© ONE LOVE All Rights reserved.
今回の講演者

平岡 篤武(ひらおか あつたけ)氏
児童精神科医・スクールカウンセラー
| 開催日時 | 2024年11月23日(土) 10:00〜12:00 |
|---|---|
| 開催形式 | オンライン(Zoom) |
| 講師 | 平岡氏(児童精神科医・スクールカウンセラー)、相澤氏(元厚生労働省・児童福祉専門家) |
1. トラウマとは何か 〜問題行動の本質を理解する〜
平岡氏はまず、動物の行動映像を用いて、危機的状況における生物の本能的な反応を説明されました。
危機的状況での3つの防衛反応(3F):
これらは脊髄反射レベルの防衛反応であり、考えて判断した行動ではありません。
問題行動として現れるトラウマ反応
虐待環境で育った子どもたちも、日常生活の中で同様の反応を示します。
具体例:
ネグレクト・虐待環境で育ち、いつも宿題を忘れる子どもがいたとします。先生が「宿題忘れたのか!」と強い口調で注意すると、この子の頭の中では過去の虐待体験が再体験されます。先生は怒っているわけではなく強い口調で注意しているだけですが、子どもにとっては「殴られた記憶」がフラッシュバックし、引き金(リマインダー)となってしまうのです。
その結果:
先生にとっては「怠け、やる気が見えない」と映り、さらに怒ると、この悪循環がトラウマを増幅し、再トラウマを起こします。
重要な視点転換:
「これは問題行動ではなく、子どもにとっての危険への防衛反応に過ぎないかもしれない」
つまり、暴言・暴力・固まる・逃げるといった行動は、子ども自身が「悪い」のではなく、危険検出機能の暴走なのです。熟慮した行動ではなく、反射的な反応です。
支援者の二次的トラウマ
子どものトラウマ反応に常に向き合う支援者側にも深刻な影響が出ます。
二次的トラウマの症状:
このため、トラウマに関する知識の眼鏡をかけて見ることが必要なのです。トラウマインフォームドケアとは、この眼鏡をかけて、子どもの行動の背景を理解しようとする支援の姿勢のことです。
トラウマインフォームドの核心
従来の常識的な対応(怠けを叱る、暴力を止める)は、背景を理解しないままだと、子どもを追い詰め、支援者も追い詰められます。だからこそ:
「何が引き金でこんなことが始まったのか」
「もしかしたらトラウマ反応かもしれない」
「過去の記憶が喚起されて、とっさに行動化しているのかも」
と考え、「今あなたの中で何が起きたの? どうした? 何が怖い? 何が心配?」というふうに、怒るのではなく声をかけられるかが勝負になります。
2. ACEs研究 〜逆境体験の長期的影響〜
ACEs(Adverse Childhood Experiences:逆境的小児期体験)研究は、フェリティ医師による画期的な研究です。きっかけは肥満解消プログラムの脱落者が多く、調べてみると性的被害の方が多かったこと。不安・恐怖・絶望を「食べることで和らげてきた」のではないかという仮説から始まりました。
10項目のスコア評価(10点満点):
【虐待5項目】
【家庭機能不全5項目】
衝撃的な研究結果:
対象は平均年齢57歳、中産階級の白人、しかも4分の3が大卒という「成功した」人々。生活の問題も社会的不利もない方々です。
なぜこうなるのか:
子どもの頃の逆境体験は、慢性ストレスが続くと、ストレスを調整できなくなります。
本来、ストレス調整とは:
この調整ができなくなり、過剰なホルモンを出し続けて自分を傷つける状態(過覚醒状態)になります。うつの人はこの状態です。これが免疫システムを不調にさせ、炎症を起こし、病気を引き起こします。
重要なのは:
親からの非難・侮辱・不和・暴力・アルコール・精神疾患・犯罪、どれでも悪い影響を及ぼすこと。重なれば、脳や免疫機能に悪さをするということです。
悪循環:
虐待体験 → 神経発達を狂わせる → 社会的・情緒的・認知的な機能障害 → 健康リスク行動(子どもなら問題行動) → 疾患・障害・社会的問題 → 早期の死亡
3. PACEs研究 〜保護的経験の重要性〜
一方で、逆境体験があっても保護的・保障的な経験によって乗り越えられるという希望のある研究もあります。
子どもの中のリソースが得られる鍵は: 関係性と資源です。
関係性:
資源:
これらが、子どものレジリエンス(困難を乗り越える力)や感情コントロールを強めるのです。
かなり常識的な日常生活が保障されることが大事だということが分かります。
4. 発達と自己調節機能 〜積み残される課題〜
正常な発達プロセス
0-1歳: 不快感を減らす関わり
1-3歳: 言葉としつけ
3-6歳: 自発性と集団生活
