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今回の講演者

相澤 仁氏
山梨大学・大分大学 特任教授 / 日本こども支援協会 副代表理事
本講演では、こども大綱が示す「こどもまんなか社会」を手がかりに、こどものウェルビーイングと、里親家庭を含む養育の場における「共生共育」の考え方について解説が行われました。
長年、子どもたちと生活をともにする現場に関わってこられた経験を踏まえ、養育の場で大切にしてきた考え方として「共生共育」が紹介されました。こどもの存在を尊重すること、参加や意見表明を支えること、そして養育者自身のウェルビーイングを整えることの重要性が、本セミナーの一貫したテーマとなっています。
第1部 講演|こどものwell-beingをどう捉えるか
議題
・「こどもまんなか社会」とはどのような社会であり、そこで目指される「well-being」とは何を指すのか。
要点
・こども大綱が目指す「こどもまんなか社会」とは、すべてのこども・若者が、心身の状況や置かれている環境にかかわらず権利を保障され、身体的・精神的・社会的に将来にわたって幸せな状態で生活を送ることができる社会である。
・well-beingとは、「身体的・精神的・社会的に良い状態にあるという包括的な幸福」であり、短期的な満足だけでなく、生きがいや人生の意義を含む将来にわたる持続的な幸福を指す。
・講演では「今の状態だけでなく、これからもずっと自分らしく安心して豊かに生き続ける健幸な状態」という言い回しを用い、具体例として「よく眠れている」「不安が少なく安心できる」「家庭や学校で安心して楽しく過ごせる」といった状態が挙げられた。
結論
相澤氏は、こどものwell-beingを一人の内面だけで完結するものとしてではなく、「個人のみならず、個人を取り巻く場や地域、社会が持続的に良い状態であることを含む包括的な概念」として位置づけました。個人のwell-beingと社会のwell-beingは、どちらか一方が先に成立するものではなく、相互に影響し合いながら循環的に形づくられるという説明によって、こどもの困難を社会全体の課題として捉える視点がよりはっきり示されました。
補足
日本のこどもの現状として、身体的健康度は高い一方で、精神的幸福度や自己肯定感が国際的に見て低い水準にあることが指摘されています。講演では、その背景を抽象論に留めず、児童生徒の自殺者数538人、いじめ認知件数769,022件、不登校35万人超といった数値にも触れながら、個人の困りごとではなく社会全体で受け止めるべき課題として位置づけました。
*こども大綱とは・・・「こども基本法」に基づいて日本政府が策定した、こども政策に関する最上位の基本方針。すべての子ども・若者が幸せに生活できる「こどもまんなか社会」の実現を目指し、これまで別々だった3つの大綱(少子化、育成支援、貧困対策)を一つに統合して定められました。(出典:こども家庭庁HP)
議題
・養育の現場における「共生共育」の理念とはどのようなものか。
要点
・共生共育とは、「ともに生きる(共生)」ことと「ともに育つ(共育)」ことが分離されず、関係性のなかで存在と成長をお互いに支え合う理念である。
・この理念は、こどもが「ここにいてよい」と大切にされることから始まり、その思いや声が受け止められ、学んだり遊んだり人と関わったりする中で力を伸ばしていく過程までを含んでいる。
・こどもを「守られるだけの存在、教えられるだけの存在」として見るのではなく、「大切にされる存在」であり、「可能性を広げる存在」であり、「社会を変えていく主体」として捉える点に特徴がある。
結論
相澤氏は、里親家庭における養育の理念の一つとして、この共生共育を位置づけました。養育とは上下関係ではなく、対等な関係、すなわちパートナーシップのもとで存在を尊重し合い、こどもの人生経験と養育者の人生経験とが「相互交流」し、「相互学習」しながら、ともに成長していく生活過程そのものだという説明です。その文脈で置かれた「子どものことは子どもに習うのが一番ですよ」という言葉は、大人もまたこどもとの関わりのなかで育ち直していくという、この理念の核を端的に示していました。
補足
共生共育は、こどもを育てるだけの考え方ではなく、こどもとともに大人や家族、社会が育ち直していく考え方として示されました。そのため、里親家庭の実践に閉じず、家庭・学校・地域・制度へと視野を広げて捉える必要があります。
議題
・こどものwell-beingを育むための「Being(存在)」と「Doing(行動)」のメカニズムについて。
要点
・Beingとは、「いま、ここに在る」という事実そのもの、条件づけられない存在の尊厳、役割や成果とは無関係な存在価値を指している。
・Doingとは、行動する、学ぶ、働きかける、参加する、決定に関わるといった能動的側面であり、こども本人が意味をもつものとして主体的に行う実践を指す。
