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今回の講演者
佐賀 豪氏
くれたけ法律事務所 弁護士
東京弁護士会 子どもの権利と少年法に関する特別委員会
今回は、社会的養護分野で豊富な経験を持つ佐賀弁護士をお迎えして「子どもの権利を考える」をテーマに講演をしていただきました。
佐賀弁護士は、大学時代に児童養護施設でボランティア活動を行った経験から弁護士の道を志し、現在は東京都や各区の児童福祉審議会委員、豊島区・北区の子どもの権利擁護委員を務められています。また、ファミリーホーム協議会の編集委員として「ファミリーホームと社会的養護」の編集にも携わり、東京都の里親研修委員も5年間務められるなど、社会的養護分野に深く関わっておられます。
講座内容➀:子どもの権利条約と4大原則
日本における子どもの権利の位置づけ
佐賀弁護士はまず、重要な前提について説明してくださいました。
日本国憲法には、実は子どもの権利を定めた規定は存在しません。過去の裁判例では「未成年者に人権が保障されるのか」ということ自体が争点となってきた経緯があります。
しかし、日本は1989年に国連で採択された児童の権利条約を1994年に批准しており、条約の内容は日本国内でも適用されています。これにより、子どもの権利は日本でも保障されるという理解が徐々に定着してきています。
児童の権利条約の4大原則
佐賀弁護士は、ユニセフが特に重要だとする4つの原則について説明されました。
条約にはこれら以外にも、出生後の国籍を取得する権利、出自を知る権利、教育を受ける権利など、様々な権利が定められています。
児童福祉法改正と意見聴取の仕組み
2022年6月の児童福祉法改正により、児童の意見聴取等の仕組みが整備されました。児童相談所は入所措置等や一時保護等の際に、児童の最善の利益を考慮しつつ児童の意見を聞いて措置を行うこととされ、都道府県は児童の意見表明や権利擁護に向けた環境整備を行うことになりました。
この流れの中で、アドボケーター(代弁者)が児童のもとを訪問する取り組みも各地で始まっています。
講座内容②:事例検討を通じた子どもの権利の理解
佐賀弁護士は、子どもの権利について考える具体的な事例を紹介してくれました。
事例1:里子の産着
0歳のDが里親家庭に委託される際、赤い産着を着用していました。
児童福祉司によると、Dは施設の門前に産着を着た状態で保護されたとのことでした。Dが12歳になった時、中学入学準備で整理をしていると、虫食いで使えない状態の産着が出てきました。
この産着を処分することについて、佐賀弁護士は法律的な観点から解説してくださいました。
- 所有権の観点:産着はD本人の所有物であり、無断で処分することは所有権侵害となる
- 出自を知る権利の観点:産着はDの実親の手がかりとなる可能性があり、出自を知る権利(児童の権利条約で保障)を侵害する可能性がある
事例2:里子のおもちゃ
同じDに里親が5歳の誕生日にプレゼントしたおもちゃが、12歳時に壊れた状態で発見された場合を検討しました。
この場合は
- 所有権侵害の問題は同様に存在
- しかし出自を知る権利とは無関係のため、権利侵害の性質が異なる
重要な原則として、佐賀弁護士は「同じ『捨てる』行為でも、何を捨てるかによって権利侵害の性質が変わる」ことを強調されました。
事例3:里子のノート(日記)を読む
13歳のDの部屋を片付けていた際、「Dの日記」と書かれたノートを発見した場合について検討しました。
プライバシー権の保障:
- 日記は個人的な内容で、第三者に読まれることを前提としていない
- プライバシー権が保障されており、無断で読むことは許されない
しかし、さらに複雑な状況設定として、7歳の里子Eが「死にたい」と書かれた日記を発見して持参した場合はどうでしょうか。
この場合、プライバシー権vs生命の保障という権利の衝突が生じます:
- Dの様子が普段と変わらず元気な場合:プライバシー権優先
- 最近元気がなく心配な様子がある場合:生命の保障優先
佐賀弁護士は「具体的な状況に応じて判断が変わる」ことの重要性を強調し、法律家は詳細な事情を調査して慎重に判断することを説明されました。
講座内容③:子どもの権利を保障することの真の意味
講演の核心部分として、佐賀弁護士は権利保障の本質的な意味について深く掘り下げられました。
権利とは何か - 過去の侵害から生まれた概念
「どうして子どもの権利を守らないといけないのか」という問いに対して、佐賀弁護士は以下のように説明されました:
子どもの権利条約の各権利は、過去に子どもが侵害されてきた重要な利益を権利として保障したものです。歴史的に繰り返された侵害を防ぐために、これらを権利として条約で定め、1990年に発効し、日本も1994年に批准しました。
権利の2つの重要な性質
佐賀弁護士は、権利について理解すべき2つの性質を説明されました。
1. 権利は権利侵害があって初めて意味を持つ
- 障害児入所施設(福祉型と医療型)
- 権利侵害がない状況では、権利行使の必要はない
- 権利行使が必要な状況は、既に侵害が起きていることを意味する
2. 権利は最低限の保障に過ぎない
- 権利保障は「赤点を取らない」レベルの最低限保障
- 義務を前提とせず当然に保障される理由はここにある
- 目指すべきは「100点」であり、権利保障はその前提条件
違和感のある会話の正体
佐賀弁護士は、ある里親が里子に「あなたは親から食事を提供される権利があるからご飯を食べていいのよ」と言った事例を提示しました。
多くの参加者がこの会話に違和感を感じましたが、その理由は・・・
- 里親が自ら権利侵害しているから権利行使を促している
- 「最低限のことしかやりません」と暗に伝えている
真の意味での子どもの幸せ
佐賀弁護士は、ある児童養護施設での感動的なエピソードを紹介されました。
交通事故で両親を失い施設に入った子どもが4歳の時に「自分が生まれてこなければお父さんお母さんは死ななかった」と言って不調になりました。
施設職員が記録を調べると、母親が帝王切開後に一時的に意識を回復した記述を発見。
「君が生まれたのを確認できたからお母さんは安心して亡くなった」と説明すると、子どもの不調は改善しました。
しかし中学生になった時に再び不調になりました。
施設長が気づいたのは「お墓参り」をしていなかったということでした。
このエピソードから、佐賀弁護士は以下の重要なメッセージを伝えられました:
「この子にとって何が一番良いことなのか、重要なことなのか」を絶えず考える姿勢があれば、重大な権利侵害に至ることはありません。
権利保障の真の意味
- 権利保障は子どもが幸せになるための必要条件であり、十分条件ではない
- 権利保障されるだけでは子どもは幸せにならない
- 重要なのは「子どもの幸せを一番に考えた養育」
- 子どもにとって何が幸せかを常に考えていれば、自然と権利侵害は避けられる
佐賀弁護士は最後に、「権利、権利」と囚われすぎるのではなく、子どもの幸せを第一に考えた養育の重要性を強調し、講演を締めくくられました。
この研修を通じて、参加者は子どもの権利について表面的な理解を超えて、その本質的な意味と、日々の養育において大切にすべき姿勢について深く学ぶことができました。
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