これらは全て、0-1歳の頃に不快感が減るような関わり、ペース合わせをしてもらっていたことがベースになっています。
不適切な養育環境での発達
ネグレクト・虐待環境では、この自己調節機能がなかなか育ちません。
結果:
重要なポイント:
内的な自己調整機能がなかなか育たないという問題です。ネグレクト・虐待環境で育つということは、基本的な問題を積み残したまま、年齢だけ上がっていくことを意味します。
5. トラウマが子どもに及ぼす3つの影響
トラウマを経験した子どもたちには、考え方や行動を偏らせる3つの大きな影響があります。
①被害的世界観の形成 〜「この世は怖くて危険なところ」〜
体験距離と体験強度:
私たちは怖いものとの距離を見定める能力を持っています。小さいトカゲなら「しょうがない、子どもの自由研究だから」と我慢できても、アナコンダだと「とても無理」となります。
虐待は至近距離(体験距離ゼロ)で強烈な体験です。しかも逃げ場のない家庭で起きます。
その結果:
対照的に、通常の環境で育つと公正世界仮説という世界観を持ちます:「この世は公正で安全なところ。悪いことをする人がいれば見つかって罰を受ける。先生に訴えればいじめに対応してくれる」
被害的世界観で生きている人は:
引き金(リマインダー):
なぜ褒められることが引き金になるのか?
虐待にはサイクルがあります: 殴られる → しばらく平和 → また殴られる → 平和。
この「平和な時期」は、「次いつ殴られるんじゃないか」という不安な時期です。DVと同じサイクルです。だから、肯定的・親密・安定した雰囲気がかえってザワザワしてしまうのです。
対照的に:
一貫して無条件に可愛がってもらった体験では、愛着形成(アタッチメント)がうまく育ちます。哺乳類として親・保護者から守ってもらうという機能が対人関係のテンプレートとなり、他者にもそれを再現できるようになります。
②特異的行動パターン 〜3F反応の日常化〜
逃走か攻撃か固まるかという安全探索行動が、ちょっとしたことで出てしまいます。
危機とみなした状況を回避するための防衛反応だったものが、独自の行動パターンになってしまいます。
具体例:
これらは、普通に家庭で大事にされた方とは違う、日常生活に即さない行動が多いのです。これは3Fが発動しているのであり、熟慮した行動ではなく反射です。
つまり、状況に応じて感情や行動を適切に調節する能力に問題があるということです。
その結果、自己肯定感・自尊心が育たない、低下してしまうことになります。
③発達全体への歪み 〜広範囲な遅延と偏り〜
環境が変わらず年齢だけ上がれば、さらに広範囲に発達の偏りや遅延が生じる可能性があります。
影響を受ける3つの領域:
調整能力:
対人関係能力:
認知能力:
不適切な行動は、発達の阻害の副産物として見られるということです。
6. トラウマインフォームドケアの核心 〜視点の転換〜
従来の見方(氷山の一角だけを見ていた)
問題行動 → 健康リスク行動 → 疾患・社会的問題 → 早期死亡
「あの人たちはなぜ痩せようとしないのか」「お酒をやめようとしないのか」という見方で、行動を直せばいいじゃんという話で見ていました。
トラウマインフォームドの見方(氷山モデル)
表面に見えている問題・症状は氷山の一角です。
その下に:
これらが背景にあったのです。トラウマインフォームドの眼鏡で見えてくるものがあります。
重要な視点転換:
「What’s wrong with you?(あなたの何が悪いのか)」
ではなく
「What happened to you?(あなたに何があったのか)」
心理教育 〜3つのつながりを理解する〜
心理教育の核心:
この3つの関係を、本人にも分かってない、周りにも関係が見えてないかもしれません。暴言・暴力、怠け、嘘などです。
これを日常生活の中でゆっくり話し合って、「そういうことに繋がってるかもね」ということにたどり着きたいわけです。
「困った行動のピンチをチャンスに」
これが表に出てこないと扱えません。ピンチをチャンスと考えられるのです。この緑の部分(引き金と困った行動の橋渡し)を通訳するというのが心理教育であり、「そういう時にどうやって対応しようか」という話し合いが心理教育の要になります。
7. 支援の3段階 〜ARC理論〜
トラウマ治療には3つの段階があり、これをARC理論といいます。
①愛着形成(Attachment) 〜養育者支援が中心〜
実は愛着に関しては養育者が頑張ってもらうことになります。自己調節と能力に関しては子どもが頑張りますが、愛着に関しては養育者が頑張る必要があります。
養育者に求められること:
