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今回の講演者

安發 明子(あわ あきこ)氏
フランス子ども家庭福祉研究者
フランスでは、里親は「職業」であり、国家資格として認められています。また、親子を分離する前に、できる限り実の親子を支えることを大切にしています。日本とは制度の設計が大きく異なるフランスの里親制度から、日本の里親養育を考えるヒントを探った講演でした。
目次

フランスでは、里親は「家庭家族アシスタント」という国家資格で、ソーシャルワーカー資格のひとつ。支援機関と雇用契約を結び、給与を受け取る「職業」として担います。農業国のフランスでは、農家が自宅で高齢者や障害のある人を受け入れる「家族アシスタント」の形も広く見られるということです。 里親には420時間の研修が義務ですが、2年かけて取得でき、最初の数か月で土台の研修を終えて子どもを受け入れ、その後も学び続けます。安發氏は「受け入れを始めてから学び続けることで講義が実践と結びつく。その期間が1年半以上保証されている」と説明しました。
子どもを受け入れる前から月10万円弱の基礎給与が支払われ、委託がない期間も雇用が続きます。病気のときも給与が下がりにくく、「雇った以上は放置しない」という支援機関の姿勢が、日本のような委託の来ない「待機」状態を生みにくくしています。 また、フランスでは週35時間労働と62歳定年が徹底され、「だからこそ、自分の子どもを育てながら里親をする選択が成り立つ」という指摘は、日本の働き方と里親養育を重ねて考える重い問いかけでした。
研修中に「無理だ」と辞める人も少なくありませんが、安發氏はそれをマイナスと考えていません。心の準備ができた人だけが受け入れられるための時間です。 研修は本人だけでなく家族が対象で、パートナーや実子への情報共有と全員の賛同が重視されます。13歳以上の同居者には無犯罪証明書に加え、暴力の裁判歴がないことを示す「尊敬に値する証明書」の提示も求められています。
働きながら里親になる人が増えている 働きながら里親になる人が増え、コロナ以降は「日々の暮らしを大切にしたい」と、キャリアを積んだ女性の転身が増えているそうです。
面接では「付き添いの日は仕事をどう調整するか」「実親の権利をどう思うか」など場面への向き合い方を尋ね、答えよりも人となりを見ます。共通基準は「実親がどのような人であっても大切に思える人」であること。安發氏は「実親を大事にできない里親は採用しない」という前提が共有されていると話しました。
里親支援機関が日常を支え、里子同士・里親同士の場をつくる 里親支援機関が里親と子どもを日常的に支えます。エデュケーターは週に一度は子どもに会い、水曜日には里子同士・里親同士が集まる場もつくられます。日常の行き違いをわだかまりなく言い合える積み重ねが、関係の微調整につながります。
ソーシャルワーカーには月1回の実践分析が法律で義務づけられ、困難な事例を里親・エデュケーター・心理士が一緒に学びます。心理的なクライシスには心理士や児童精神科医が24時間里親宅を訪問。「里親が一人で抱え込む」ことが起きない仕組みです。
地区ごとの里親リーダーが相談や送り迎えを支え、有給休暇も徹底されます。休みの間は別の里親が子どもを受け入れ、その調整を支援機関が担います。 毎年の継続研修は義務ですが、内容は里親自身が選べます。パリ市では複数の支援機関分の研修をまとめて実施し、質のばらつきを防いでいます。
安發氏が繰り返し強調したのは、実親が支えられていると感じられることが、別居していても子どもの安心の土台になるという視点です。親子分離の時点から在宅教育支援のエデュケーターが実親をサポートし、親と子どもが前向きな意味を見いだせてから分離に入ることで、挫折やトラウマを最小にします。
分離の際には、ニュートラルな場所で両者担当のエデュケーターと心理士が自己紹介し、「これからお互いにサポートするから大丈夫だよ」と伝える「儀式」が可能な限り行われます。また、フランスには「真実告知」という言葉自体がなく、赤ちゃんの頃から起きていることを年齢に合った表現で説明し続け、決して嘘をつきません。大人が準備できていないと子どもは質問できず、ひとりで抱え込んでしまうといいます。
