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今回の講演者

青木 建 (あおき たつる)氏
社会福祉法人 全国重症心身障害児(者)を守る会理事
重症心身障害児療育相談センター長
青木建氏(昭和33年生まれ)は、知的障害者福祉の現場で長年キャリアを積んできた支援のプロフェッショナルです。
講演内容①セミナーの核心:コミュニケーションとは
青木氏は冒頭で「何か特別な技法があるわけではない」と強調しました。
これまで出会ってきた子どもたち、大人も含めて、すべての人が自分にとっての「先生」だったと語り、その経験を通じて学んだことを共有するスタンスでセミナーを進めました。
S君の特徴
何を描いているのか全くわからず悩んでいた青木氏。ある日、お風呂の時間にS君が画用紙を床に置き、その上に乗った瞬間、「これはヘルスメーター(体重計)だ!」と気づきました。
しかも施設のものではなく、自宅のヘルスメーターでした。S君は年に数日しか帰宅できない子どもで、まさか自宅のものを描いているとは想像していませんでした。
変わるにはきっかけが必要。絵がきっかけになって関係性が近づき、分かり合える一歩になった。
「人それぞれ違うんだ」ということを、この出会いが教えてくれました。
青木氏はS君のことを「微笑み賞」に投稿し、「これは自分にとってのノーベル賞だった」と振り返ります。拙い文章かもしれないが、彼の素晴らしさを何とか伝えたいという一心で書いたものでした。
相澤先生から「子どもは一緒だ。非行の子どもであろうが、障害があろうが、子どもは子どもなんだ」という言葉をかけられ着任しましたが、52歳の青木氏が今まで経験したことのない現実に直面しました。
| 水面上(見える部分) | 水面下(見えない部分) |
|---|---|
| 暴言、暴力、自傷、引きこもり | 障害(本人・親) |
| やる気がないように見える | 虐待・いじめの経験 |
| 困らせる子 | 貧困、外国籍の問題 不安、焦り、自信のなさ |
「ねえねえねえ、聞いて聞いて、見て見て見て、褒めて褒めて、守って」
素直に言えばいいのに、虐待、いじめ、貧困、障害などの経験から言えない。本音を見破られないように、限られた言葉を繰り返して必死に「突っ張って」いるのです。
表面的には「困らせる子」ですが、本当は「困っている子」なのだと、武蔵野学院で教えられました。
従来から言われていた「三間」:
1. 時間: 一緒に遊ぶ時間がない
2. 空間: 遊び場所がない
3. 仲間: 一緒に遊ぶ仲間がいない
武蔵野学院で気づいた追加の「二間」:
4. 手間: 手間をかけてもらった経験が少ない(大事にされた、心配された、優しくされた経験)
5. 間(ま): 距離感が取れない(近すぎたり遠すぎたり)
武蔵野学院の理念である「With(ウィズ)の精神」とは:
職員は子どもたちにとって一番近い大人モデル。食事、作業、勉強を一緒にしながら、すべてを一緒にする中でしか見えてこないものがありました。
食事、着替え、寝返り、移動、排泄、入浴、会話、呼吸、体温調節、意思表示——すべてが困難
青木氏がバス送迎時に靴を脱ぎ履きする手伝いをしていた時、驚くべきことに気づきました。
利用者の方が協力してくれる:
「五感+第六感が必要。彼ら彼女らが出す電波を、職員のアンテナでキャッチする。アンテナが錆びていたらキャッチできない」
職員のご褒美: 彼ら彼女らの笑顔
「誰もが一人一人可能性を持っている。確かに弱い人々なので、ささやかなサインなので気づくには難しい。でも、私たちキャッチする側の思いやり、優しさ、素直な心がなければ、それを見つけることができない」
別の利用者は親御さんの「もしかしたら」という気づきから視線入力装置を使い、ゲームや絵を描くことに取り組んでいます。ICTやAIの活用も、気づくのはWithの精神です。
支援者の専門性:「3K」
青木氏が考える支援者の3Kは、「気づき」「共感」「記録」です。
生活や遊びの中での小さな変化・違いを見逃さない。
例: お漏らし
→ 小さな気づきがプロとしての役割
全身・五感を使って一緒に感じる。嬉しい、楽しい、気持ちいい、悲しい、苦しい——子どもたちと共感する。
重要: 子どもと一対一だけではダメ。共感できる仲間(家庭なら父母、職場なら上司)がいないと、次の関わりにつながらない。