感情管理: 施設の職員にしても、学校の先生にしても、里親にしても、実の保護者にしても、二次的トラウマ(二次的被害)という状況に陥りやすい。子どもに対して感情的にならないで付き合うということの支援が必要です。
一貫した応答: 子どもに合わせて、子どもとペース合わせをすること。同じ刺激に対して同じ応答を返すこと。
習慣と儀式(リズム): これは分かりにくいかもしれませんが、生活のリズムです。
儀式というのは、宗教的儀式は分かりやすいですが:
私たちの社会の中では一定の儀式に沿る活動があります。それをしっかり楽しめる体験が、リズムある生活の中に繋がってきます。
リズムの重要性:
我々の生活は自然にこれが組み込まれている:
お正月にはきちんといつもより着物を着る
でもそのご褒美としてお年玉もらえる
楽しくこういう儀式や習慣を身につける
多くの虐待体験、ネグレクト体験の方はこれを経験していないので、居心地の悪い窮屈なものというふうに体験されてしまうのです。
②自己調節(Self-Regulation) 〜子どもが頑張る〜
感情調節: 自分の感情が怒っているのか悲しんでいるのか分かってない場合があります。調節とは、出しすぎちゃったね、ワーッと大きな声で喋るとか。感情をちゃんと表現する。悲しいとき「悲しい」って言える。
2つのアプローチ:
ボトムアップ(下から上へ:体から脳へ):
体感レベルで安全感覚を取り戻す
トップダウン(上から下へ:脳から体へ):
これまではトップダウンが中心でした(心理教育、言い聞かせる)。しかし今まで見てきたような虐待・トラウマ体験を考えると、ボトムアップによる自己調整が重要です。つまり、考える前に体が反応して逃げる、攻撃する、固まるわけですから、体を緩めることから始めます。
リマインダー(引き金)への気づき: 「それはどこの体の感覚が一番強かった? 頭が熱くなってきた?」 「そのとき気持ちはどう考えた? 叩くしかないと考えた? 怖くなったから逃げたとか、逃げようと思った?」 「そして逃げた」
この悪循環を見つけることが大事です。
③能力開発(Competency) 〜時間をかけて〜
発達段階によって、この子はどこがうまく育ってないんだろうかと見てもらって:
これはかなり時間のかかる、体験に伴走する支援が必要です。
最近当事者の発言が増えてきて、テレビに出たり新聞に出たり、この体験を話してもらう機会が増えましたね。
8. 実践例:マルベリー・ブッシュ・スクール(イギリス)
虐待を受けたお子さんが治療教育を受けるスクールです。
日本との違い:
日本は「施設生活・何とか寮・何とか学園」という名前。イギリスは「スクール」と呼ぶ。治療教育のスクールが中心で、そこに付属の寮があるという位置づけ。光の当て方が違います。
特徴:
少人数制ユニット:
安全感覚への配慮:
体を動かす環境:
毎日の対話の場:
9. 支援における重要な注意点
常識的な対応でよい
平岡氏の強調:
「特殊な対応をしなきゃいけないっていうよりは、特殊な経験をした人は特殊なことをしちゃうんだっていう理解をしてればいい。対応するのは常識的でいい。」
ただし、常識的な声かけが逆効果になることもあるので、それがどこかを見極める必要があります。
しかるのではなく理解する
知らない人にベタベタする、金品を盗む、暴力を振るう…
「ダメです」と言われても「なぜダメなのか」はわからない
体が反応してジャンプしているのに「ジャンプするな」と言われても、「私がやってるんじゃなくて体がやってるんです」という話です。
再トラウマの防止
通常の叱責的な対応がトラウマを増幅し、再トラウマを起こす可能性があります。
やめなさいというだけだと:
常識的な叱責的対応が、もっとトラウマを増幅する、再トラウマを起こす可能性があるという理解が大事なのです。これがトラウマインフォームドという考え方になります。
セミナー後半では、参加者から実践的な質問が多数寄せられ、講師陣が丁寧に回答されました。
Q1: 脱抑制型愛着障害の4歳児が知らない人に触る行為への対応
質問内容:
「知らない人にいきなり触ったり話しかけたりしないようにしてほしい場合はどうしたらよいでしょうか。養育者と愛着ができればなくなっていくと言われていますが、それまではただその行動を見守るしかないのでしょうか。注意することはしてはならないことですか?」
回答(平岡氏):
特殊な対応ではなく、常識的な対応でよいです。ただ、極端に叱ったり注意したりしないほうがいいということです。
理由:
区別がつかなくてベタベタしているので、「ダメです」と言っても、なぜダメなのかはわかりません。猫がピュッとジャンプしているのに「ジャンプするな」と言われても、「私のやることダメなの?」となってしまいます。「私がやってるんじゃなくて体がやってるんです」という話です。
対応の方針:
時間がたって里親さんとの関係が深まってくれば、里親さんとそこに歩いているおじさんとは違うんだという区別が自然についてきます。そうすれば減るわけなので、それを待ちましょうという話です。
しかるとそれが道を歩いている人と変わらなくなってしまいます。思いはわかるけど、私は他の人と違って、特にあなたの状況を理解して、あなたのつらい体験もわかって、何とかお手伝いしたいっていう思いがあるわけなので、それも含めた飲み込んだ対応が必要です。
「見守るしかない」ということはありません。あまりにもひどくて迷惑をかけるほどベタベタしたら、「それはおじさんが困るよ」と話すのはいいけど、しかる必要はないでしょう。上手にこっちに気をそらせてあげればいい話です。
発達障害や発達の偏りを考えると、大体10年、小学4年生ぐらいまでは多めに見て、あんまり怒りすぎないということが大事だと言われています。多動でもADHDでも、10歳ぐらいになると、可愛がって10歳ぐらいになると、ほっといても落ち着く。ところがその過程で怒ってばっかりだと、それは長引く。4,5年生が境目になるというのは一般的に言われているので、4年生まで我慢してくださいという話はよくします。
補足(岩朝氏の実例):
うちの子も小学校5年生ぐらいまでが一番揺れていて、その後、私とか家族の関係性がしっかりガシッとなったぐらいから、お友達への距離感は減りました。ただし18歳になっても、女子同士の距離感、私に対する距離感はものすごくまだ触ってきたがる。注意して治るとかってものでもないし、難しいですね。
スキルとしての境界線学習:
落ち着いたとき、ご機嫌のいいときを狙って、境界を理解する教材や絵本を使って、少しずつ知識としてスキルを耳に何回も何回も入れとくことが大事です。
ボトムアップのアプローチ:
生活場面で良い距離をとってくれるときがあったら、すかさず褒める。「そういうとり方がとてもいいんだ」と頭で入れていくのがトップダウンですが、ちょうどいい感覚でそういうことをやってくれたときに、それってすごくいい感覚っていうのをちゃんと子どもにフィードバックしてあげるのがとても大事(ボトムアップ)。
ベタベタするとかくっつくっていうのが、必ずしも虐待体験じゃなくて、その人が持ってる特性みたいな、障害というのが関係ない性格みたいな、そういう場合が結構あります。だから愛着障害の診断名も変わりました(脱抑制対人交流障害)。
Q2: 母親に「死ね」「アホ」と言う6歳児への対応
質問内容:
「母親に暴言を吐く『死ね』『アホ』などと言う6歳の男の子がいます。母は『私には言ってもいいんです』とその子に言っており、支援者としてどのような声掛けをしたらいいか考えています。発達の偏りもあり、特定の子に執着があります。この子も自分自身を叩いたりする自傷行為があります。思い通りにならない場面で、そういった事象があります。」
回答(平岡氏):
お母さんがどういう理由で「私には言ってもいいんです」とおっしゃっているのかが分かればいいのですが、詳しい背景が分からないので一般論になります。
現状の理解:
今の情報だけだと、思い通りにならないことがすごく大きなストレスになって、攻撃行動(自分に向かうときもある)になっているということですね。
お母さんは、この子はちょっとしたことでイライラしてバカって言ったり叩いたりすることがあるのを、「こんな原因があって、こんなことがあったからそういうふうになっちゃうのかな」と理解して受け止めてあげようと思っておられるのかもしれません。その辺の事情を本当は聞けて、お母さんに言っていいっておっしゃるのはとても優しくて、怒るに比べたらとてもいい対応だとは思います。
どんなことがあってそういうふうに思えるようになったんですか、みたいなことを本当は聞けて、引き金になってることは何と繋がってるのかなっていうのがわからないと、あんまり効果的な対応に近づけないのです。
対応のゴール:
「死ね」「アホ」という攻撃的な言動は効果的ではないので、最終的な目標は言わなくても、自分が『お母さんなんで早く来なかったんだよ』って言うとか、『今日は嫌なことがあったんだよ』ということを言えるようになるのがゴールだと思います。年齢的に。
少しずつ嫌なことを言葉で説明するとか、嫌なことをお母さんに訴えるとか、そういうふうにやっていきたいと思うんですよ、みたいなことのゴールを、時間はかかるとは思うんですけども、設定することが大事です。
時間がかかる理由:
やっぱり安定していっときそういうことがわーっと出てきちゃう時期っていうのは、一時保護したりとか、里子さん預かった時とか施設に入った時とかっていうのは、しばらく落ち着いた後にわーっと出てくるというのが一般的なものですから、そこをどう乗り越えるかっていう意味では時間が必要なことでもあるんだけど、大きな対応のゴールとして、言葉でちゃんとそういう不満を言えるようになるといいね、ということを目指しつつ、「死ね、アホ」って言うようになったのはどんなことかなーっていうのが共有できると、余計支援者としては楽になるのかなと思いました。
語彙学習の可能性(相澤氏・岩朝氏):
多くの場合、語彙学習が多い。そうやって言われてきたというか、聞いて学習してきちゃった。もし母子家庭になった背景にDVがあったとすると、そういう語彙学習っていうのがある可能性もあります。
Q3: 学級崩壊状態への対応
質問内容:
「小3長男のクラスでA君が暴力・暴言を行い、学校は好きだけどクラスには行きたくないと言っています。クラスで暴れている子がいると、別室対応している児童がいます。長男もA君の暴言・暴力は怖く、来週からは自分も別室対応してもらいたいと言ってきました。担任の先生もその状況が耐えられなくて不安になって涙を流してしまいます。A君に対しては家庭内でおそらく何かあるんだろうなとは感じています。保護者としてどのように子どもに伝えてあげれば安心した学校生活が送れるのか。」
回答(平岡氏・相澤氏):
問題の本質:
学校が対応しなきゃいけないと思うんですが、そんなに周りの子たちがストレスを受けるような状況はちょっと早く改善しないといけません。
なかなかコメントしにくい立場なんですけど、なるべく一般論に変えて言わなきゃいけない。要するに抗議的なことを言っても何の解決にもならないものですから。
大事なこと:見立て
なぜその子が暴言暴力を発するのか、その見立てですね。学校が一番苦手なのはその見立てです。あんまり好きじゃない。愛着障害があるとか虐待があるみたいなことを考えてどう対応するかっていうのは得意ではなくて、30人なら30人を文科省の指示した教科書にのっとって、ある一定程度の知識を授けるという、ちゃんと座って勉強できるっていうことを想定した授業構成になっているものですから。
ところが特別支援学級や特別支援学校に行くと、一人一人ニーズが違うから、一人一人にどう対応するかを変えるのが当たり前っていうふうになっているので、また学校によっても違います。
システムの問題:
小学校と中学校では先生のストレス度が全然違います。小学校の先生っていうのはずっと張り付いてるので、全部自分で捌かなきゃならない。ところが中学っていうのはほとんど教科担任制。学年で対応するっていう感覚が強くて、困ると学年でどうしようかっていう話し合いが起きる。
その体制ができてる小学校はいいんですけど、それが個々の担任にお任せで、やるとしても授業対応となると、そういうことが起きやすい。
制圧ではなく理解を:
制圧力の強い先生に担任したら全く問題が起きなくなったっていうことがあるけど、それはその場限りの効果だと思っています。先生一人一人の問題にすり替えて、システムとして難しいお子さんをどう支援していくかっていうことが先送りされちゃうので、また同じことが繰り返されるだけかなと思って。
保護者として求めること:
A君の暴力・暴言が、何が一体根っこにあって、愛着障害なのか虐待なのか、また別なのか、そういうことを親御さんとちゃんと話し合ったり、本人もスクールカウンセラーいるならスクールカウンセラーにちゃんと見立てしてもらって、大人しい子・器用な子がビクビクして教室にいられないっていう状況を、根本的に改善する対応は何なのかっていう話し合いをきちんと、保護者を交えてさせてもらいたいって話をしなきゃいけないのかなって気がします。
専門家(スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー)にきちっと相談されるのがいいんじゃないでしょうか。
システムとしての対応:
教頭先生がどう考えどう対応してるかっていうのは結構大きい。担任だけじゃなくて、トラブルの学校っていうのは教頭先生が窓口で、教頭先生が校長に報告するっていう形式になっているので。
直接対決は避ける:
最近は学校は保護者同士直接話し合いさせないんですよね。学校はそれぞれに、間に入ってそれぞれに聞くみたいな感じ。直接話し合ってうまくいかないことのほうが多い。常識を逸脱する対応する親御さんもいるもんですから、傷つくことになっちゃったり裁判沙汰になっちゃったりすることがあるもんで。
