預かった里子に
・友達に暴力をふるう、暴言をまき散らす
・大人に対して反抗的な態度を取る
・激しいかんしゃくを起こしたり、泣き出したら止まらない
・落ち着きがない
・ぼーっとしていることが多い
・拒食や過食が見られる
などの問題行動が見られることもあります。
このような問題行動の裏には、虐待経験があることも少なくありません。
児童養護施設で働いていた経験を持つ、立教大学の浅井春夫名誉教授は「児童養護施設の子どものおよそ6割は家庭で虐待された経験がある」とも話します。
実親や親族など、身近な養育者から日常的に繰り返される虐待は、子どもの発達に深刻な影響を与えます。また、虐待経験がない場合でも、子どもにとって委託されるということは、実親から引き離される心に深い傷を負う経験なのです。
これらのトラウマ体験が子どもにとって、
・どのような意味があるか
・どのような影響を与えるか
を最低限理解し、その対処法について学んでおくことは、委託を受ける上でとても大切なことです。
今回の記事では、子どものトラウマの特徴についてお伝えします。
トラウマとは、個人が持っている対処法では、対処できないような圧倒的な体験をすることによって被る、著しい心理的ストレス(心的外傷)のことです。下記に示すようなさまざまな出来事がトラウマの原因となります。
●子どもの虐待
●暴力や犯罪被害:通り魔・誘拐・監禁・リンチ・暴力の目撃など
●レイプなどの性被害・年齢不相応な性的体験への曝露 など
●戦争・人為災害・自然災害およびそれに関連した身体的外傷
●交通事故:自動車・鉄道・飛行機事故など
●重い病気・やけど・骨髄移植 など
●家族や友人の死の直接的な体験、その他の喪失体験 など
同じ出来事でも、その受け止め方や対処能力には個人差があり、ストレスとなる出来事に遭遇したすべての人にトラウマが生じる訳ではありません。
特に子どもの場合、ある出来事が子どもにとってトラウマになるか否かは、養育者と子どもの関係性が重要となってきます。子どもは、非常に危機的な状況であっても、事件を目撃せずに済んだり、大人に抱かれていて安心感があったり、保護者が落ち着いて行動していた場合は、つらい思い出として残っても、その時の感情や感覚は時間が経つうちに薄らいだり、当時とは異なるものに変質していったりして、トラウマにはなりにくいのです。
しかし、トラウマ体験の中でも、虐待、犯罪、いじめなど、人への信頼が損なわれる出来事は、子どもに極めて深刻な影響を及ぼすことが少なくありません。加えて、自分では対処できないような出来事に遭遇した時に、子ども自身が危険な状態であることを認識していること、極度の無力感を感じていること、さらにその時のつらい記憶が保持されることで、トラウマは生じやすくなります。
また、子どものトラウマには注意しないといけない点が他にもあります。そのひとつが「トラウマのパラドックス」です。
外的な力によってケガをするという意味では、身体的外傷とトラウマ(=心的外傷)には良く似ている点が多くありますが、実はこの2つには大きく異なるところがあります。通常、身体的外傷の場合は、ケガの程度が重いほど、本人の苦痛は大きく、他者から見ても具合が悪そうに見えます。しかし、トラウマは、そうとも限りません。
トラウマ体験後に生じる症状のひとつに「回避」があります。「回避」とは、トラウマ体験の記憶がよみがえることがとてもつらく苦痛であるために、その出来事を思い出させる人・物・場所を避けたり、思い出さないようにしたり、話さないようにしたりするという症状のこと。
この「回避」が強くなると、「つらさのあまり、感情が麻痺して苦痛を感じない」「トラウマ体験の記憶を思い起こすことができなくなる」ということがあります。それは、子ども自身が苦痛や不具合を訴えないということにもつながります。
つまり、トラウマにおいては、「ケガの程度が重いほど、子どもは一見平気そうに見える」というパラドックスが生じます。この状態を「トラウマのパラドックス」と呼び、特に子どものトラウマ体験への自責感が強いほど現れやすくなります。
国立成育医療研究センター(2011)『子どものトラウマ診療ガイドライン』
文部科学省『在外教育施設安全対策資料【心のケア編】第2章 心のケア各論』
白川美也子(2020)『子どものトラウマがよくわかる本』(講談社)
亀岡智美(2020)『子ども虐待とトラウマケア』(金剛出版)
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