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今回の講演者
廣野 俊介氏
同志社大学社会学部社会福祉学科
1983年 奈良県生まれ
2001年~2011年 同志社大学および同志社大学院社会学研究科
2011年9月 博士(社会福祉学)
2011年~2019年 大分大学教育福祉学部・福祉健康科学部講師
2020年~ 同志社大学社会学部准教授
障がい者デイサービスベデスダの家アルバイト(2003年~2011年)
自立生活センターサポート24登録ヘルパー(2005年~2011年)
NPO法人ゆうさぽーとヘルパーステーションそらいろ、登録ヘルパー(2020年~)
現在、京都府京田辺市で妻と息子と暮らしています。
今回は、廣野俊介氏をお迎えして「障害のある子どもの療育」をテーマに講演していただきました。
廣野氏は自身のADHDの経験と支援者としての立場から、障害の基本的な考え方から具体的な療育方法、社会資源の活用まで、実践的な内容を紹介してくださいました。
講座内容➀:
障害の基本的な考え方と発達障害の特徴
講演者の当事者性について
廣野氏は冒頭で、ご自身が38歳でADHDの診断を受け、現在もストラテラというADHDの薬を精神医学のガイドラインで出せる限界量飲んでいることを公表されました。発達障害は発達期に起こる障害であり、中年になって起こったわけではなく、ずっとそうだったということになります。小さい頃から他の人と違うという感覚があったため、実感のこもった話ができるとのことです。
また、支援者としての経験として、行動援護や移動支援を通じて障害のある子どもや大人と一緒に出かける支援を大学の合間を縫って6年間続けており、様々な社会資源の支援を受けて変わっていく子どもたちを見てきた立場からお話しいただきました。
障害の社会モデルとスペクトラムの考え方
これまでの社会では、障害は個人的な問題として見なされていました。本人がリハビリを頑張る、家族が助けて社会復帰や社会参加をするという考え方で、これを個人モデルと呼びます。
現在では障害の社会モデルという考え方に変わってきています。障害とは本人の体の状況や精神の状況もあるが、環境との兼ね合いで起こる不利益だと捉えます。本人だけが努力するのではなく、社会の側も必要な変更をできるだけしていこうという考え方です。この考え方は日本も批准している障害者の権利条約の中で展開されています。
関連して合理的配慮という言葉があります。社会の側が変更するというのがこの合理的配慮で、本人の申請でここを変えて調整してくださいというものです。
スペクトラム(連続体)の発想
現在、自閉症とは言わずに自閉スペクトラム症と呼びます。スペクトラムとは連続体という意味で、グラデーションのように色が変わっていくように、発達障害と定型発達の境目ははっきりしたものではありません。
発達障害的要素は皆さん持っていて、それが薄いかすごく濃いかという違いで連続しているという考え方です。これまでの「手帳を持っている人が障害者、持っていない人は障害者じゃない」という発想から変わってきています。
発達障害の特徴
1. 自閉スペクトラム症の4つの特徴
①コミュニケーションの難しさ
空気を読むことやニュアンスを理解することが極端に難しく、多くは文字通りに取ってしまいます。皮肉を言われているのに喜んだり、冗談を言ったつもりが激怒されたりすることがあります。
翻訳家のニキ・リンコさんの例が紹介されました。男性から「今度ご飯でもどうですか」と言われた時に「おかずは食べないんですか」と答えたエピソードです。
私たちは「ご飯」という言葉を器用に使い分けていますが、その器用な使い分けができないのです。
②相手の立場を想像することの難しさ
相手が実際はどう思っているのか理解が難しいという特徴があります。私たちは「この人笑っているけど私のことを嫌っているかも」「この人ニコニコしているけど早く帰って欲しそう」ということを感じますが、それが難しいのです。
廣野氏が関わっている特別支援学校高等部の方の例では、「みんな俺の友達だ」と言って相手が嫌そうでも寄っていってしまいます。ただし、友達が嫌いとか一人でいるのが良いということではなく、友達を求めているけどうまくいかないということを理解しておく必要があります。
③こだわり(自分なりのルールに囚われる)
様々なこだわりがあります。例えば、京都の近鉄電車の車両リニューアルがあった時に、新しい車両だから快適なのに乗らない人がいました。いつも乗っているのと違うからという理由です。
④感覚の過敏