・ここで大切なのは、「評価されるために存在する」のではなく「存在するから尊重される」という前提であり、その安心が主体的な参加や挑戦を支える土台になる。
結論
相澤氏は、共生共育を「だれもが無条件に尊厳ある存在として承認される(being)」「安全感と安心感の基盤の上で表現や挑戦が可能になり、主体的に参加し働きかける(doing)」「その働きかけが反映され、関係・環境・制度を変える」「その変化が自己効力感を生み、再び存在の承認を厚くする」という循環として説明しました。ここで示されたのは、「安心があるから参加できる」だけでなく、「参加できるから安心が強まる」という双方向性であり、beingとdoingの往還そのものがwell-beingを支えるという見取り図です。
補足
資料では、この前提が崩れたときの具体像として、「泣くと怒られるから泣かなくなる」「『嫌』が否定されるから合わせるようになる」「養育者の期待が優先されるから本音を隠す」「話しても理解されないから『大丈夫』と言う」といった例が示されました。相澤氏は、こうして本当の自己ではなく、周囲に合わせた「偽りの自己」で生きることを強いられやすくなる点に注意を促しました。
議題
・こどもの健全な成長を支えるために、養育者自身はどうあるべきか。
要点
・保護者・養育者はこどもに最も近い存在であり、とくに誕生前から幼児期までの時期は、愛着の対象としてこどもの育ちに強く影響する。
・そのため、保護者・養育者自身がwell-beingを高められることが、こどもの権利と尊厳を守り、「安心と挑戦の循環」を通じてこどものwell-beingを高めていくうえでも欠かせない。
・こどもにとって人生の最初期であると同時に、養育者にとっても養育経験の最初期であることから、とくに手がかかる時期には支援と応援が必要になる。
結論
相澤氏が繰り返した「皆さん自身のウェルビーイングがすごく重要」という言葉は、養育者の状態がそのままこどもの安心と挑戦の土台に関わるという認識に基づいています。こどもの育ちを支えるには、こどもだけを見るのでは足りず、こどもと共に育つ保護者・養育者のwell-beingと成長を、周囲がしっかり支える必要があるという整理がここで明確に示されました。
補足
とりわけ幼児期までは、こどもにとっても人生の最初期であり、同時に養育者にとっても養育経験の最初期です。資料では、子育てがとくに手がかかるこの時期には、出産前後の綿密なケアも含めて保護者・養育者への支援と応援が必要であり、それが結果としてこどものwell-beingを支えることにつながると整理されていました。
第2部 岩朝代表の問いと相澤氏の回答
議題
・失敗を極端に避ける現代の風潮の中で、こどもの挑戦や失敗をどう受け止め、支えていくべきか。
要点
・失敗を未然に防ぎ切ることよりも、「失敗したときにどう学ぶかを一緒に考える」ことが重要である。
・つまずくからこそ気づきがあり、豊かな経験を吸収することができる。
結論
養育者の役割は、こどもに正解を先回りして与えることではありません。相澤氏は「答えを渡すものじゃなくて」、むしろ「失敗したときにどう学ぶかを一緒に考える」ことが大切だと重ねました。こども自身が考え、つまずきから学べるようなヒントや環境を整えるプロセスそのものが、成長を支える土台になるという整理です。
補足
失敗を責めたり禁止したりするのではなく、どうすれば次うまくいくかをこども自身に考えさせることが、問題解決能力を育むと確認されました。
議題
・こどもが発した「やめたい」「しんどい」といった本音を、大人はどう扱うべきか。
要点
・大人が良かれと思って説得することで、こどもの本当の声を上書きしてしまう危険性がある。
・相澤氏は、「聞くことがゴールではない」と真の権利保障のあり方を問うた。
結論
こどもの話をただ聞くだけで終わらせず、「聞いたからには、それをどうするかということまで責任を持って」向き合う姿勢が求められます。こどもが偽りの自分を演じず、安心して本音を言える関係性を築くことが最優先されるべきだという論点が、深い納得感とともに共有されました。
補足
岩朝自身の経験として、「声を聞いていたつもりでも、実際には期待する方向へ寄せてしまっていた」という振り返りが共有され、多くの養育者が直面する葛藤が具体的に浮かび上がりました。
議題
・里親が健やかな養育を続けるための、自己肯定感と支援のあり方について。
要点
・大人の自己肯定感が下がっていると、それがこどもにも伝播してしまう。
・養育者自身が自分を育て、生き生きと生活する姿を見せることが重要である。
結論
里親が孤立することなく、周囲と連携してサポートを受けながら自身の意見を表明できる環境づくりが必要不可欠です。相澤氏が講演でも示した「皆さん自身のウェルビーイングがすごく重要」という視点は、このやりとりの中でも繰り返し確認され、里親が心身ともに健康であることが、こどもへの最良の支援になるという理解へとつながっていきました。
補足
