藤林氏は、福岡市で子どものパーマネンシー保障を推進した元児童相談所長で、子どもが家庭で育つ権利を保障することを重視し、その結果として高い里親委託率を実現されました。
この講演は、子どものパーマネンシー保障のための実親理解と里親・実親の協働について深く掘り下げた内容となっています。
目次
講演内容①
「子どもが家庭で育つ権利」と「パーマネンシー保障」
福岡市の里親委託推進の背景と成果
福岡市は里親委託率が上位です。福岡市児童相談所のチーム全体で「子どもが家庭で育つことは非常に大事な権利」であると考え、それを保障するために様々な試行錯誤を重ねてきた結果、里親委託率が60%、就学前乳幼児においては87%という高い数字になったそうです。
この成果は、NPOとの協働、児相職員の意識改革、里親委託推進は乳幼児からの優先的な取り組み、支援体制の強化、民間フォスタリング機関の導入など、18年間かけて順々に取り組んでこられた結果です。
パーマネンシー保障という考え方
今では国も意識するようになった「パーマネンシー保障」という概念。
これは子ども時代だけでなく、大人になってからも「自分はこの家族に所属している」という所属感や、長く続く家族や人間関係など拠り所になるものを保障していこうという考え方だと教えていただきました。
法的な関係(実親子、親族、普通・特別養子縁組)が最も安定しているものの、それが難しい場合には心理的なパーマネントな関係を保障していくことが重要であるとお話しされました。
このような考え方のもと、福岡市児童相談所は以下のような優先順位で支援に取り組んできたそうです。
この優先順位は、国が示す新しい社会的養育ビジョンや児童相談所運営指針ともほぼ同じとのことでした。
家庭養育優先原則とパーマネンシー保障の展開
福岡市の「パーマネンシーモデル」として、2016年頃からは
に取り組んできたそうです。
従来の里親養育が、家庭復帰が困難な子どもを対象とすることが多かったのに対し、福岡市では「家庭養育優先原則」と「パーマネンシー保障」の発想から、家庭復帰を目標とした里親養育も積極的に進めるようになったと説明されました。
また、親族里親の推進や、在宅支援を補完・維持するためのショートステイ里親の役割も重要であると述べられました。
講演内容② 里親養育における実親との「交流」の重要性と課題、そしてイギリスからの学び
講演の後半では、実親との交流の重要性と、それに伴う里親の葛藤、そして海外の知見について深く掘り下げられました。
子ども家庭庁が示す「協働」の重要性
子ども家庭庁が2016年3月に発出した「里親支援センター及びその業務に関するガイドライン」には、「児童の保護者を支援しなければならない」ことや、「里親は実親との協働の大切さを見失うことのないように支援してください」と明記されていると紹介がありました。国としても、実親との交流や協働関係の形成を推進していることが分かります。
里親が抱える複雑な思いと課題
交流することで多くの里親が感じる複雑な思いの一部をご紹介いただきました。
これらの声は、交流や家庭復帰を進める方針自体は間違っていないものの、単に進めるだけでなく、子ども、実親、里親にとって「安全な」、そして子どもが「安心を感じる」交流や家庭復帰を実現することが重要だとお話しされていました。そのためには、成功経験やスキル、ノウハウの共有が必要です。
イギリスの「里親になるためのハンドブック」から学ぶ交流
藤林氏も翻訳に携わられたイギリスの「里親になるためのハンドブック」を紹介されました。下記は主にハンドブックの内容と、藤林氏の補足説明を記載しています。
里親の複雑な感情への向き合い方
子どもを不当に扱ったと思われる人物との協力を考えたくない、といった感情は世界共通ですが、実親を裁きたくなる衝動を抑え、里親は子どもにとっての最善に集中すべきだといいます。それが大部分のケースでは、実親との連携を含んでいるそうで、冷静で客観的な視点を持っておくことが大切です。
実親は、不安、後ろめたさ、疑念、敗北感、そして子どもの人生や愛情で自分が占めていた部分を里親に奪われることへの恐れなど、様々な理由で交流の場に現れないことがあるという心情への理解も求められています。里親が自分自身の気持ちや感情を自覚し、子どもが実親やきょうだい、その他の親族に抱く感情をそのまま受け止め、子どもの感情を重要視する必要があるとのことです。
また、実際に経験されたイギリスの里親・実親さんの心情や、里子さんの声も紹介いただきました。里子さんが言った「私の里親は親のことを悪く言わなかった。それが1番よかった」という言葉を聞き、里親が実親を理解し尊重することが子どもにとって重要であることを知ったそうです。
講演内容③ 実親が抱える「生きづらさ」と「悲嘆」への理解と支援
講演の最後には、実親さんが子どもを社会的養護に預けるに至った背景、抱える深い感情とそれに対する支援のあり方について学びました。
実親の背景にある「小児期逆境経験」(ACEs)
藤林氏は、里親に子どもを委託する実親さんの共通点として、「小児期逆境経験(ACEs)」を多く経験している場合がほとんどであると説明されました。これは、子ども時代の虐待、親の離婚、親の精神疾患、アルコール依存症、DVの目撃など、様々な逆境的経験を指します。重要な点として、ACEsを長く経験してきた人々は「受援力の低さ」や「社会的孤立」に陥りがちであると述べられました。
ACEsが発生する理由として考えられる2つの要素があります。1つ目は、親たちも同じような経験をして育ったことによる世代間伝達。2つ目は、人間関係が希薄で差別や貧困がある状態。
このように非常に辛い経験をしながらも、そのときに支援してくれる信頼できる人との関係をほとんど持っていないというのが、実親さんが里親委託になる直前の状態だそうです。
子どもを預ける実親が経験する「悲嘆」
日本で唯一のこの分野の研究者である御園生直美先生の言葉として、子どもを社会的養護に預ける、あるいは保護されるという経験が、実親さんにとって非常に大きな「悲嘆」となることを強調されました。 子どもを社会的養護に預けることが、社会的に「スティグマ」として見られている文化がまだ根強く、実親さんは周囲からどう思われているかを非常に強く感じているそうです。
▪️スティグマとは:個人や集団が社会的に不当な扱いを受ける原因となる、誤った認識や偏見、差別を指す。
実親への共感的支援の重要性
御園生先生は、上記のような実親さんへの支援として、以下の点を挙げていらっしゃるそうです。
里親に託しても交流ができることなど、共感や熱意が実親さんの罪の意識を手放し、関わっていく勇気を与えるのではないか、と藤林氏は話していました。
実親が望む関わり方
子どもに関する決定を共有するように誘うこと、子どもの生活についての情報提供、運動会などのイベントに呼ぶことは、実親さんにとって大きな助けになるとのことです。 また、面会や交流のときだけでなく、日常的な情報の提供や意見を聞くという関わりが、関係を円滑にする重要な要素であると締めくくられました。
今回の講演を通して、実親さんが抱える多様な背景や深い感情を理解し、里親としてどのように共感的に関わっていくべきか、また支援者側の役割の重要性を改めて考える機会となりました。“心の支え”となるコミュニティ
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