耳を塞いでいる人をよく見かけますが、音が本当にうるさく聞こえている人が多いです。また、鈍さが伴う人もいて、これは危険につながることもあります。基本的には細かいところに目がいくという良さもあり、こだわりをうまく発揮できたら様々な仕事ができる、細かいミスに気づく人もいます。
2. ADHD(注意欠如・多動性障害)
廣野氏ご自身も当事者であるADHDについて、大きく2つの特徴があります。
①注意力の不器用さ
不注意と言えば忘れ物が多いというイメージですが、わざわざ「不器用さ」と呼んだのは逆もあるからです。過集中といって集中しすぎて抜け出せないという現象があります。本を読み出して面白いとどこという駅まで行ってしまったりします。
②衝動性をコントロールすることの難しさ
思いついたらすぐ行動したいということです。腹が立ってすぐ手が出る、子どもは特にすぐに大きな声を出すなどがあります。
注意力の不器用さだけが目立っている場合には気づかれにくく、「ちょっとどんくさい子」と周りは思っているけどそのまま行ってしまうことがあります。大人になって就職や家事(マルチタスク)でバーンアウトしてしまって発覚するようなケースもあります。
3. 学習症(LD)
知的な遅れがないのに、読む、書く、計算する、推論するといった能力が1つ以上を極端に遅れるという状況を指します。2学年以上遅れるなどと言われます。
こちらもなかなか気づかれないと「努力が足りない」「素質がない」などと言われて傷つきます。映画俳優のトム・クルーズさんが読字障害(学習症の1つ)を持っており、台本を読むことができなくて録音してもらって覚えているということで知られています。
講座内容②:療育の意味と具体的なアプローチ方法
療育とは何か
廣野氏は療育について、簡単に言うと障害のある子どもの自立や社会参加を目指して、治療や教育の視点から子どもを支援することだと説明されました。
子どもの段階では何が社会参加につながるかがはっきりしているわけではないため、いろんなことができるようになることを目指せば良いとのことです。できなかったことができるというのは、喋れなかった人が喋れるような意味合いだけでなく、人と関係を持つこともとても大事だと強調されました。
療育の場面では遊んでいるだけに見えることもありますが、ただ遊ぶこととの一番の違いは、支援が意図的に行われて、結果をもとにフィードバックして改善されていくことが療育の重要なポイントです。
具体的な療育アプローチ
1. 感覚統合療法
発達障害の方は感覚のずれや自分のボディイメージ(無意識に行っている運動など)がずれていたり強調しなかったりするため、動きがぎこちない人が結構います。
発達障害の方で不器用な方、力の加減が難しい方、運動が苦手な方が多いという特徴があります。感覚を使った様々なプログラムをして、それを滑らかにしたり鈍い感覚を研ぎ澄ませたりする療育のプログラムです。
2. 作業療法
粗大運動(歩く、立つなど)と微細運動の両方に関わります。どこに課題があるかアセスメント(事前チェック)して、作業を取り入れてその運動ができるようにします。また、何人かで行えば社会性やコミュニケーションの体験にもなります。
3.TEACCH(構造化アプローチ)
構造化という手法を用います。いろんなことを目で見て分かりやすくすることです。障害の方の多くが視覚優位と呼ばれ、耳で説明されるより目で見た方が得意です。
具体的には:
- スケジュールを写真で作る
- 作業している壁にスケジュールをかける
- 自習室のように周りが気にならないようパーテーションを用いる
- 何をどれだけやれば良いかを視覚的に示す(透明のボールを用意して作業したものを入れるなど)
廣野氏は「この工夫が本当に違う、全然違う。やるとやらないとでは全然違う」と強調されました。
4. 応用行動分析
課題となる行動が生じた時に、先行条件→行動→結果という流れで分析します。
- どういう状況の時にパニックは起きやすいのか
- どういう状況の時にこの人は怒りやすいのか
結果も分析します。例えば注意をしたのが行動した結果だとすると、普通は本人にとって嫌なことですが、実は「注目してもらった」というプラスになっているかもしれません。
先行条件で「お風呂入るよ」と言われて、行動で暴れて嫌がり、結果として入らなくて済んだとすると、またお風呂に入る時に暴れれば良いと学習してしまうかもしれません。
講座内容③:療育のための社会資源と実践事例
療育のための社会資源
社会資源とは使えるサービスや相談の窓口のことです。本人にとって役に立つものは大体社会資源です。
1. 児童発達支援センター・事業所
子ども家庭庁や厚労省がこの児童発達支援センターを強化していて、相談の有力な窓口になります。児童発達支援事業所はそこに通える事業所だけですが、センターは専門の医師などを置かないといけない、つまり診察もできるようなものです。
