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今回の講演者

黒川 洋司氏
株式会社良心塾 会長取締役 / 一般社団法人りょうしん塾 塾長
今回のONE LOVE里親セミナーでは、少年院出院者や刑務所出所者の支援を行う黒川洋司氏を講師に迎え、現場から見えてくる課題と、そこにどう向き合うかについて学びました。講演では、「住居」「就労」「教育」を柱とした包括的な支援の実践を踏まえながら、現場で出会ってきた子ども・若者たちの姿を通して、「生きる力を育む心のスポンジプログラム」を紹介いただきました。
印象的だったのは、問題行動だけを切り取って見るのではなく、その背景にある虐待経験、愛着形成の困難、情報や経験の乏しさ、そして凝り固まりやすいものの見方に目を向ける必要性です。生きづらさを抱える子どもや若者にとって必要なのは、単に正しい行動を教えることではなく、自分の感情や考え方と向き合いながら、少しずつ別の見方や選択肢を持てるようになること。その積み重ねが、「生きる力」につながっていくという視点が共有されました。
目次
黒川氏は、支援の現場に入る前、自身の経験も重なり、少年院に行く子どもたちに対して「やんちゃな子」「非行に走った子」というイメージを持っていたと振り返りました。ところが実際に出会ったのは、虐待を受け、家庭の安心を十分に得られず、帰る場所のないまま育ってきた子どもや若者たち。そこで見えてきたのは、行動の背景にある深い傷つきでした。
講演の中では、自傷行為を繰り返す子、出院後の生活に強い不安を抱える子、誰かに必要とされる経験が乏しい子など、さまざまな事例も紹介されました。問題行動だけを切り取れば「困った子」と見えてしまう場面でも、その奥には、安心できる関係や環境を持てなかった歴史がある。その視点の転換が、支援の出発点になるという内容でした。
また、現代の非行の背景には、かつてのような反社会的な勢いだけではなく、孤立、無力感、自己否定感といった「弱さ」の問題が色濃くあることも印象的でした。「なぜそんなことをしたのか」と責める前に、「何を抱えてここまで来たのか」を見立てることの重要性。支援の土台となる視点です。
講演では、乳幼児期の愛着形成がその後の育ちに大きく関わることにも触れられました。無条件に受け入れられる経験があるかどうか。その違いが、対人関係、感情の調整、物事の受け止め方に長く影響していくという視点です。子どもの行動を理解するうえで欠かせない前提といえます。
さらに、少年院在院者の中には境界知能に該当するケースが少なくないという話題も共有されました。これは、本人が「分かっていて反抗している」とは限らないということでもあります。先を見通す力、別の選択肢を考える力、気持ちを言葉にする力。そのどれもが十分に育っていない場合、周囲の大人には、叱責よりも丁寧な理解と支えが求められます。
虐待や慢性的な緊張状態が脳の働きに影響し、衝動を抑えることや冷静に考え直すことを難しくしてしまう可能性にも言及がありました。繰り返される行動の背景にあるものは、意志の弱さだけではない。認知の特性、経験不足、安心の欠如。そうした複数の要因を重ねて理解する必要があります。
黒川氏が紹介した「心のスポンジプログラム」は、硬く固定された思考や反応の癖を少しずつやわらげ、新しい見方や選択肢を持てるようにしていく教育プログラムです。問題を表面的に抑え込むのではなく、本人の中に生きる力そのものを育てていく発想が大きな特徴です。
ここで示されたのは、「変わる」よりも「成長する」という捉え方でした。過去の自分を否定して別人になるのではなく、今ある自分の器を少しずつ広げていくこと。その積み重ねが、人との関わり方や社会での生き方を変えていくという考え方です。
文句を言うだけで終わっていた人が提案できるようになる。感情に飲み込まれていた人が、一度立ち止まり、考え直せるようになる。そうした変化を、黒川氏は「脳の回路が増える」というイメージで説明していました。再犯防止のためだけではなく、その人が社会の中で役割を持ち、自分の足で生きていくための支援。まさに「生きる力」を育む取り組みです。