支援機関・児童相談所・親権者・里親・子どもが円卓を囲んで今後半年を話し合い、2〜3歳になれば子どもも参加してサイン(名前の記入やマーク等)します。実親との初回面会で好きな食べ物や生活習慣を丁寧に聞き、朝食や洗剤のメーカーまで合わせて里親宅でも実家の暮らしが感じられるようにします。実親は「親でい続けられる」ことに安心し、髪型やお泊まりなどは実親が決めます。
フランスの親権は「決める権利」ではなく「愛情と教育を与える義務」を意味し、里親はその義務を共に担う「プラス」の存在です。歩いて通える範囲の「週末里親」の提案が義務で、近年はなじみのある人への「第三者委託」も増えています。安發氏は「暴力は家庭で最も起きやすいこと、身体的暴力だけでなく支配やコントロール、期待をかけることも暴力であることを踏まえ、その家庭が開かれているかどうかが大事」と述べ、子どもが相談できる人をどれだけ確保できるかが重要だと話しました。
フランスの里親会は、支援機関を超えて職業としての専門性を自ら発展させ、毎週実践を話し合い、研修や研究会で提案書を提出します。安發氏は、当事者による発信が制度改革を後押ししたと指摘しました。
近年は第三者委託やボランティア里親の拡大、キャリアウーマンの里親転向が進み、専門職としての関わりと家族としての愛情のバランスがテーマです。一方で「職業化が進みすぎるのではないか」という問いも。安發氏は「知識は必要だが、それだけでは足りない。愛情とのバランスを調整するのが里親支援機関のエデュケーターの役割になりつつある」と語りました。 16〜21歳には自立支援アパートが提案されますが、早く移り生活が乱れるケースもあり里親側から疑問の声も。未成年の母と子は、意見が食い違いやすいことから専門職チームが支える親子支援施設へ移行しています。

後半は、寄せられた質問をもとに、安發氏と進行役の相澤仁氏、主宰の岩朝しのぶが、日々の現場で悩みやすいテーマをめぐって意見を交わしました。
<質問>
フランスは親子分離を避け、いかに永続的な家庭を保障するかに力を入れていると感じました。仕組みづくりの工夫について教えてください。
<講師・進行役の意見>
里親支援機関が十分にない地域では、オンライン研修に加えて24時間の電話対応を行う支援機関が効果を上げている。全国に1か所あれば、田舎に住んでいても里親の質の差や情報の更新不足を防げる。
実親の支援は、分離したあとがむしろ重要。暴力をふるった親も、自分自身が被害を受けてきた人がほとんどで、その認識に至って初めて子どもに向き合える。時間がかかるからこそ、分離直後からの集中的な支援が必要。
子どもは自分から被害を訴えられるとは限らない。虐待の有無ではなく、「子どもにとって必要なニーズが満たされているか」を基準に判断するガイドラインが国から出ており、支援者はそれをもとに見立てを行う。
「親のウェルビーイングをちゃんと考えないと、子どものウェルビーイングにはつながらない」。何歳になっても、子どもは親のことを心配し続けます。
<まとめ>
実親への支援は「子どものための支援」でもあるという視点が、参加者全体で深く共有されました。
<質問>
学校での受け入れられ方は日本とどう違いますか。ライフストーリーワークはどのよう に行われていますか。
<講師・進行役の意見>
フランスでは里親家庭に委託される子どもが社会の中に広く分散しているため、クラスの中に里子がいることが珍しくない。「家でつらい思いをするより、里親のもとでの暮らしも経験したい」と、子ども自身が学校に相談して一時保護につながる例もある。 学校の書類は「父・母」ではなく「親1・親2」と記載される。学校や医療との連絡は基本的に里親支援機関を通して整理され、里親が一人で抱え込まないようにしている。 ライフストーリーワークは「わざわざ名前を付ける」ものではなく、日常のなかで当たり前に行われている。分離のとき、できればその前から、なぜ別々に暮らすことになったのかを丁寧に説明し、子どもの歴史と家族を理解できるように支える。 わからないことを一人で抱えると、それが「子どもにとっての荷物」になる。少しでも身軽に生きられるようにしよう、という考え方が共有されている。 家庭の細かな事情が支援者に伝わってしまうことは、里親にとっては難しい面もあ る。その代わり、誰も一人で抱え込まない体制になっている。
<まとめ>
特別な支援として切り出すのではなく、暮らしのなかに当たり前にあるライフストーリーワークの位置づけの違いが浮かび上がりました。子ども自身を「知らないことを抱えた存在」にしないための、日々の説明の積み重ねが重視されています。
<質問>
フランスの生活リズムや食育、教育について教えてください。子育ての考え方で日本と 大きく違う点はありますか。