相手の保護者が反省もごめんなさいもないもんで怒っちゃって裁判沙汰になっちゃって、「そんなことで裁判するの?」みたいになっちゃったりするケースがあります。
そういう親だから、またその子がそうなってるのかもしれないけども、その親御さん自体がかなり同じような経験をしてきて、同じようにうまく対処できないっていう、悪循環、セットで支援しなきゃいけないようなことっていうのは結構少なくない。
Q4: 保護者として子どもに安心して話してもらうには
質問内容:
「保護者である私たちは、子どもにどのような対応を取ればいいのか、安心して学校でこんなことがあったよと話してもらえるような関係になるにはどんなことを心掛ければいいのか教えていただきたいです。」
回答(平岡氏):
年齢にもよりますが、基本的に「学校で何やった?」って聞くのはあんまりおすすめはしないんですよね 。面倒くさいから。子どもにとっては面倒くさいから。
普段から楽しいことを:
普段、さっきPACEsのところで出たように、創造的な趣味がレジリエンスに影響するんだっていう話をしましたが、楽しいこと、愉快なことの経験が子どもの健康さをとっても育てます(大人でも同じ)。
そうすると、普段から共通の楽しい話題なり、そのゲームいいねでもいいんですけど、そういうことを心がけるというなら、むしろ学校と関係ないところで、子どもの好きなこととか、子どもの才能とかに気づけるような、そういう交流をたくさんしておけば、派生的に学校の話題がポロッと出てきた時に、それを広げて、友達の話とか、「ああ、担任の先生そうなんだ」とか聞けると思います。
直接学校のことじゃなくて、その子のレジリエンス、創造的な楽しみとか、人生を豊かにするような好きなこととか活動とか、そういうことを一緒に話をしたり体験したりすることをしていれば、そういう話題についても派生してくるのかなっていう印象を持っています。
補足(相澤氏):日常生活の魔法
日常的なコミュニケーションをどのくらい楽しんでやってるかっていうのが小さいうちから、それがすごく重要です。何かのときにいざっていうときに相談できるか相談できないかっていうと、日頃からコミュニケーションしてないのに、そういうときだけ話をするかっていうのはそんなことはないんですよ。
本当に楽しいコミュニケーションをするってことがすごく大切 で、 レジリエンスって日常生活の魔法みたいなってことがよく言われていて、日常生活の中でいろんなものが培われていくので、いかに豊かな楽しい日常生活を送るかっていうことが大事です。
リズムの重要性:
1日のリズム、1週間のリズム、1年のリズムみたいなのがあって、やっぱり活動と休養。交感神経と副交感神経が活動したら休養して、休養したら活動するみたいな、そういうリズミカルな生活を送るっていうことがすごく重要です。
例えば、月曜日の朝一からガンガン主要4,5科目なんか授業やらないですよ。学級活動なんかから始まってレディネスを高めてやる。活動したら休養するみたいな、夏休み・冬休みは休み。
日本もそういう中で活動するみたいな、行事がそういうふうに組まれているわけで、そういった日常生活の中で豊かに、いかにリズミカルに生活するかということが、本当は子どもにとって保護的体験になるので、そういうことを心掛けるといいよなというふうにいつも思っていました。
補足(岩朝氏):子どもの味方になる
私、子どもから1回怒られたことがあって、友達とのトラブルの話を聞いて「でも友達はこういうういうつもりだったかもしれないよ」みたいなことを言ってたら、子どもから「そんなド正論聞きたいんじゃないんだよ。私の味方をしてよ」って言われたんですよ。
「そんなことわかってんだよ」みたいなこと言われて、ただただ自分の味方をしてくれって言われました。
1回怒られたことがあったので、それからはできるだけ味方をするように、味方をしながら、「誰々ちゃんもこんな気持ちかもしれないね」とかって言いながら、基本は彼女の味方っていうのを全面に押し出すような話し方に変えました。
子どもから言われて、確かになと思って、そんなド正論でぶつけてどうこうって子どもを正そうとするんじゃなくて、子どもの話を聞いてあげなきゃいけなかったのに、真っ当なことを言っちゃって、という反省でした。
でもすごい、やっぱり子どもからの声って、言ってくれて本当に良かったなと思ったんですけど、それを我慢されたら、私ずっと気づかないじゃないですか。本当に子どもから教わることって、本当にハッとすることがめっちゃあるなと思っています。
セミナーの最後に、参加者と講師陣で重要な議論が交わされました。
不適切養育の広がりと国家的損失
岩朝氏からの問題提起 :
