子どもの社会問題

近年、宗教虐待の問題が注目されており、専門家や社会福祉関係者が実態を調査する機会が増えています。調査結果によれば、宗教的な理由での家庭内暴力や教育の放棄、医療の拒否など、多岐にわたる問題が浮き彫りになっています。こうした問題は、被害者の精神的・身体的な成長や社会的な自立に深刻な影響を及ぼすことから、社会全体で理解し、対応策を考えていくことが求められます。

本記事では、宗教虐待の定義や実態調査の結果を紹介します。

宗教虐待とは、宗教や信仰の名のもとに行われる力の行使を指すのが基本で、宗教団体や人間関係の中などで見られます。日本では、カルト宗教の問題や「宗教二世」の人権問題として取り上げられることが多いですが、医学的にはより広範な概念に含まれるとされています。

2024年11月現在、日本の法律では宗教虐待についての明確な定義はありませんが、最近では宗教二世による提言などが活発化しています。

宗教の教義を利用した心理的操作も虐待の一種とされており、特に子どもや心の弱った状態にある人が対象になることが多く、善意・悪意の別なく発生しています。

たとえ悪意のない宗教虐待でも、被害者が恐怖症や長期間のうつ状態を引き起こすなど、心理的な悪影響が生じる可能性があります。宗教を離れた後でも、恥や罪悪感などが残ることがあり、医療的治療を拒んだり自傷行為に及んだりするケースもあるとされています。

こども家庭庁は、保護者の宗教信仰に関連した児童虐待の実態を明らかにするため、昨年度に全国の児童相談所や学校を対象とした初の調査を実施し、その結果を2024年4月26日に発表しました。

調査結果によると、全国の児童相談所の約16％にあたる37か所が、一昨年4月から昨年9月までの1年半の間に、宗教に関連した虐待と判断したケースがあったと報告しています。これらの事例は合計で47件に上り、そのうちの約4割にあたる19件では、一時的な保護措置が取られたとされています。

虐待の具体例としては、「言葉や映像、資料を用いて恐怖心を植えつけたり、子どもの意思を強く制限する」が最も多く報告されています。続いて、「人前で宗教を信仰していることを表明させることを強要する」「言葉での恐怖の扇動や脅迫、拒絶的な態度を示しながら、宗教活動を強制する」「宗教活動への参加などが原因で子どもの養育が疎かになる」といったケースが多かったとされています。

その他にも、「宗教活動による金銭の浪費から、適切な住居や衣服、食事を提供しない」「医療機関への受診や、医師が必要と判断した輸血などの治療を拒否する」なども見られました。

さらに、救命救急センターのある医療機関を対象にした調査では、過去3年間に「受診を拒否させる」「医師が必要と判断した輸血を行わせない」といった虐待に該当する事例が少なくとも20件確認されました。その中には、輸血拒否による骨髄移植の中止で13歳の子どもが命を落としたケースも含まれています。

また、宗教を信仰する親を持つ「宗教2世」28人に対して行った聞き取り調査や書面での調査では、約半数が虐待経験について誰にも相談できなかったと回答しています。理由として「虐待に当たるかわからなかった」「相談先がわからなかった」「相談後の不安があった」などが挙げられました。

加えて、国が定めた宗教に関する虐待対応ガイドラインについて、小中学校や高校を対象に認知度を調べたところ、「内容を十分に理解している」と答えたのは約2割にとどまりました。こども家庭庁は今後、文部科学省などと連携し、子どもが支援を求めやすい環境づくりを進めていく方針です。

参考：三菱UFJリサーチ&コンサルティング「保護者による宗教の信仰等に起因する 児童虐待に関する調査研究 報告書」