<講師・進行役の意見>
フランスは3歳から義務教育で、登校は8時30分から16時30分まで。小学校1年生から1日3時間の国語、1時間の算数と座学が多く、日本のように工作や手芸など多様な体験をする機会は少ない。 その一方で、「心理的社会的能力」自分が感じていることを自覚し、書いたり言ったりでき、マイナスの感情を抱えたままにせず解決方法を考えられる力が、学習と同じくらい重視されている。 大人は子どもを守るために前に立つのではなく、後ろについていき、子どもがしたい 経験をするのを見守る。安全基地があるからこそ子どもは冒険できるという考え方。 子育ての情報も、ネットに「こうしないとこうなる」と書いてあるのではなく、「専 家に聞くように」と示される。保健センターにいつでも行ける安心感があり、保育施設に心理士が定期的に待っていて、日常のなかで自然に相談できる。
「相談しない人は、相談してよかったと思えた経験が十分にないから」。相談してよかったと思える支援者でいることの大切さが語られた。
「合わせること」を求めるのではなく、自分が感じていることを言葉にし、主体的 に選べるようにする。そして、親自身にも「安全基地」があること。子どもの育ちを 支える前提として、支援の場がどうあるべきかが問いかけられました。
<質問>
日本では、シングルの里親は登録していても委託が来にくい状況があります。フランスではシングルでも里親になれますか。
<講師・進行役の意見>
フランスではシングルでも里親になれる。離婚を経て新たなパートナーと出会う人 もおり、家族の形は変わっていくものという前提がある。 重要なのは給与を支払う仕組み。委託がない期間が続けば雇用としての見直しが生じるため、支援機関には「雇った以上は放置しない」というエンゲージメントが働く。日本では登録里親の約3分の2が委託を受けていない状態にあることが課題として共有された(セミナーでは委託率23.5%前後という日本の現状が示された)。対策として、待機している里親にショートステイやボランティア里親としての経験を積んでもらい、実際の場面で力量をつけながら委託につなげていくことが提案された。フランスでも、ボランティア里親は少ない研修しか受けていないが、複数の専門 職の目がある場で経験を積んでから受け入れている。 一人で抱えず、グループのなかで学び続けることが大切。ベテランでも「あのときの 関わりでよかったのか」と考え続ける機会が必要で、里親サロンのような場の役割も大きい。
<結論>
「養育者としてのプロ」をどう育て、どう支えるか。給与と研修、そしてチームでの 継続的な学びを組み合わせてきたフランスの仕組みは、日本の里親支援機関が整備されつつある今、参考になる点が多いという意見が出されました。
<質問>
16歳で委託され、不適切な環境から保護されたために生活習慣の形成や学校復帰に課題を抱える子どもへの養育に、どのように向き合えばよいか。
<講師・進行役の意見>
背景の理解なしに関わり方は決められないため、児童相談所や里親支援機関を交えてカンファレンスを行い、アセスメントと支援計画を丁寧につくり直すこと、3〜4か月ごとに本人の意見を聴取しながら更新していく重要性が助言されました。
「相談しない人は、相談してよかったと思えた経験が十分にないから」。相談してよ かったと思える支援者でいることの大切さが語られた。
「合わせること」を求めるのではなく、自分が感じていることを言葉にし、主体的 に選べるようにする。そして、親自身にも「安全基地」があること。子どもの育ちを 支える前提として、支援の場がどうあるべきかが問いかけられました。
そして最後に、安發氏は「開かれた家庭」であることの重要性を強調しました。暴力が 最も起きやすいのは家庭であり、次が学校です。身体的暴力だけでなく、支配やコントロール、期待をかけることも暴力になり得ます。里親家庭だから安心ではなく、その家庭が開かれているかどうか、子どもが相談できる人を周りにどれだけ持てるかどうか。それが、子どものウェルビーイングを支える土台になるという言葉で、講演と質疑 応答は締めくくられました。
今回の講師 安發 明子(あわ あきこ)氏の取り組みについて、より詳しく知りたい方は、以下のページもぜひご覧ください。支援の背景や具体的な実践内容を、より深く知ることができます。
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