本来、自分を愛し、守ってくれるはずの親から虐待を受ける、見捨てられたと感じる経験は、子どもの心に非常に大きな傷を残します。その傷は、自分や自分を取り巻く世界への認知を歪め、対人関係にも大きな影響を与えます。
子どもの様々な問題行動は、実は虐待や喪失などの子ども自身では抱えきれない経験への適応反応であることがほとんどです。「問題行動の意味」や「子どもがどう感じているか」について学ぶことで、子どもを支え、さらなる傷つきから守ってあげられるような対応を身に付けることが大切です。
この記事では、トラウマ体験により引き起こされるPTSDの具体的な症状についてお伝えします。
PTSDという言葉を聞いたことがある方も多いと思います。PTSDはPosttraumatic stress disorderの略で、日本語では心的外傷後ストレス障害と訳されます。日本では阪神・淡路大震災を機に広く知られるようになりました。自分では対応できないような圧倒的な体験(トラウマ体験)により引き起こされます。
PTSDの主な症状としては、
・侵入
・過覚醒
・回避・麻痺
などがあります。
侵入症状とは
トラウマ記憶が不意によみがえる症状で、フラッシュバックや悪夢を見るといった形で現れます。フラッシュバックは、突然つらい記憶がよみがえること。トラウマの原因となった体験を今まさに体験しているかのように生々しく思い出されることがあります。これには、トラウマ体験の記憶のされ方が特殊であることが関係しています。
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トラウマ記憶は冷凍保存される
トラウマは「自分で対処できない圧倒的な出来事」によって生じます。
そのような出来事から自らを保護するために、心はその体験にまつわるすべての記憶
・光景や音、匂いなどの五感
・感情
・その際に抱いた考えや思い など
をひとまとめにして、瞬間的に冷凍し、意識の他の部分から切り離します。
通常の記憶は基本的には自分で思い出したい時に思い出せ、また時間と共に内容が変わることもあります。しかし、トラウマ記憶は、通常の記憶とは隔離された記憶のネットワークに、瞬間冷凍されているため、その「鮮度」はずっと変わらず保たれ、時間の経過とともに変化することはありません。
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トラウマ記憶は、思い起こすのに苦痛が伴います。睡眠中に、侵入症状が起こった場合、悪夢や夜驚(悪夢に反応して強い恐怖が生じ、激しく泣く)という形で現れることもあります。
過覚醒症状とは
神経が過敏になった状態で、「寝るのを嫌がる「途中で何度も起きる」など睡眠障害を引き起こしたり、「集中できない」「ちょっとしたことにも、ひどく驚く」などの症状が現れます。特に虐待を受けた子どもは周囲の刺激に反応しやすく、非常に落ち着きのない状態になることがあります。この状態を見て、注意欠陥多動性障害(ADHD)の診断を受けることもあります。
回避・麻痺性の症状とは
トラウマの原因となった「体験を思い出させるような会話や人、場所を避ける」「その体験の記憶があいまいになる」「感情がわかなくなる」などの症状のこと。虐待を経験した子どもが、その体験や家族の話をまったくしないことは珍しくありません。それも、この回避・麻痺性の症状によるものではないかと考えられるケースがあります。
また、小さい子どもの場合は、「ひきこもる」「赤ちゃん返りを見せる」などの現れ方をすることもあります。
上記のPTSDは、自然災害や交通事故など、1回のトラウマ体験でも引き起こされるものです。しかし、家庭内DVや子ども虐待など、日常的に繰り返されてきた出来事で生じたトラウマによるPTSDはより複雑な症状を示します。これは、「複雑性PTSD」もしくは、より包括的な概念として「発達性トラウマ障害」と呼ばれます。
主な症状は、上記の3つに加え
・愛着障害に起因する対人関係の問題
・感情や感覚の調節障害
・ネガティブな自己概念
・非行など様々な逸脱行動
が上げられます。
養育者的な立場にある大人に対して、挑発的な言動を取る
→虐待的な環境に育つことで、虐待的な人間関係パターンを学んでしまい、無意識にそれを再現しようとしているのかも?
自傷行為
→自分の心や身体に起こった理由のわからない不快感を、外からの強い刺激によって吹き飛ばしてしまおうとしているのかも?
ネット依存・ゲーム依存
→つらいこと、嫌なことを思い出すのを回避するためなのかも?
グロテスクなものに夢中になる
→虚構の中で恐怖を得ることで、リアルな恐怖を薄れさせようとしているのかも?
依存的な問題行動を理解するのに一助となるのが、依存症における「自己治療仮説」という考え方です。心理学者・カンティアンにより提唱された説で、「依存症者が依存にふける理由は苦痛を避けるためであり、自分で自分の落ち込んだ気分を直そうとする、いわば自己治療なのではないか」というもの。
どんな問題行動も「面白い」「気をひきたい」というだけで繰り返されるわけではなく、その子どもなりのトラウマに対する精一杯の対処行動なのかもしれません。
だからこそ、叱ったり罰を与えたりすることでは、その行動は止まりません。子ども達にとって必要なのは、「助けて」と言えるようになること。それを可能にする環境を整えてあげることが、里親には求められています。里親だけでは難しいことかもしれません。ぜひ、児童相談所やオンライン里親会などを活用して、対応してもらえればと思います。
西澤哲(2009)『虐待というトラウマ体験が子どもに及ぼす心理・精神的影響』
独立行政法人 国立病院機構 さいがた医療センター『自己治療仮説と生きづらさ』
白川美也子(2020)『子どものトラウマがよくわかる本』(講談社)
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