「里親とかその社会的に養護されている子どもたちだけじゃなくて、一般的な子どもたちでも不適切な養育をされている子どもたちものすごく多いじゃないですか。その中で、こういう課題を抱えている子どもたちいっぱいいて、しかしその回復にはものすごい時間がかかる。先生、先ほどからやっぱり時間がかかるんだけど、こういう対応していくと改善するよってお話されてるんですけど、やっぱり一瞬で解決する魔法がないじゃないですか。どうしても丁寧な関わり、誰かが関わって、時間をかけて丁寧に積み上げていくしかない。やっぱり、前に他のセミナーである講師の方が、天敵のように愛情を注いでいくという表現をされたんですけど、本当にそうだなと思うんですよね。であれば、国単位で考えたときに、ものすごい国益を損害している状態ですよね。これ20年後、30年後も、今の課題を解決していかないと、この子たちは今の養育をモデルとして自分も養育していくということですもんね。しかも若年妊娠が多いじゃないですか。そういうことが繰り返されていく。しかも分母が増える。こういう子たち、 多子 ですよね。多子の傾向が強いってなったときに、私たちに託されてくる子どもたちも、お父さん違いで何人も兄弟がいるよ。また不適切な環境で貧困と暴力が繰り返されていくみたいなことを、何だろうな、受け皿となりながら、またこの子一人を私たちがやったとて、他の何万人という子たちが、今トラウマケアもされないままに、今施設を出ようとしているみたいな、もしくはこの5年後出ていくということが分かっている状態で、何とかこれを食い止めていかないと、という焦りを感じるんですけど、どうですか。」
世代間連鎖を断ち切る 〜リプロダクションサイクルへの介入〜
相澤氏の提言:
継続的サポートシステムの必要性:
18歳で施設を出て自立支援を受けても、トラウマを抱えているような子が大人になったからトラウマが消えるわけではありません。そういうものに対しては 継続的なサポートをどういうふうにしていくかっていうシステムを作っていくってことが大事だと思っています。
循環型のリプロダクションサイクル:
だからあの循環型のリプロダクションサイクルを常に考えた、子どもが自分が親になった時、また子どもを育てる時にずっと循環的にサポートが受けられるような、親も一緒にサポートが受けられるような、そういうことがすごく重要で、さっきの平岡さんの中でのアタッチメントといった時には、養育者へのそういう支援の重要性みたいなのを言っておられたと思うけど、合わせてこうきちっとやっていかなきゃいけない。
常にそういうニーズに対してサポートをするような、そういうシステムをどう作っていくかということは、やっぱり考えていかなきゃいけないと思います。そうすると、やっぱり途切れのない支援っていうことですよね。
少しずつの前進:
18歳が20歳になって20歳がない、それが取っ払って22歳とか、児童相談所が必要な子はそのまま継続的に支援ができるとか、だからそういうのを伸ばしていくことによって、リプロダクションサイクルというか、循環型なそういうものができるようになるところに少しずつだけど近づいていってると思うので、諦めずに言い続けるってことが大事。
私がだって里親、自分が厚生労働省に行ったときに里親制度を推進しようって言うんで、専門里親とか親族里親とか里親の役員とかレスパイトケアなんかを考えたけど、あの当時は6.4%ぐらいだったのが、今は20%を超えてになった。やっぱりそういうものっていうのはいきなりバーンと増えるわけじゃないので、やっぱり諦めずに、時間をかけて、次へ次へと繋げていくことが大事だよね。
親子分離ではなくパーマネーション(親子一緒のケア)へ
岩朝氏の問題:
「本当に問題を抱えたまま大人になってしまった人をまた支援するっていう、もちろんそれも大事なんだけど、そもそも元を断っていかないと、その人の人生、ずっと苦しいじゃないですか。トラウマは起こらない方がいいし、それをケアが必要な状態にしないというか、もっと虐待予防とか母子支援に、もっと日本ってボリュームを置いていかないと。」
相澤氏:
「パーマネーションみたいなことを考えたら、親子分離というよりも親子一緒にケアするみたいな、そういうシステムをこれから作っていく方が、子どもと親を分けるというよりも、世代間連鎖を循環させないためにも、特に若年なんかの場合だったら、母子一緒にとか親子一緒にとか、そういうケアを。北欧なんかそういうケアやってますもんね。」
学校現場の課題と日本の部活の価値
平岡氏(スクールカウンセラーとして):
現状:
イギリスとの比較:
イギリスには出欠だけを見る仕事の人がいる (パートタイム)。顎が外れるぐらいびっくりした。西洋っていうのはそういうふうに分化した仕事の仕方をする。
単人が、誰が休んでるか把握して、教科も教えて、生徒指導も、部活もって、日本はオールマイティを求める。それが優れてるんだと思います、日本の先生っていうのは。でも少ないので、とても回りきれない。
日本の部活の価値:
「私はイギリス行ったときびっくりしたのは、PACEsって研究もあるよって言いましたよね、ACEs研究のほかに。要するに子どもがそんな辛い体験をしても乗り越えるのは何かっていう研究があって、その中に運動をするとか、サークルに入るみたいなのがあったじゃないですか。そうすると日本の部活って、すごく子どものレジリエンスを育てる場だったんですよね。しかもそれを学校の先生がやってくれる。人が足りなくて、先生が身を粉にしてやってるので、もうできません、これ以上ってなってるんだけど、あれを外に投げると、PACEsの項目のいい面が学校から失われると思うんですよね。」
解決策:
「先生を増やせばいい話なのに、先生の数はそのままで、経済的なお金でいくらかかるっていう計算だけで切り分けてる。10年後20年後、せっかく日本がこれだけ外国から評価されすごいねって言われてるのは、あんま変わんないねってなっちゃうんじゃないかっていうことと、セットかなーって心配しています。」
子ども人口減少の影響
相澤氏:
大分とかなんかだと、出生率すると、今生まれてる子が小学校上がるときには、1学校に1学年、1学級で25人ぐらいしかいなくなっちゃう。これは大分だけじゃなくて山梨なんかもそう。
そういうところで子ども同士での切磋琢磨ができるかというと、やっぱりPACEsっていうことを考えると親友とかっていう関係とかなんかもあるし、交流をするみたいなことも考えると、非常にそういう意味で関係性が希薄になっていて、育っていかなくなっちゃうかなっていうそういう心配はしてます。
今、例えば不登校なんかめちゃくちゃ増えてるけど、子ども人口からすると大人10人に子ども1人いるかいないぐらいなもんなんだよね。ということは、9人の大人の中に1人子どもがいるみたいな、そういう中で育ってるっていうことが、もう非常にいろんな意味で子どもの発達を促進しない、阻害要因になりかねないなと、コントロール過剰のような状況の中で子どもが育ってるっていうことが起きてるんじゃないかなと思って。
このセミナーでは、トラウマを「問題」ではなく「防衛反応」として理解する視点の重要性が強調されました。
里親・支援者に求められること
1. 視点の転換
「What’s wrong with you?(何が悪いのか)」ではなく「What happened to you?(何があったのか)」
問題行動は子どもが悪いのではなく、危険検出機能の暴走
引き金(リマインダー)→ 困った行動 → トラウマ体験のつながりを理解
2. ARC理論に基づく3段階の支援
①愛着形成 : 養育者支援が中心
②自己調節 : ボトムアップとトップダウン
③能力開発 : 時間をかけて
3. 日常生活の魔法を信じる
社会全体の課題
最後に
参加者からは実践的な質問が多数寄せられ、講師陣が丁寧に回答されました。
里親養育の現場で直面する課題への具体的なアドバイスが提供され、参加者同士の経験共有も活発に行われました。
一瞬で解決する魔法はありません。
しかし、天敵のように愛情を注ぎ、丁寧に時間をかけて関わり続けることが、子どもたちのレジリエンスを育て、トラウマから回復する力を引き出します。
日常生活の中での楽しいコミュニケーション、リズムある生活、創造的な活動こそが、子どもの心を癒し、成長を支える「日常生活の魔法」なのです。
このような専門的な学びの機会を通じて、里親コミュニティ全体の質と継続率の向上を目指すONELOVEの取り組みは、社会的養護を必要とする子どもたちの未来に大きく貢献しています。
次回セミナーのお知らせ
ONE LOVEオンライン里親会では、毎月1回、専門家を招いてのオンラインセミナーを無料開催しております。
最新情報はONE LOVEウェブサイトをご確認ください。
お問い合わせ
NPO法人日本こども支援協会 ONE LOVEオンライン里親会 https://one-love.jp
“心の支え”となるコミュニティ
ONE LOVE オンライン里親会は、里親が抱える日々のつらさやしんどさ、喜びを共有できるコミュニティとしてすべての里親をサポートします。

オンライン里親会は、無料で参加いただけます
メンバー登録をするはじめて知った里親の方へ
ONE LOVE オンライン里親会とは里親や次世代の子どもを支えたい方へ
寄付で支える