児童発達支援センターは小学校に行くまでの発達障害のある子どもがそこに通って療育を受ける場所です。
2. 放課後等デイサービス
一番知られているサービスで、ある時期にたくさんできました。就学した後の子どもが通いで療育を受けることができます。
3. その他のサービス
- 障害児入所施設(福祉型と医療型)
- 保育所等訪問支援事業:障害のある子が通っている保育園等に出向いて保育士さん等の相談に乗ったり実際に対応を見せたりする
- 移動支援・行動援護:障害のある子どもと出かける支援
- 日中一時支援:障害児をお預かりして家族のレスパイト(休息)をする
重要なポイントとして、廣野氏は、一つのサービスに繋がっていると、その後も繋がっていって親なき後の不安にも対応できると説明されました。
例えば
児童発達支援→小学校になったら放課後等デイサービス→大人になったら就労移行支援や就職→グループホーム
知っている事業所があるということは大きな意味があります。いよいよという時に、一から申請するより、知っている事業者があるのは重要だと述べられました。
実践事例
事例1:行動障害の激しかった特別支援学校小学5年生
バス停から家まで500mを送る30分の仕事でしたが、最初は全然家に行かず、旗を投げ倒したり、自分の靴を片方だけ脱いで人家に投げ込んだりする激しい行動障害がありました。
障害児相談支援の相談員さんに話を聞きに行き、どういうことが好きなのか、どういう課題があるのかを色々教えてもらいました。リズムが好きで、この人良いかもと思ったらおんぶを求めるなどが分かりました。
それを組み合わせて、駅からその人の自宅まで大声で「何々選手速い」みたいな感じで行くようにしました。3ヶ月ぐらいしたら「こいつらが迎えに来るもんや」という感じになって、だいぶ行動も収まり、1年ぐらい経ったら「今日この子か」という気持ちも全くなくなったとのことです。
事例2:買い物に課題があった小学生
お母さんから渡されているお小遣いで色々な場所に行く子どもで、海遊館などに行くと最初の方に目についたお土産を買いたがります。「それ買ったら帰り買われへんで」と言うと「大丈夫」と言いますが、帰りもやっぱり買いたがります。
「もうさっき買ったから買われへんよ」となると、人が変わったように怒り出してしまいます。この方の場合は支援を統一して、人目のないところで落ち着いてくださいと優しく声かけをすることにしました。バラバラだとなかなかうまくいかないため、統一することで段々と自分なりに折り合いをつけることができるようになってきました。
事例3:見通しが立ちにくい高校生
お出かけが大好きで見通しが立ちにくいという特徴がありました。この方は知的障害の診断を受けていますが、非常に口達者でした。しかし、見通しが立たなくて、全然まだ時間があるのに「もう帰らないと間に合わないよ」となったり、逆に「あと1時間どこかに行けるよ」と聞いたら「琵琶湖を見たい」と言ったりします(京都にいるのに相当時間がかかる)。
時計が読めて「あと1時間ある」と言えば分かりますが、1時間あったらこんなことができるというレパートリーや経験、それをイメージする力がやっぱり高くないのです。
この方にはスケジュールを持ち運べるようにして、持ってもらうと様子が違いました。スケジュールがない時は後半ぐらいになるとそわそわして「もう帰らなあかんのちゃうか」と言ったり、逆に「今からどこそこ行きたい」と無理な提案をしたりしていたのが、最初の計画通りに落ち着いて過ごすことができるようになったという大きな変化がありました。
まとめ
子ども自身が生きやすくするために、廣野氏は講演の最後に、子ども自身が生きやすくするために色々なスキルや人と関係を持つことがとても大事だと強調されました。
放課後等デイサービスや児童発達支援でみんなで療育を受けることも大事ですが、1対1で出かけるような支援も発達の順番的には重要です。
まずは親以外で信頼できる大人、「この人やったら出かけても良い」と思える関係ができたら、もっと遠くに行きたい、あそこも行ってみたいというような発達も大事だと述べられました。
療育は単なる技能の習得ではなく、人との関係性を築き、子どもが安心して成長できる環境を整えることが最も重要であることが、実践事例を通じて示されました。
廣野氏の講演を通して、療育の基本的な考え方から具体的な支援方法、そして実際の変化まで、当事者としての実感と支援者としての経験の両方から学ぶことができました。特に障害の社会モデルやスペクトラムの考え方は、療育に関わるすべての人にとって重要な視点だと感じられました。
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