行政や児童相談所とのフラットで対等な「チーム養育」の実現が、里親のwell-beingを左右する大きな要因であることも議論の的となりました。
第3部 参加者からの質問と相澤氏の回答
議題
・施設や里親家庭からの生活環境の移行を、こどもの負担なく進めるにはどうすべきか。
要点
・相澤氏は、「関係がブツリと途切れるのは避けるべき」と、性急な環境移行に懸念を示した。
・大人の都合やシステムの枠組みを優先して、こどもに不安を与える終わり方はすべきではない。
結論
ショートステイや週末の宿泊を段階的に重ね、少しずつ関係を築いていく移行期間を設けることが望ましいと提案されました。これは、里親委託、家庭復帰、自立支援ホームへの移行など、生活の場が切り替わる局面すべてに通じる考え方です。ここでの軸になっていたのは、「関係がブツリと途切れるのは避けるべき」という感覚であり、こどもにとって安心できるペースを守ることが優先されるべきだと確認されました。
補足
環境が変わっても、こどもが抱えるトラウマケアなどは切れ目なく継続される体制が必要であると指摘されました。
議題
・突然の保護や措置変更が行われる際、こどもの意見や権利はどう守られるべきか。
要点
・重大な決定の際には、こどもの意向聴取と丁寧な説明が不可欠である。
・単に意見を聞くだけでなく、それが決定にどう反映されるのか(またはされないのか)のフィードバックが必要。
結論
大人は決定事項をただ押し付けるのではなく、プロセスを丁寧に説明しなければなりません。相澤氏は、もし子どもが納得できない場合には、「納得できなければ、こういうところに相談することもできるよ」と、次の手段や第三者の相談先を明示することが責任であると語りました。
補足
参加者からは、学校で突然保護され、そのまま里親委託解除や措置変更につながるケースが少なくないという具体的な声も共有されました。そうした場面だからこそ、アドボケイト(意見表明支援員)の付き添いを含め、こどもが安心して声を上げられる仕組みが欠かせないと語られました。
議題
・里親が直面する困難に対応するための、より実践的な研修や支援体制のあり方について。
要点
・現在の研修内容が実践に即していない、愛着障害や障害特性の知識が不足しているという課題がある。
・トラブルは夜間に起きやすいため、即座にアクセスできる支援体制が必要である。
結論
到達目標を明確にした実践的な研修システムの構築が急務です。やりとりでは、愛着の課題や障害特性への理解、日々の生活場面での対応など、現場で直ちに役立つ内容が不足しているという指摘がありました。また、トラブルは夜間に起こりやすいため、「その時すぐにアクセスできる」支援、動画やオンデマンド教材、すぐ相談できる窓口など、孤立させない仕組みが必要だという認識が共有されました。
補足
参加者からは、里親の資質向上のために研修の義務化や内容の高度化を求める声も多く上がりました。
議題
・里親は、こどもの実親という存在とどのように向き合い、関係を築くべきか。
要点
・こどもにとって、実親はかけがえのない大切な存在である。
・里親や周囲の大人が実親を一方的に否定することは、こども自身を深く傷つける行為になる。
結論
里親、実親、行政が対立するのではなく、こどもの最善の利益を中心にして対等に協力し合える関係が理想的です。ここでは、実親はこどもにとって「かけがえのない大切な存在」であり、周囲の大人がその存在をどう扱うかが問われました。実親の存在を尊重する姿勢が、結果的にこどもの心の安定に直結することが、静かな熱をもって共有されました。
補足
実親と良好な関係が築ければ、それがこどもの安心感となり、前向きな生活態度に繋がるケースもあると紹介されました。
議題
・第50回という節目のセミナーを通じた、こども支援の基本姿勢の再確認。
要点
・こどもを変えようとするのではなく、大人が自身のあり方や環境を見直すことが重要である。
・周囲の大人が「ともに生き、ともに育ち合う」関係性を築くことが基盤となる。
結論
里親や支援者が孤立せず、周囲の人々と連携しながら生き生きと関わり合う姿勢が、自然とこどもに伝わり、結果としてこどものwell-beingへと繋がっていきます。締めくくりでは、「子どもを中心に私たちが一丸となって手を取り合えたら、それが子どもにとっての最善」という言葉が置かれ、50回の節目にふさわしく、支援の原点にもう一度立ち返る時間となりました。
補足
「子どもを中心に私たちが一丸となって手を取り合えたら、それが子どもにとっての最善」というメッセージと共に、温かな雰囲気の中でセミナーは終了しました。
参考資料
本講演資料およびレポートの作成にあたり、以下の資料を参照しています。
資料:
中央教育審議会 「次期教育振興基本計画について(投信)参考資料・データ集」
今後5年程度を見据えたこども施策の基本的な方針と重要事項等~こども大綱の策定に向けて~(中間整理)(案)より
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