また後半では、個別支援を超えて、社会全体のあり方にも話が広がりました。黒川氏は、かつて地域や親族が担っていた子育てが、今は親だけに集中しやすくなっていることを指摘しました。その孤立が、虐待や生きづらさの背景にもなり得るという問題提起です。
そこで強調されたのが、「子どもファースト」という視点でした。子どもを真ん中に置くことは、子どもだけを優先するという意味ではありません。親世代、高齢者、地域の人たちを含めて、社会全体のつながりを立て直していくこと。その先に、子どもたちの安心や未来があるという考え方です。
良心塾の取り組みとして紹介されたのは、住まい、仕事、教育、そして居場所の提供。制度の枠組みだけでは支えきれない部分を、地域の実践で補っていく姿勢が伝わってきました。困ったときに相談できること、受け止めてくれる大人がいること、所属できる場所があること。その積み重ねが、再スタートを支える土台になります。
参加者から寄せられた問いをもとに、講師の黒川洋司氏とファシリテーターが意見を交わしました。ここでは、高齢児委託や試し行動への向き合い方、自己肯定感を育てる関わり、家庭的なつながりの意味、支援する大人の姿勢など、日々の養育や支援の現場で特に悩みやすいテーマについて、印象的だったやり取りを紹介します。
<質問>
年齢が高くなってから家庭につながる子どもや、強い試し行動を見せる子どもに対して、里親や支援者はどのような姿勢で関わるべきでしょうか。
<講師・進行役の意見>
<結論>
やり取りの中では、子どもの行動をすぐに矯正しようとするのではなく、その背景にある不安や傷つきを理解しながら、大人側がぶれずに関わることの大切さが繰り返し確認されました。子どもにとって必要なのは、正しさを教え込まれること以上に、「この人は自分を見捨てない」と感じられる関係性です。その積み重ねが、試し行動の奥にある不安を少しずつやわらげていくことにつながります。
<質問>
傷つき体験の多い子どもに対して、自己肯定感や安心感を育てていくために、里親や支援者はどのような関わりを大切にすべきでしょうか。
<講師・進行役の意見>
<結論>
やり取りの中では、子どもにとって本当に必要なのは、「何ができるか」と切り離された存在承認であることが共有されました。成果や役割によって価値を測られるのではなく、「あなたはそこにいるだけで大切な存在だ」と受け止められる経験。その積み重ねが、自己肯定感や他者への信頼を少しずつ育てていく土台になります。
<質問>
家庭の中で安心して過ごした経験が乏しい子どもや若者にとって、「家庭的なつながり」や「帰れる場所」は、どのような意味を持つのでしょうか。
<講師・進行役の意見>
<結論>
このやり取りでは、子どもたちにとって「家庭的なつながり」が持つ意味の大きさが改めて確認されました。単に生活の場が確保されることではなく、困ったときに戻れる場所があること、自分を気にかけてくれる大人がいること、その実感が生きる力を支える基盤になります。里親や地域の大人が果たす役割の重さを、あらためて感じさせる内容でした。
<質問>
子どもの課題や不安定な行動に向き合う中で、里親や支援者自身は、どのような姿勢や心構えを持つことが求められるのでしょうか。
<講師・進行役の意見>
<結論>
質疑応答を通して印象的だったのは、子どもの行動や変化だけではなく、大人の側のあり方も常に問われていたことです。感情的に揺さぶられる場面でも、まず大人が落ち着いて受け止めること。すぐに答えを出そうとせず、その子に合った支え方を一緒に探していくこと。そうした姿勢の積み重ねが、子どもにとっての安心につながり、支援の質そのものを支えていくことが確認されました。
今回紹介された「りょうしん塾」の取り組みや、「心のスポンジプログラム」について、より詳しく知りたい方は、以下のページもぜひご覧ください。支援の背景や具体的な実践内容を、より深く知ることができます。
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