障害のある方は縦の成長は難しいが、横の成長をしている。時間がかかるからこそ継続が必要。
福祉職は「記録」ではなく「記憶」に頼りがち。小さな変化を記録に残すと、次の支援につながる。
セミナーで共有・発信することも記録の一つ。
「形容詞を教える」仕事
秩父学園時代、先輩職員から言われた言葉:
「私たちの仕事は、形容詞を教えることなんだ」
楽しい、嬉しい、気持ちいい——これらは言葉では教えられません。経験がないと、それは楽しいことにならない。自分自身が楽しいと思えなきゃいけません。
特に重要なのは「心地よい」「いい気持ち」——つまり「安全・安心」です。
安全だから安心とは限らない。安心の関係は簡単にできるものではありません。
これは実は大人も同じです。
忙しいと「ちょっと待ってて」と言ってしまいますが、子どもには5分なのか1時間なのか、今日なのか明日なのかわかりません。
必ず待ってもらった後には約束を守ることが絶対に大事です。
子どもが「絵を描きたい」と言ったら、「絵を描くんだね」と繰り返す。「ちゃんと伝わってる、聞いてくれてる」という安心感になる。
子どもがブロックで家を作っていたら、「家作ってたんだ」と言う。共感、気持ちの共有は言葉で表すことが大切。
「待っててくれたんだね、嬉しいよ、ありがとうね」——これが子どもの満足感につながる。
「お前は大丈夫だ、頑張れ」と背中を押して送り出す。これも向き合い、寄り添うこと。いろんな立ち位置があります。
質疑応答:実践的なアドバイス
青木氏の回答:
相澤氏の補足:
昨日、里親家庭で育った子の声を聞いた。その子は「里子の当たり前と里親の当たり前は違う」と言っていました。
毎日壁に向かって一人で食事していた子が、里親家庭でコミュニケーションしながらの食事に戸惑い、何を話していいかわからず黙っていたら怒られた。行動の背景を理解することが大切です。
青木氏の回答:
相澤氏の補足:
言語表現ができない子への非言語的アプローチ、生活中心アプローチが重要。ずっと関わってきた人が、子どもがどんなサインを出して、それがどういう意味なのかを読んで伝えることが中心です。
青木氏は重要な提案をしました。
セミナー参加者の岩朝氏が紹介した事例:
ヘラルボニー(Heralbony)
岩朝氏の言葉:
「その子の特性が迷惑として伝わるのか、才能として伝わるのか——私たちの表現一つでも違ってくる。社会とのつなぎ役として、子どもの特性を伸ばすも殺すも関わる大人次第」
「私たちの世界がここまでだと、子どもはこれ以上ならない。知識を使って意識を上げることで、子どもの人生の枠を広げることができる」
長く関わると当たり前になってしまう。もう一回見直して、気づき力を磨いて、初心に戻って見つめ直すことが大切。
青木氏: 「大変な子自慢ではなく、子どもの素晴らしさを自慢しよう」
絵がすごい、音楽がすごい、布団のカバーをかけるのが上手、魚の骨を上手にどける——とにかく親ばかと言われようが、子どものことを自慢できる里親さんが素敵です。
岩朝氏: 「学校の三者面談で、先生ができないことばかり言うので怒ったことがある。子どもの前で、できないことばっかり言わないでくださいと」
できたこと、良くなったことがいっぱいあるのに、できないことから言い出して子どもが下を向く——なんだこの時間は。
子どもに関わる大人がしっかり足並みを揃えて、同じ価値観、同じ視点で子どもを伸ばそうとする、同じ方向を見ることが大切。家庭だけ、学校だけ、フォスタリング機関だけではダメ。大人のコミュニケーションが肝です。
相澤氏からの質問に対して(青木氏の答え)
30年のベテランでも歯を磨かせてくれない子が、実習生には口を開ける。安心安全で「この人なら」と思ってもらえる関係は、技術やテクニックじゃない。
今日のスライドの最後に入れた言葉: 「好きを力に」
好きじゃないと頑張れない。好きだと我慢もできる。頑張ると我慢は背中合わせ。好きは大きな武器です。
まとめ
障害のある子どもとのコミュニケーションは、特別な技法ではなく、「一緒にいる」「観察する」「共感する」「記録する」という基本の積み重ねです。
支援者・里親自身が変わることで、子どもとの関係性が変わり、子ども自身も変わっていく——それが青木氏が長年の経験から学んだことでした。
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